大日本住友製薬が、重点領域と位置付けるがん領域の立ち上げに苦戦しています。ブロックバスターとなることを期待したナパブカシンは、胃がんに続いて膵がんでもフェーズ3試験に失敗。2022年度の目標売上高6000億円のうち900億円をナパブカシンで稼ぐとした中期経営計画のシナリオにも狂いが生じています。
ナパブカシン 膵がんでもP3試験失敗
大日本住友製薬は7月2日、抗がん剤ナパブカシン(開発コード・BBI608)の膵がんを対象とした臨床第3相(P3)試験(CanStem111P試験)を中止すると発表しました。独立データモニタリング委員会から「試験を継続しても有効性を示す可能性が低い」として中止勧告を受けたため。安全性上の新たな懸念は示されなかったといいます。
ナパブカシンは米子会社ボストン・バイオメディカル(BBI)が創製。大日本住友は、がん領域への参入を目指して2012年にBBIを買収しました。ナパブカシンは、がんの幹細胞性に関わる経路を阻害することで再発や転移を抑制するとされ、大日本住友はブロックバスターになると期待しています。
過去には胃がんの開発も中止
ただ、開発は思うように進んでいません。14年には、結腸直腸がんに対する単剤療法の国際共同P3試験(CO23試験)を事実上中止。17年には、「胃または食道胃接合部腺がん」を対象とした国際共同P3試験(BRIGHTER試験)も失敗しました。いずれも独立データモニタリング委員会が有効性を示す見込みは低いと判断したためで、大日本住友はこれら2つの適応での開発を断念。BBI買収当時に「最速で2015年」としていた発売目標は、繰り返し延期を余儀なくされています。
22年度に900億円の売り上げを想定していたが…
ナパブカシンは今も複数のがん種を対象に開発が進められており、最も進んでいるのが結腸直腸がんに対する併用療法。現在、日米でP3試験(CanStem303C試験)を実施中で、今年6月には独立データモニタリング委員会が試験継続にゴーサインを出しました。今は結腸直腸がんで21年度の発売を目指しており、大日本住友は同試験の成功に全力を注ぐ考えです。
とはいえ、膵がんのP3試験失敗はナパブカシンの売り上げ見通しに大きな影を落とします。同社は18~22年度の中期経営計画で、最終年度の目標売上高6000億円のうち900億円をナパブカシンで稼ぐことを想定していました。膵がんでの売り上げが見込めなくなったことで、このシナリオは大きく崩れています。
「手を緩めるつもりはない」
ただ、大日本住友は現時点では中計を見直す考えはなく、ほかの開発品やM&A・ライセンスインによる化合物の獲得で穴埋めする方針です。中計では、「精神神経」「がん」「再生医療」の重点3領域のパイプライン獲得に向け、3000~6000億円のM&A枠を用意。膵がんの試験を中止しても「がん領域の手を緩めるつもりはない」としており、「有望なパイプラインの獲得を続けていく」といいます。
問われる「やりきる力」
膵がんの試験中止により、がん領域でP3試験の段階にあるのはナパブカシンの結腸直腸がんだけになってしまいましたが、初期段階には有望視される開発品も控えています。
17年にバイオベンチャーの米トレロ・ファーマシューティカルズを買収して獲得したCDK9阻害薬alvocidib(再発・難治性の急性骨髄性白血病を対象にP2試験実施中)や、AXL受容体チロシンキナーゼ阻害薬「TP-0903」(慢性リンパ性白血病を対象にP1/2試験実施中)、ACVR1阻害薬「TP-0184」(固形がんを対象にP1試験実施中)は、ピーク時に500億円規模かそれ以上の売上高を期待。いずれも迅速承認制度を活用し、早期のがん事業確立につなげたい考えです。
23年 ラツーダに後発品
そもそも、大日本住友がBBIを買収したのは、主力の抗精神病薬「ラツーダ」の次を担う「ポスト・ラツーダ」を手に入れたいとの狙いがありました。ラツーダは18年度に売上高の4割にあたる1845億円を売り上げましたが、23年2月21日以降、後発医薬品が参入してくる予定。23年度は大幅な減収減益となる可能性があり、ラツーダ依存からの脱却は目下の最大の経営課題です。
ただ、ナパブカシンは21年度の発売を目指しており、TP-0903やTP-0184も23年度の発売が目標。本格的に収益に貢献するのは、ラツーダクリフが訪れる23年度より先になります。精神神経領域で「ラツーダを超える製品への成長を期待する」(同社)抗精神病薬「SEP-363856」も同様で、M&Aは23年度以降の収益に貢献する精神神経領域のパイプライン獲得を最優先する方針です。
大日本住友は現在の中計で、不確実性の高い領域でも成果を出す力=ちゃんとやりきる力の強化を重要課題の1つに掲げています。結腸直腸がんを対象とするナパブカシンの開発を「ちゃんとやりきる」ことができるのか。がん領域の立ち上げは正念場を迎えます。
(前田雄樹)