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全身性エリテマトーデス、新薬開発に横たわる大きな課題|DRG海外レポート

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米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、日本で指定難病に指定されている全身性エリテマトーデス(SLE)。多くの企業が開発に失敗してきましたが、その理由は。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

5つの新薬候補が開発後期段階に

全身性エリテマトーデス(SLE)は、病原性自己抗体産生と免疫複合体の組織沈着を特徴とする自己免疫疾患だ。SLEは、筋骨格系や皮膚粘膜系に症状が表れることが最も多いが、病態は極めて不均一で、診断が遅れることも少なくない。腎臓、中枢神経系、心臓など、筋骨格系や皮膚粘膜系以外の臓器に障害がみられることも多い。

 

SLE治療は主に、抗マラリア薬、副腎皮質ステロイド(CS)、免疫抑制薬の適応外使用など非特異的なもので、重度の患者の場合は特に、治療が成功しないことも少なくない。さらに、こうした薬剤による長期間の治療には、いくつかの副作用(感染症、肝毒性、骨粗鬆症など)が伴う。しかし、今のところSLE治療用に正式に承認された薬剤はグラクソ・スミスクラインの「ベンリスタ」しかなく、大きなアンメットニーズが残されている。

 

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慢性という疾患の性質や薬物治療率の高さ、それに主要市場(アメリカ、フランス、ドイツ、イタリア、スペイン、イギリス、日本)の患者数の多さを考えると、治療薬が少ない現状は、製薬会社がこの分野を無視していたせいでも、新薬開発の可能性を理解していなかったせいでもない。

 

実際、5つの有望な新薬候補―ヤンセンのウステキヌマブ、イーライリリーのバリシチニブ、メルクのatacicept、アストラゼネカのanifrolumab、Aurinia Pharmaceuticalsのvoclosporin―が後期臨床開発の段階にあり、1ダースを超える薬剤が早期のパイプラインにある。これは、製薬会社がSLE治療薬の開発に尽力していることの裏付けと言える。

 

後期臨床試験で有効性示せず

ここ数年のパイプラインを分析してみると、SLEに対する治療法が驚くほど不十分である今の状況は、新薬開発の失敗率の高さに理由があることがわかった。こうした薬剤は、早期の臨床試験では有効性と安全性を示していたものの、規模の大きい後期臨床試験で肯定的なアウトカムを再現できなかった。

 

この失敗パターンをたどった薬剤には、▽リツキシマブ(ロシュなど)▽アバタセプト(ブリストル・マイヤーズスクイブ)▽epratuzumab(UCB)▽rigerimod(ImmuPharma)――などがあり、anifrolumabも間もなくこのリストに加わるかもしれない。

 

アストラゼネカは最近、SLEを対象に臨床第3相(P3)試験を行っているanifrolumabについて、「TULIP I試験」で主要評価項目―投与52週後のSRI-4(SLE responder index 4)による奏功率―を達成することができなかったと発表した。この結果が発表される前、anifrolumabは開発中のSLE治療薬の中で他剤よりも注目されていた。それだけに、試験失敗の知らせはanifrolumabに大きな期待をかけていた医師たちを愕然とさせた。

 

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SLE治療薬開発の難しさ

分析の結果から、われわれはこうした後期臨床試験での失敗にはいくつかの原因があると認識している。特に重要な課題として、▽試験に適した患者集団を定めるのが難しい▽プラセボの奏効率が高い▽すでに受けている治療をやめることができない――といったことが挙げられる。

 

SLEは、病態が不均一で、関与する病態生理学的経路も複数あると考えられており、さらには治療薬の効果を事前に予測できる有効なバイオマーカーもない。このため、臨床試験に適した集団を特定するのは困難だ。

 

メルクのataciceptは、中等度または重度のSLE患者を対象に行ったP2b試験で主要評価項目を達成できなかったが、事後解析では疾患活動性の高い患者(SLEDAI-2K≧10)と血清学的陽性の患者(低補体、抗dsDNA抗体陽性)という2つのサブグループで有意差をもって有効性を示すことが明らかになった。

 

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もうひとつの問題点として挙げられるのが、強力な副腎皮質ステロイドや免疫抑制剤を含む複数の薬剤を使った治療を受けている患者が少なくないことだ。

 

こうした患者は、疾患の重症度により再燃のリスクがあるため、すでに投与されている薬剤を中止することができない。特に、新たに治療を始めた患者や、臨床試験を別とすればアドヒアランスの良くない患者の場合、こうした薬剤の使用によりプラセボ群の奏効率が高くなり、試験のアウトカムに影響してしまう可能性がある。

 

さらに、これに関連する問題点として、臨床試験での副腎皮質ステロイドの使用が挙げられる。この強力な薬剤は、時として臨床試験で評価される新薬候補の効果を覆い隠してしまうおそれがある。

 

課題の克服は簡単ではない

SLE向けの新薬を開発する製薬会社は、こうした問題点を考慮した上で臨床試験の計画を立てようと試みるが、課題を克服するのは容易ではない。

 

考えられる解決策としては、適切な患者集団を特定するためのバイオマーカーを開発すること、プラセボ群の奏効率が高くなりすぎないように安定した投薬治療を受けている患者をリクルートすること、試験デザインに副腎皮質ステロイドの漸減をとり入れてステロイドが疾患活動性に及ぼす影響を軽減すること、が挙げられる。

 

SLE治療薬開発に伴う問題点を乗り越えるのは簡単なことではないかもしれないが、もし承認にこぎつけられれば、ブルーオーシャンのこの分野で圧倒的に有利なポジションを得ることになる。

 

(原文公開日:2018年12月27日)

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。

 

【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ日本支店
斎藤(カスタマー・エクスペリエンス・マネージャー)
E-mail:ssaito@teamdrg.com
Tel:03-5401-2615(代表)

 

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