米国に本社を置くコンサルタント会社Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのはNASH。ギリアドのselonsertibがP3試験に失敗しました。開発レースの行方は。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
STELLAR-4試験 主要エンドポイント未達
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)市場への一番乗りをめぐる競争は、米ギリアドのselonsertibと米インターセプトのobeticholic acidの一騎打ちとなっていた。しかしギリアドは2019年2月11日、selonsertibの臨床第3相試験「STELLAR-4試験」で主要エンドポイントを達成することができなかったと発表した。初のNASH治療薬としての承認獲得は、かなり望み薄になったと考えられる。
selonsertibは、48週間の投与で代償性肝硬変のあるNASH患者の肝線維化を改善することができなかった。この臨床試験は、治療1年後にselonsertibが承認可能であり、さらに4年後の2022年末までに真にインパクトのあるベネフィットをもたらすことを示すためにデザインされたものだ。
その最初の段階で失敗したことは重大な問題だと言える。もし試験が継続されるなら、selonsertibがNASH患者の予後改善を実証する可能性はあるかもしれない。しかし、今の状況で240週もの臨床試験を完遂しようというのは、財務上のリスクが大きすぎる。規制当局も、データを検討したあとに倫理的な理由で試験を停止させる可能性がある。
「ギリアドは、患者一人ひとりの利益と一致する方法で、STELLAR-4試験を終了するためにデータモニタリング委員会や研究者と協力する」。プレスリリースの文言を見る限り、ギリアドもすでに、この試験の中止を決めていることがうかがえる。
重症度の低い患者を対象としたSTELLAR-3試験が進行中
しかし、まだすべてがついえたわけではない。
selonsertibのもう1つの第III相試験として、STELLAR-4試験とよく似たデザインで重症度の低い患者を対象とした「STELLAR-3試験」が行われている。selonsertibの有効性は、病勢進行が初期であるほど高い可能性がある。STELLAR-3試験が始まったのはSTELLAR-4試験開始の1カ月後だったことを考えると、重要な結果の発表は目前に迫っているのかもしれない。
FDAが開発ガイドライン
ただ、STELLAR-3でも線維化の改善に失敗すれば、FDAの承認の可能性は極めて低くなる。FDAは承認の要件について次のような文書を公表している。
NASH治療薬候補のP3試験に求める内容を示したガイドライン素案(2018年11月FDA公表) ・線維化を悪化させることなくNASHを改善する ・NASHが悪化することなく線維化が改善する ・これら両方 |
selonsertibが開発中止になったとしても、ギリアドのNASHをめぐる競争への影響力は保たれる。同社にはselonsertibのほかにもパイプラインがあり、selonsertibとほかの2つの化合物(GS-0976とGS-9674)の併用などが検討されている。併用療法のP2試験(ATLAS)は2019年10月に完了予定だ。
どのNASH治療薬候補にもまだ有望なデータがない
注目は、新たなトップランナーとなったインターセプトのobeticholic acidに集まっている。そのP3試験「REGENERATE試験」の最も重要な結果は、近々発表される見込みだ。
NASHは比較的新しい適応症で、承認を得ている薬もない。安全かつ有効な治療薬に何が求められるのか、その定義は依然として流動的だ。
現在、P3試験の段階にある新薬候補は、いずれもP2試験で説得力のあるデータを出せなかった。NASHの臨床試験にはまだ、有望なデータがまだないというのが正直なところだ。ギリアドは押される立場になり、競合のインターセプト、仏ジェンフィット、アイルランド・アラガンなどがP3試験のデータ発表を控えているという状況だ。
ギリアドは、これらの競合からすればもはやライバルではないのかもしれない。STELLAR-4試験は、治療法が確立していない疾患をターゲットとすることの難しさと落とし穴を思い出させるイベントとなった。NASH治療薬市場の規模をはじくのは、フィニッシュラインを越える薬が出てからの話。NASHは引き続き、大いに研究が求められる領域だ。
(原文公開日:2019年2月15日)
【AnswersNews編集長の目】いまだ有効な治療法がなく、アンメットニーズの高いNASH(非アルコール性脂肪肝炎)。市場としても有望とされ、新薬開発も活発ですが、その先頭を走ってきた米ギリアドがP3試験でつまずきました。
2月11日にトップラインデータが発表されたアポトーシスシグナル調整キナーゼ1(ASK-1)阻害薬selonsertib(開発番号・GS-4997)の1本目のP3試験「STELLAR-4」は、患者877人を対象に日本を含む世界各国で実施。主要評価項目である「48週間の投与後にNASHを悪化させずに1ステージ以上の肝線維化の改善を達成した患者の割合」は、プラセボ群の12.8%に対し、selonsertib 18mg群は14.4%、同6mg群は12.5%と統計学的な有意差を示すことができませんでした。
ギリアドの研究開発部門ヘッド兼チーフ・サイエンティフィック・オフィサーのジョン・マクハチソン氏は「主要評価項目を達成できなかったことは残念だが、高いアンメットニーズが存在するNASH治療薬の開発に力を注ぐ」とコメント。架橋性線維化(F3)を呈するNASH患者を対象に実施中のP3試験「STELLAR-3」の結果は間もなく得られる見通しで、線維化が進行したNASH患者に▽selonsertib▽cilofexor(GS-9674)▽firsocostat(GS-0976)――を併用するP2試験「ATLAS」も今年後半の結果発表が予想されます。
国内では最近、EAファーマが独Dr. Dr. Falk Pharmaからノルウルソデキシコール酸に関するライセンス契約を締結。日本で同薬をNASHなどの適応で開発すると発表しました。開発競争は今後も激しさを増していきそうです。 |
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
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