米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。欧州を中心に、医療技術評価(HTA、日本の費用対効果評価に相当)に患者の意見を反映させようという取り組みが広がっています。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
アクセス促進と透明性向上
英国のNational Institute for Health and Care Excellence(NICE)やスコットランドのScottish Medicines Consortium(SMC)、オーストラリアのPharmaceutical Benefits Advisory Committee(PBAC)、カナダのPan-Canadian Oncology Drug Review(pCODR)は、医療技術評価(HTA)に患者らの意見を反映させようという取り組みで世界の先頭に立っている。
疾患の負担を理解する上で、患者と介護者の視点は極めて重要と言える。実際の医療現場における価値とは何かを定義するとともに、製薬業界が患者らのニーズに対応する際の助けとなるからだ。同じような理由で、患者や医師、介護者らのSNSでのやりとりを製薬企業が拾う「ソーシャルリスニング」が、この業界で盛んに行われるようになっている。
台湾やフィリピンなどアジアの国では、HTAを堅実に導入することで医薬品の審査プロセスを強化している。一方、先進国では、様々な利害関係者が議論するプラットフォームを提供することで、医薬品の評価を精密化しようとしている。その目的は、協調的な問題解決型の手法によって患者アクセスを促進すること、そして、医薬品を推奨するプロセスの透明性を向上させることにある。
患者の関与は確実に強まる
ドイツのG-BA(Gemeinsamer Bundesausschuss)とIQWIG(Institut für Qualität und Wirtschaftlichkeit im Gesundheitswesen)は、すでに患者の意見を評価と意思決定に反映させている。
フランスのHaute Autorité de Santé(HAS)は18年2月、内部にCouncil for User Engagement(使用者関与評議会)を設ける意向を表明した。この評議会は患者や学者らで構成されることになりそうで、HASの活動のすべてをサポートし、評価する責任を負うと同時に、HASによるアセスメントの一部として倫理的な側面でも関与する。
業界の専門家らは、こうした取り組みはほかのEU加盟国にも広がると見ている。さらに、今後はEUnetHTAのような共通のHTAプラットフォームが力を発揮すると予想され、国レベル、あるいはEUレベルで患者の関与は確実に強まるだろう。
患者の声をHTAに反映させることには、いくつもの利点がある。患者団体や専門家を積極的に巻き込めば、医薬品評価の意思決定に相当な影響が及ぶ可能性がある。これは、患者に力を与えるのみならず、バリューベースの治療を保証し、疾患に特有のグレーゾーンに対する理解を深めることにもなるだろう。透明性の向上や、医薬品の評価プロセス対する患者の理解を促す効果も期待される。
意思決定にどんな影響を与えるのか
今、包括的な医薬品評価が必要であるのは明白だが、同時に求められるのは、患者の関与をしっかりした臨床的・薬剤経済学的エビデンスに結びつけること、そして、すべての患者のためにベネフィットを最大限に引き出すことだ。
HTAに患者が関与しはじめたことで、製薬業界はまさに、患者の経験を活用する際の課題を理解し始めたところだ。一部の例外を除き、患者の関与は一方通行になりがちであることが研究でわかっている。患者の意見と言っても、ほとんどの場合、患者団体が求められるままに所定のテンプレートで提出したもので、それが意思決定にどう影響を及ぼすのかは実証されていない。
患者の意見に対してHTA機関からフィードバックがあれば、連携の強化につながる可能性はある。取り組みが進む中で懸念も浮き彫りになっているが、コミュニケーションのギャップと目的の不明瞭さは、その一部でしかない。世界中のHTA機関が患者の関与を強めることに意欲的な一方、その機能は現時点では十分に評価されていないようだ。
(原文公開日:2018年5月30日)
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
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