後発品企業の間で、原薬の製造国を公開する動きが広がっています。今年に入り、日医工と沢井製薬、東和薬品の大手3社が相次いで自社の医療従事者向けサイトで公開を始めました。「数量シェア80%」の目標達成が近づき、市場の停滞が目前に迫る中、「安心」を求める医療従事者の声に応えることで生き残りを図っているように見えます。
「安心して使ってもらうため」
後発医薬品国内最大手の沢井製薬は7月から、自社の医療従事者向けサイトで自社製品の原薬製造国の公開を始めました。公開したのは最終原薬製造所と粗原薬製造所の国名で、自社で製造販売する製品だけでなく、仕入れ品(販売受託品)についても可能な限り公開。同社は「医療従事者に安心して使ってもらえるよう情報公開することにした」としています。
ほかの後発品メーカーも、今年に入り相次いで取り組みを始めています。武田テバファーマと武田テバ薬品は3月から、自社サイトで最終の原薬製造国を公開。6月には高田製薬と東和薬品が公開を始め、日医工も同月から子会社の日医工ファーマ、ヤクハン製薬、エルメッドが製造販売する製品も含め、最終原薬と粗原薬の製造国を公開しています。
「製造国を確認したいという要望が増えている」
武田テバは「後発品の普及に伴い、医療機関から原薬製造国を確認したいという要望をもらうことが増えている」と言います。200社近くある後発品メーカーのうち、まだほんの一部ではありますが、医療従事者からのニーズに応える形で、情報公開の動きは着実に広がりつつあります。
「製造」「品質」情報公開のニーズ高く
後発品の原薬をめぐっては、異物混入などの問題がたびたび起こっており、後発品への不信感を生む原因となってきました。
今年3月には、胃炎・胃潰瘍治療薬「エカベトNa顆粒『サワイ』」にドーピング検査で禁止薬物に指定されているアセタゾラミドが混入していることが発覚し、製造販売元の沢井が自主回収を実施。調査の結果、問題の成分はインドの原薬メーカーの製造工程で混入したことが明らかになりました。
さらに昨年7月には、発がん性があるとされるN-ニトロソジメチルアミンが混入しているとして、あすか製薬が高血圧症治療薬「バルサルタン錠『AA』」(17年6月に販売中止)を自主回収。中国の原薬メーカーの製造工程で発生・混入したもので、欧州など海外でも同じメーカーの原薬を使った製品の回収が相次ぎました。
後発品メーカーに対する情報公開の要望は高く、厚生労働省の「後発医薬品使用促進ロードマップ検証検討事業報告書」(2017年度)によると、後発品メーカーに望むこととして、病院の45%、診療所の41%、保険薬局の31%が「製造に関する積極的な情報公開」を、病院の56%、診療所の52%、保険薬局の44%が「積極的な品質情報の公開」を挙げています。
大原薬品工業はこうしたニーズにいち早く応え、2010年から自社の品質情報集で原薬製造元(製造国)と製剤製造元の情報提供を開始。17年12月からは、他社に先駆けて自社ホームページでの情報公開も始めています。
共同開発の情報公開は
1つの先発医薬品に10~30ほどの後発品が発売される状況で、数ある製品の中から選ばれるために最も重要なのが「信頼」です。前出の報告書によると、病院の84%、診療所の59%、保険薬局の81%が、後発品を選定する際に「信頼できるメーカーの製品であること」を重視しています。製造国が公開されたことで、一部の製品では原薬のダブルソース化ができているかどうかも確認することができるようになりました。安定供給の観点からも、原薬製造国の情報が提供される意義は大きいと言えます。
後発品をめぐっては、共同開発の情報公開を求める声も強くあります。後発品は、複数の企業が共同で開発を行い、それぞれの屋号で承認を取得し、別々に販売するケースが少なくありません。ただ、その情報は明らかにされておらず、供給停止のリスクに備えるという観点で後発品を選ぶのが難しいのが現状です。
共同開発に関する情報公開については、厚労省が2013年に策定した「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」でも取り組むべき課題として挙げられており、日本ジェネリック製薬協会も会員企業に情報提供の呼びかけを始めました。原薬製造国と異なり、情報公開には共同開発に関係するメーカーの協力が必要な上、品目の淘汰につながる可能性もあります。業界が一丸となって対応できるかが問われそうです。
(前田雄樹)