米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。治療選択肢が限られている糖尿病性腎症を対象に、SGLT2阻害薬の臨床試験が進んでいます。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
治療選択肢は少ない
糖尿病性腎症の管理は、依然として世界中の内分泌専門医・腎臓専門医にとって厄介な課題である。
慢性腎臓病の進行を遅らせるには、血糖のコントロールと血圧の管理が重要だ。治療ガイドラインでは、HbA1cは6.5%未満、血圧は140/90mmHg未満とすることが推奨されている(国際糖尿病連合、2012年)。しかし、末期腎不全への進行を防ぐことも、糖尿病性腎症から回復することも、未だに至難の業だ。
2型糖尿病治療薬として承認されているSGLT2阻害薬で、慢性腎臓病を対象とした臨床試験が行われている。SGLT2阻害薬は、近位尿細管でのグルコースの再吸収を阻害し、グルコースの排泄を促すことで血糖値を下げる。血糖管理に有効な上、体重減少効果と降圧効果も有する。
糖尿病性腎症に使われる薬剤として最も一般的なのはRAAS阻害薬だが、治療選択肢は少ない。
J&J、腎保護で先手
米ジョンソン&ジョンソンは2019年4月、「CREDENCE試験」の結果、カナグリフロジン(製品名・インヴォカナ)が腎特異的複合アウトカムの相対リスクを34%低下させ、末期腎不全のリスクも32%低下させたと発表した。
同社は同年3月、カナグリフロジンの適応を「末期腎不全、血清クレアチニン値の2倍化、腎死または心血管死の発生リスク低下」にも拡大するよう、米FDA(食品医薬品局)に申請を行った。CREDENCE試験のデータとラベルの改訂によって、カナグリフロジンの商業的可能性は増大すると予想される。
これより前に行われた2つの試験、すなわち「CANVAS試験」「CANVAS-R試験」では、カナグリフロジン投与群の下肢切断例がプラセボ群の2倍に上った。これを受けてFDAは、同薬の添付文書に下肢切断リスクに関する「枠組み警告」を表示するよう指示した。しかし、CREDENCE試験では、カナグリフロジン投与群で下肢切断や骨折に有意な増加は認められなかった。FDAは今後、「枠組み警告」を削除することになりそうだ。
米国糖尿病学会(ADA)はCREDENCE試験の結果発表後、「2019年版糖尿病ガイドライン」の糖尿病性腎症治療に関する推奨事項を改訂した。eGFRが30mL/分/1.73㎡以上かつ尿アルブミンが300mg/g超の糖尿病性腎症患者には、疾患の進行と心血管イベントを防ぐためにSGLT2阻害薬の使用を推奨している。
ほかのSGLT2阻害薬も追随
CREDENCE試験の結果を発表したことで、カナグリフロジンは腎保護の分野で先頭を走っているが、ライバル企業も大きく後れを取っているわけではない。現在、複数の企業がSGLT2阻害薬の心血管・腎アウトカムを評価する試験を行っている。
英アストラゼネカは、心血管疾患・腎疾患に対するダパグリフロジン(フォシーガ)の効果を評価する「DapaCareプログラム」を進めている。このプログラムの下、2型糖尿病の有無を問わず(2型糖尿病患者が対象だったCREDENCE試験との差別化を図っている)慢性腎臓病を認める患者を対象に、腎アウトカムと心血管死でダパグリフロジンを評価するDapa-CKD試験が行われている。試験終了は2020年11月の予定だ。
同社はまた、2019年6月に心血管アウトカム試験「DECLARE-TIMI 58」の腎に関するデータを発表した。事前に指定された解析では、▽腎機能低下▽末期腎不全▽腎死または心血管死――からなる心・腎複合アウトカムのリスクが、ダパグリフロジンでプラセボより24%低いことが明らかになった。これは、カナグリフロジンのCREDENCE試験結果とほぼ同じである。
おそらく、カナグリフロジンは今後も糖尿病性腎症に特化したデータを蓄積していき、ダパグリフロジンは幅広い慢性腎疾患のエビデンスをされに強化していくと思われる。いずれにせよ、この新興市場では今後も熾烈な競争が続きそうだ。
米メルクは米ファイザーと提携して、2型糖尿病と血管疾患を併発した患者を対象に、エルツグリフロジン(国内未承認)の心血管アウトカムを評価する「VERTIS CV試験」を行っている。この試験は2019年12月までに終了する予定で、副次的エンドポイントとして腎アウトカムも追跡している。この試験が主要エンドポイントと副次的エンドポイントを達成すれば、腎に限定したアウトカムを評価する試験が新たに実施されるものと思われる。
仏サノフィは、2型糖尿病と腎障害が認められ、心血管リスクも有する患者を対象に、ソタグリフロジン(国内未承認)の心血管・腎アウトカムを評価する臨床第3相(P3)試験「SCORED」を実施中。同試験の副次的アウトカムには、最初の複合腎イベントの発生までの期間や、顕性アルブミン尿を認める患者サブグループにおける最初の複合腎イベントの発生までの期間が含まれる。
この試験で特筆すべきなのは、1万500例という多くの2型糖尿病患者を対象にしているという点だ。この試験で肯定的な結果が得られれば、後発のソタグリフロジンが市場でのトップ争いに加わるかもしれない。試験の終了は2022年3月を予定している。
クラスエフェクトを期待
VERTIS CV試験では糖尿病が主な組み入れ基準だが、SCORED試験ではeGFRパラメーターも考慮されている。DAPA-CKD試験とEMPA-KIDNEY試験(糖尿病の有無を問わず、慢性腎臓病患者の腎・心血管イベントに対するエンパグリフロジンの有効性・安全性を評価する試験)の場合は、eGFRパラメーターが主な組み入れ基準となっている。したがって、ほとんどのSGLT2阻害薬が臨床試験で腎保護作用について何らかの評価を受けていると言うことができる。
CREDENCE試験は、糖尿病性腎症患者にSGLT2阻害薬を使用した臨床試験のパイオニアだ。同試験で肯定的な結果が出たことで、ほかのSGLT2阻害薬でも同様のデータが得られ、糖尿病性腎症の新たな治療選択肢となることを期待するのは、理にかなっていると言えるだろう。
(原文公開日:2019年7月18日)
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
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