米国に本社を置くコンサルタント会社Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回は、駆出率が保たれた心不全(HFpEF)を対象に開発が進む新薬を紹介します。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
開発後期段階にある有望な新薬
駆出率が保たれた心不全(HFpEF)は慢性心不全の約半数を占め、その病態生理の解明が進んでいる。それでも、ベネフィットの実証という成果を伴った薬物療法をHFpEFで実現することは、今もって困難なようだ。実際、駆出率の低下した心不全(HFrEF)の試験で有効性を示しても、HFpEFでは期待外れに終わる薬剤が相次いでいる。
とはいえ、現在、臨床第3相(P3)試験が進んでいる有望な薬剤もいくつか存在する。今回は、開発後期段階に入っている薬剤の中から、成功が期待される薬を紹介する。
Entresto
HFpEF患者を対象に行ったP2試験で良好な結果が出た。現在実施中のP3試験「PARAGON-HF」で同じようにいい結果を出せれば、「Entresto」(一般名・sacubitril/valsartan)はこの適応症で最初の根拠に基づく治療薬になるかもしれない。4822人の患者が参加するP3試験は、2019年中に結果が公表される見通しだ。
医師や保険者は、HFrEF治療薬として長年使われている同薬に馴染みを持っている。HFpEFでもベネフィットが証明されれば、同薬は超大型新薬になると考えられる。
SGLT2阻害薬
ジャディアンス
米イーライリリーと独ベーリンガーインゲルハイムの「ジャディアンス」(エンパグリフロジン)は、2型糖尿病患者で心血管(CV)アウトカムの改善を示した初のSGLT2阻害薬となった。同薬は、EMPA-REG OUTCOME試験で、2型糖尿病患者のCV死亡率と罹患率を有意に低下させただけでなく、心不全(HF)による入院も減少させた。両社はその後、「EMPEROR-Reduced」「EMPEROR-Preserved」という2つのP3試験で、HFrEFとHFpEFの療法の患者を対象に有効性を評価している。
フォシーガ
DECLARE試験は、もう1つのSGLT2阻害薬である英アストラゼネカの「Farxiga/フォシーガ」(ダパグリフロジン)の有効性を、2型糖尿病患者のCVアウトカムで評価したものだ。主要有害心血管イベント(MACE)の減少を示すことはできなかったが、HFによる入院またはCV死の複合エンドポイントは統計的に有意に低下させた。
2017年2月、アストラゼネカは、2型糖尿病の有無を問わず、HFrEF患者を対象とするP3試験「Dapa-HFアウトカム」を開始。その後、2018年8月には、HFpEF患者を対象に同薬を評価するP3試験「DELIVER」が公表された。
sotagliflozin
米レキシコンと仏サノフィは2018年、慢性心不全と2型糖尿病を合併し、HFが悪化している患者を対象に、SGLT2阻害薬sotagliflozinのP3試験「SOLOIST-WHF」を開始した。Sotagliflozinはこの適応で開発が進む3番目のSGLT2阻害薬となり、2型糖尿病患者を対象とした1つの試験でHFrEFとHFpEFの両方について検討されている。
この試験は、sotagliflozinによるCV死亡率・罹患率の抑制効果を検証することを主要目的としており、対象はHFrEF患者とHF全患者(駆出率の状態は問わない)の2集団だ。
HFアウトカムの改善はクラスエフェクト
SGLT2阻害薬がHFアウトカムの改善をもたらすメカニズムはまだ十分に解明されているわけではない。ただ、いくつかの試験の結果から、特定の薬ではなく、このクラスの薬剤に共通した作用であることが示されている。
紹介した3つの試験の完了日を考慮すると、承認がいつになるかという点でジャディアンスがわずかに有利と言える。「Invokana」(ジョンソン&ジョンソン)もP3試験「CANVAS」でCVベネフィットを示しているが、慢性心不全患者における今後の開発については、今のところ発表されていない。
SGLT2阻害薬の使用の大半は、HFpEF患者の治療の後期段階に制限されると予想される。2型糖尿病を合併している患者に使用される可能性が最も高いだろう。
注目すべきそのほかの試験
スウェーデンのSPIRRIT試験は、医療登録を基盤とするランダム化臨床試験であり、「スピロノラクトンはHFpEFの全死因死亡を減少させる」との仮説を検証するために開始された。
スピロノラクトンは、TOPCATなどの先行研究でHFpEFの治療に有効である可能性が示唆されている。SPIRRIT試験は、見込みはあっても概して決め手に欠ける先行研究のデータをより強化する狙いがある。
(原文公開日:2019年1月23日)
【AnswersNews編集長の目】高齢化も背景に増加を続ける心不全。2030年には患者数が全国で130万人に達するとの予測もあります。
記事で紹介された新薬の日本での開発状況を見てみると、ノバルティスの「Entresto」(海外製品名、開発コード「LCZ696」)は慢性心不全と小児慢性心不全を対象にP3試験が進行中。SGLT2阻害薬では、「ジャディアンス」と「フォシーガ」もP3試験を行っています。
EntrestoはARBバルサルタンとネプリライシン阻害薬サクビトリルの配合剤で、欧米では2015年に承認。ノバルティスの決算によると、2018年12月期には売上高が10億2800万ドル(前期比103%増)で、ブロックバスターに成長しました。 |
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ日本支店
斎藤(カスタマー・エクスペリエンス・マネージャー)
E-mail:ssaito@teamdrg.com
Tel:03-5401-2615(代表)