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中国 急速に変化する医薬品の保険償還|DRG海外レポート

更新日

米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回は、医薬品の保険償還をめぐる中国の動きを紹介します。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

償還薬と必須薬のリストを整備

中国では、裕福な中間層が急速に増えている一方、医療におけるアクセスと償還の問題は解消されていない。中国国民14億人の約95%は政府の公的保険に加入しているが、自己負担が重い上、価格の高い革新的な医薬品は対象にならないことが多く、十分とは言えない。

 

中国は2000年に国家医療保険償還医薬品リスト(NRDL)を、2009年に国家必須医薬品リスト(NEDL)を整備した。その狙いは、国民皆保険を実現すること、そして、全国民に手頃な値段で基本的治療を届けることにある。

 

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NEDLは、一般的な疾病の治療に使われる医薬品のリストで、公的病院や診療所にはこのリストに掲載された医薬品の備蓄が義務付けられている。

 

NRDLは公的保険で償還可能な薬のリストだ。NRDLは2つのカテゴリーで構成されており、カテゴリーAは従来型の後発医薬品で全額払い戻される。カテゴリーBにはより高価な薬が含まれるが、省政府の払い戻しで自己負担は10%と軽い。各省はNRDLに基づいて省の償還医薬品リスト(PRDL)を作成する必要があり、カテゴリーBの薬の数は地域のニーズに応じて15%の範囲で調整することが認められている。

 

ただ、国家医療保障局(NHSA)は最近になって、保険システムの一元化を提案した。これが実現すれば、PRDLは事実上廃止となり、省政府の自由は失われる。

 

リスト収載の見返りに値引き交渉が可能に

衛生部(MoH)は当初、NRDLを2年ごとに更新することを計画していたが、実際に行われたのは2000年と2017年の2回だけ。がんなどのアンメットニーズの高い疾患に対する治療薬、特に欧米市場で承認・償還されている高価格薬剤への適用は制限されていたが、2017年の更新(NRDL第3版)では、そうした治療薬を販売するメーカーとカテゴリーBへの収載に対する見返りとして値引き交渉ができるようになった。

 

Blur of drugs in the pharmacy store

 

対象となったのは、臨床的にも商業的にも価値の高い44の医薬品で、市場を独占していたものがほとんど。結果的に、このうち36の薬剤が平均44%の値引きでNRDLに収載され、患者は10~20%の自己負担で使えるようになった。36薬剤のうち31の薬剤は欧米のもので、適応症はがんや希少疾患、心血管疾患、糖尿病などさまざまだ。

 

注目されるのは、これとは別に2018年に同様の交渉プロセスを経て17の抗がん剤がNRDLに収載されたことだ。このうち10の薬剤が承認されたのは、2017年のNRDL更新のあと。最近の発表によれば、2019年の改訂に向けた交渉が8月に行われるという。MoHはようやく、2年ごとに更新するとした当初の約束を果たそうとしているらしい。

 

リスト収載のプロセスは不透明

新たな交渉システムが設けられたことで、高価格の革新的治療薬に対する患者のアクセスは向上した。メーカーとしても、自社の薬剤が中国でより多くの患者を獲得することが期待され、そうなれば、たとえ値引きをしたとしても利益の増加が見込めるだろう。

 

この交渉プロセスは、革新的治療薬へのアクセスを向上させる取り組みとして、多国籍メーカーだけでなく、中国国内の患者や医師からも評価されている。ただ、メーカー側は一方で、制度が閉鎖的で収載への道筋が見えにくいとも感じている。NDRLへの収載に公式の申請プロセスがないのはその一例だ。

 

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候補となる薬剤の選択は、中国政府の官僚と医師、薬剤経済学者からなる諮問委員会が行っており、メーカーが口を挟むことはできない。候補に選ばれたとしても、諮問委が設定した基準を15%以上下回る価格を提示しなければ交渉に進むことはできず、再交渉の余地はない。

 

交渉対象となる薬剤の選択にメーカーが関与することはほぼ不可能。とはいえ、交渉対象に選ばれるための間接的な取り組みはできる。交渉対象となるのは、臨床的価値が高く、アンメットニーズに対応していることに加え、薬剤経済学的に有利なプロファイルを持ち、医師もある程度使い慣れていて不安なく使える薬だ。

 

したがって、メーカーは、医師や薬剤経済学者に働きかけ、自社製品の臨床的ベネフィットとコストパフォーマンスをはっきりと提示しなければならない。さらに、任意で値引きを行ったり、患者支援プログラムを展開したり、バリューベースの価格設定を行ったりすることで、市場への浸透を促し、認知度を上げ、価格交渉の意思を示すこともできるだろう。

 

中国のようにパイの大きい市場では、値引きによって販売が伸びれば、利益率の低さは相殺できる。

 

カプセル錠を飲む人

 

柔軟なマーケティング戦略が求められる

中国政府は、税制上の優遇措置を設け、国民に民間保険への加入を勧めている。メーカーは、民間保険業者にアプローチし、各保険業者のフォーミュラリーへの収載を確保しようとするだろう。さらに、地域の専門家やオピニオンリーダーと交流し、省の重度疾患保険(SDI)計画に含めてもらうことを目指すという方向性もある。SDI計画は、NRDLやPRDLから漏れがちな生命に関わる高額な薬剤の一部について、その費用の70%をカバーする可能性がある。

 

こうした取り組みを行えば、国レベルのリスト収載に必要な市場での存在感を示し、医師の信頼を得ることができるだろう。

 

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中国は、アクセスと償還の環境整備に向け、実効性の高い策を講じている。一方で、そのシステムの透明性を高め、メーカーにとっても使いやすいものにするには、より一層の改革が必要だ。

 

例えば、公式の申請プロセスを確立し、NRDLへの収載に明確なガイドラインを設けることなどが挙げられる。そうしたプロセスを踏めば、メーカーは自社製品のメリットを堂々と示し、当局側でも収載や除外を公正に判断できるようになるだろう。そうなるまで、メーカーがNRDLへの収載を勝ち取るには、より柔軟でクリエイティブなマーケティング戦略を打ち出していかなければならない。

 

(原文公開日:2019年8月8日)

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。

 

【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ日本支店
斎藤(カスタマー・エクスペリエンス・マネージャー)
E-mail:ssaito@teamdrg.com
Tel:03-6625-5257(代表)

 

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