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ニュース解説

医薬品のプロモーション規制「必要な情報届かない」―神奈川県内科学会「知の羅針盤」が目指す“真の学術講演会”

神奈川県内科学会が、製薬企業によるプロモーション活動と一線を画した学術講演会「知の羅針盤」を立ち上げました。製薬業界の過剰な自主規制が企業の萎縮を招き、必要な情報までもが医師に届かなくなっている――。取り組みの背景にある危機感とは。

 

製薬会社の支援受けず自由に議論

神奈川県内科学会の宮川政昭会長は4月18日、東京都内で記者会見し、学術組織「知の羅針盤」を会内に発足させたと発表しました。知の羅針盤が目指すのは、製薬企業によるプロモーションを排し、出席者が本音を自由に議論する“真の学術講演会”。製薬企業がスポンサーとなって開かれる講演会が多い中、企業の支援なしで講演会を運営していくといいます。

 

神奈川県内科学会の宮川政昭会長

神奈川県内科学会の宮川政昭会長

 

知の羅針盤は3月に「180分でわかる 肝疾患の現状と課題、そして対処法」と題して横浜市内のホールで第1回の講演会を開催。5月25日には「180分でわかる、呼吸器疾患のイロハ」のタイトルで第2回を予定しており、その後も「SGLT2阻害薬のウソ・ホント」(7月20日)など、およそ2カ月に1回のペースで講演会を開いていく予定です。

 

共催でもスライドチェックは認めず

製薬企業が主催・共催する講演会の場合、日本製薬工業協会の「医療用医薬品プロモーションコード」に抵触しないよう、「承認範囲を逸脱した情報が含まれていないか」「他社品を誹謗・中傷した記載がないか」といった観点から、企業が講演者の発表スライドを事前にチェックするのが一般的。知の羅針盤でも今後、製薬企業と講演会を共催する可能性はあるといいますが、その際もプロモーションコードの適用や事前のスライドチェックは認めない考えです。

 

「製薬企業の講演会は、医療情報の提供の場ではなく、医薬品のプロモーションの場として行われてきた。だから、そこで使う講演者のスライドも、プロモーション資材として業界ルールで事前にチェックしてきた。それは学術講演会ではなく、広告講演会でしょう」。宮川氏は会見で、製薬企業が講演会にプロモーションコードを適用するなら、それは“広告講演会”であると自ら証明しているようなものだと指摘しました。

 

規制強化への危機感

神奈川県内科学会が「知の羅針盤」を発足させた背景には、医薬品のプロモーション活動に対する規制が強化され、現場の医師が本当に必要としている情報が届かなくなっているとの危機感があります。

 

製薬企業による医薬品のプロモーション活動は、法律や業界の自主ルールによってさまざまな規制を受けています。医薬品医療機器等法(薬機法)は誇大広告を禁じ、製薬協のプロモーションコード(コード・オブ・プラクティスの一部)はMRの行動基準やプロモーション資材などに関するルールを規定。医療用医薬品製造販売業公正取引協議会の公正競争規約では景品類の提供を制限しており、今年4月には厚生労働省の「医療用医薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン」の運用もスタートしました。

 

医療用医薬品のプロモーション活動に対する規制の表。【法律】医薬品医療機器等法(薬機法)。【厚生労働省のガイドライン】医療用薬品の販売情報提供活動に関するガイドライン。【業界の自主ルール】医療用医薬品プロモーションコード(日本製薬工業協会)、医療用医薬品製造販売業公正競争規約(医療用医薬品製造販売公正取引協議会)。

 

宮川氏は「医師に対する行き過ぎた営業活動があったのは真実で、適正化は必要だ」とする一方、「自主規制が過剰になり、製薬企業が萎縮することで、必要な情報が医師に届かなくなっているのが現状」と指摘。製薬協のプロモーションコードも、書かれていること自体は正しいがその解釈や運用に問題がある、と話します。

 

薬の「区別」は必要

例えば呼吸器疾患に対する吸入薬の場合、メーカーによってデバイスにも細かな違いがあるにもかかわらず、講演会でそれに言及しようとすると、「他社品を誹謗・中傷しない」というルールを理由に企業から止められてしまうといいます。

 

患者の状態や状況に応じて最適な医薬品を選択するには、薬剤同士の比較検討は欠かせないはず。「誹謗・中傷をしないというのは当然だが、薬の『区別』はしないといけないし、違いは明瞭にしないといけない。自社品だけ扱う製薬企業の情報提供は、患者のためになっているのか」と宮川氏は疑問を呈します。5月の講演会では吸入器の比較についても取り上げる予定です。

 

「本当は私たち医師の問題」

一方で宮川氏は、「聞く側の医師がきちんと『これは宣伝だ』『これは宣伝ではなく本質的なことを言っている』と選択すればいいこと」とし、講演会をめぐる問題は「本当は私たち医師の問題」とも指摘します。

 

神奈川県内科学会では、講演会共催を依頼してきた企業に対し、企業講演会の名称に「学術講演会」という文言を使わないよう要請しているといい、「(企業講演会と学会講演会を)色分けすることで参加する医師も合点がいく。講演会で聞いた話を丸飲みするのではなく、吟味できるようにしていくことが重要だ」と話します。

 

適応外の情報、演者も聴衆も自らの責任で

知の羅針盤では、薬剤の比較はもちろん、承認範囲を超えた情報や保険診療外の薬剤処方に関する情報を話してもらうことも妨げません。演者も聴衆も、プロフェッショナルである医師です。「演者は自らの責任において医療学の見地から講演すべきだし、聴衆もそのことを理解して参加する。そうした本質的なものを作り上げていかなければならない」と強調しました。

 

知の羅針盤の取り組みが浮き彫りにするのは、プロモーション規制が生む医師と製薬企業のギャップ。営業活動の適正化が必要なのは言うまでもありませんが、医師が求める情報が届かなくなってしまえば、最終的に不利益を被るのは患者です。神奈川で始まった新たな動きは、医薬品のプロモーションのあり方に一石を投じます。

 

(前田雄樹)

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