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ブロックチェーンで臨床データをモニタリング―サスメド、ITで変える臨床試験の未来【インタビュー】

更新日

医療ITのスタートアップ企業「サスメド」が、ブロックチェーン技術を使って臨床研究データをモニタリングするシステムの実証実験に乗り出します。代表取締役で医師の上野太郎さんに、背景や展望を聞きました。

 

(聞き手・前田雄樹)

 

治験のコストに課題感

サスメドは4月22日、ブロックチェーン技術を使った臨床データのモニタリングシステムに関する実証計画が、国の「規制のサンドボックス制度」(新技術等実証制度)に基づき、厚生労働、経済産業両省から認定されたと発表しました。規制のサンドボックス制度とは、参加者や期間を限定することで、既存の規制に縛られず新しい技術の実証を行えるようにする制度。サスメドは今月から、国立がん研究センターと共同で、ブロックチェーンによるモニタリングシステムを使った臨床研究を開始します。

 

サスメドは2015年創業のスタートアップ企業で、不眠症治療用アプリの開発を手がけています。今回実証を始めるモニタリングシステムは、治療用アプリの開発で抱いた臨床試験への課題意識が発端になったと、上野さんは話します。

 

「私たちは、認知行動療法に基づく不眠症治療用アプリを開発しています。アプリといえど医療機器になるので、きちんとしたエビデンスをつくらなければなりませんが、開発を進める中でエビデンス構築のハードルを感じました。それは、治験にかかるコストの問題です。がん免疫療法薬『オプジーボ』が出てきて、財政面で日本の社会保障はどうなっていくんだろうということは一医療者としても考えるようになりました。もちろん開発コストだけではありませんが、新薬開発が難しくなり、そこにどんどんコストがかかるようになってきているということに課題感を持ったのです」

 

「臨床開発で特にコストがかかっているのはどこか。日本CRO協会の2017年年次報告によると、国内CROの年間売上高1924.5億円のうち、57.9%をモニタリング業務が占めています。現在のモニタリングは、モニターが全国の病院に行って臨床データを確認するという、非常に労働集約的な形で行われています。ここにITを使えば、コストを削減できるのではないかと考えました」

 

サスメドの上野太郎・代表取締役

サスメドの上野太郎・代表取締役

 

もうひとつ、サスメドをブロックチェーン技術を使ったモニタリングシステムの開発へと向かわせたのが、臨床研究に対する規制強化です。国内では、高血圧症治療薬の臨床研究でデータ改ざんが行われた、いわゆる「ディオバン事件」を契機に、2018年4月に臨床研究法が施行。未承認・適応外薬を使った臨床研究や製薬企業が資金提供する臨床研究では、モニタリングを行うことが義務付けられました。

 

「医師からは、モニタリングが必須となったことで研究がしづらくなり、最終的には患者の不利益につながるのではないかという声が上がっています。ディオバン事件はデータの信頼性の問題でした。改ざんが難しいブロックチェーンを使えば、コストも削減しながらデータの信頼性も担保できるのではないか考えています。実際、ブロックチェーン技術を使うことでデータの改ざん不能性を担保するということについて、私たちは論文も出しています。論文では、データをスマホからブロックチェーンサーバーに入れ、人工的にデータ改ざんを引き起こしても棄却される、つまりデータの改ざんができないということを証明しました」

 

運用コストは年数十万円

サスメドは不眠症治療用アプリの開発を通じて、アプリで取得した臨床試験データを管理するシステムも独自に構築。治療用アプリをデータ入力専用のアプリに置き換えれば、別の臨床試験でも使うことができます。

 

今回、実証実験として国立がん研究センターと共同で行うのは、乳がん患者に運動療法を提供するアプリの開発に向けた臨床研究です。被験者は週3回、1回10分の決められた運動を行い、その内容や心理状態などを専用のスマホアプリに入力。入力されたデータは直接、ブロックチェーンサーバーに記録されます。

 

ブロックチェーンを使った臨床データのモニタリングの図。

 

「私たちが今までやってきた不眠症治療用アプリと同じように、患者主体のデータであればスマホのアプリで取れるはずだと考えています。こういったデータはペイシェント・リポーティッド・アウトカム(PRO)と呼ばれますが、日本ではほとんど紙ベースでやられていて、非常に労働集約的な形でデータ収集が行われている。これを電子的な形で取得(ePRO)すれば、紙で取ったものを打ち込み直してそれをチェックするのに比べてはるかにコストは安くなります」

 

「実証実験の認証にあたって開かれた内閣府の会議でも『実際にどれくらい安くなるのか』という質問をいただきました。モニターであればやはり1人月で数百万円かかり、複数のモニターが携わると、場合によっては1カ月で1000万円、1年で1億2000万円かかります。一方、私たちのシステムの運用コストは12カ月でも数十万円。導入時のコストはかかりますが、全体としてはかなり大幅なコスト削減につながるだろうと考えています」

 

「信頼性の面では、被験者の『なりすまし』を防止するための技術も独自に開発し、実装しています。さらには、ブロックチェーンに書き込まれるまでの間も、具体的には中継サーバーの問題などですが、そこでもデータの信頼性を担保する技術も開発し、特許も取得しました。こちらも間もなく論文として発表する予定です」

 

製薬業界では昨今、開発の効率化に向け、患者が医療機関に通わなくても臨床試験に参加できる「バーチャルトライアル」が広がり始めています。ブロックチェーンを使ったモニタリングシステムは、こうした取り組みと結びつけることで、より大きなインパクトを生みそうです。

 

「私たちもまさにその方向を向いています。デジタル医療の開発をやっている身からすると、臨床試験における医療機関へのビジットは減らせるはずだと思っています。ただ、その時に問題となるのが、先ほど申し上げたような『なりすまし』の問題やサーバーの問題で、データの信頼性の担保というのはより重要になります。私たちも、バーチャルトライアルというのは将来的なあるべき姿だと考えているので、そこはぜひ目指していきたいところです」

 

電子カルテとの連携は「今後の課題」

ただ、治験への本格的な展開に向けては越えるべきハードルがあります。肝となるのは電子カルテへのアクセスですが、上野さんは「外部システムとの連携は今後の課題」と話します。

 

「私たちもそちらに広げていきたいとは思っていますが、日本では電子カルテも乱立していますので、いきなり手を出すのは得策ではないだろうと判断しています。なので、まずは私たちのシステムで完結できるePROを主体にしています。外部のシステムとの連携は今後の課題ですし、今、いくつかの方々とは実際にお話もさせていただいています。そこまでできれば、いろいろな治験で使ってもらえるようになると思っています」

 

「ただ、いわゆるバリュー・ベースド・メディスンが求められるようになってきている中、単なるハードエンドポイントだけでなく、医薬品が患者のQOLにどう寄与したのかということは、今後重要になってくると考えています。海外では、ePROで副作用をきちんとモニタリングすることが生存期間の延長につながるといった報告もあります。がん領域など、QOLの評価が重要になる領域は結構あると思っており、そういったところで活用してもらえると期待しています」

 

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