最近、リストラの嵐が吹き荒れる製薬業界。実際、早期退職に応募した人は、第2のキャリアとしてどんな道を歩んでいるのでしょうか。今年、早期退職で外資系大手製薬会社を辞め、現在は医療系ITベンチャーで働く久米滋生さん(47歳、転職当時は46歳)に話を聞きました。
早期退職を会社が発表 その時…
大学卒業後、外資系大手製薬会社に入った久米さん。9年間MRを経験したあと、本社営業戦略の企画・立案や経営企画部で中長期人員計画の立案、新製品上市プロジェクト、海外本社主導の生産性向上プロジェクトなどに関わってきました。プライベートでは35歳のときに同期入社の女性と結婚。子どもにも恵まれました。
久米さんが入社24年目を迎えた今年4月中旬、社内で早期退職の募集が正式に発表されました。対象は30歳以上かつ在籍1年以上の社員で、募集人数は300人超。退職日は7月末で、在籍期間が長い社員ほど上乗せ退職金が多くなるという条件でした。
「中長期の人員計画の立案にも関わっていたこともあり、いつか人員削減はやるだろうと思っていました。なので、発表があった時も『やっと公表された』という感じでしたね。社内の雰囲気?それは悪くなりますよ。本社が『これ(販売目標)を達成するんだ』と言っても、足元を崩されるような話が出ているわけじゃないですか。現場のMRからも『仕事が手につかない』ということはよく聞きました」
これからの生活と将来のキャリアと
早期退職に手を挙げるかどうか――。会社が設定した応募の締め切りは6月上旬。久米さんが考えたのは、「金銭的なリスク」と「5年後に自分の履歴書がどうなっているか」でした。
「まず考えたのは、11歳の息子が20歳になるまでにかかる費用ってどれくらいだろうということです。早期退職で手にする退職金を考慮すると、もし年収が2割下がったとしても、定年までに入ってくるお金は変わらない計算でした。妻も私と同じくらいの給料をもらっていたので、妻が働き続ければ金銭的なリスクはほぼないだろうと考えました」
「もう1つ考えたのは、このまま会社に残って、履歴書にどんな経験を書けるようになるだろうかと。MRが減っていくと様々なメディアが報じている中で、MRをどう動かしていくかという仕事にどこまで需要があるのだろうかということは感じていました。5年後、50歳を超えて自分の履歴書が魅力的なものになっているだろうかと考えました」
実は久米さん、早期退職の話が出る前から、自分の仕事の将来について不安を感じていました。積極的に転職活動をしていたわけではありませんが、5年ほど前から、いい話があればほかの製薬会社の採用面接を受けながら、自身の経歴やスキルを見直していたといいます。
「MRの医師へのアクセスが減り、将来的なMR数の減少が見込まれる中、そこを軸とした仕事をやっていることへの不安はありました。このままこの仕事を続けても厳しいかもしれないと。でも、当時は自宅から自転車で通勤できて、妻と同じ会社で高い給料も貰っていたので、危機感よりも居心地のよさのほうが勝っていました」
背中を押した出会い
今後の生活と、これからのキャリアと。熟慮を重ねた末、久米さんは早期退職に手を挙げることを決めました。退職を決断する上でもう一つ大きな要因となったのは、今の勤務先であるexMedio(エクスメディオ)との出会い。同社は「ヒフミル君」「メミルちゃん」「知見共有」といった、診療や薬に対する疑問を医師同士で相談できるオンラインサービスを展開するITベンチャーです。
「前職時代に一緒にプロジェクトをやった元マッキンゼーのコンサルタントから、『ベンチャーをつくったので一緒にやらないか』と声をかけられたことも大きな理由でした。それが今の会社なんですけど、彼はこの先5年でデジタルによって業界の構造が変わっていくと言う。それはそうだなと思いました」
「今の会社のCEO(物部真一郎氏)は精神科医なんですが、『我々のサービスは広まれば世の中がよくなる。社会貢献につながる』と言われたことも大きかったです。遠隔医療をサポートする仕組みや、医師同士が意見交換するサイトで激務の医師をハッピーにできる。それは医療の向上にきっとつながる。もしMRが減って薬の情報が行き渡らなくなるのであれば、ウチのサービスを使って情報を提供し、従来とは異なるチャネルで情報提供する仕組みをつくることができると言われたことに共鳴できたので、チャレンジしてみようと思いました」
exMedioから声がかかったのは、早期退職の募集期限を1カ月後に控えた5月上旬。転職エージェントを使って転職活動もし、製薬会社に転職するという道もありましたが、最終的にexMedioへの入社を決断。正式に転職先を決めたのは、退職日の2週間ほど前でした。
「早期退職の希望を出す時点では、すでに転職活動は始めていました。今の会社からは、手を挙げたら来てくださいと言われていましたし。転職活動は製薬会社だけに限ってやっていたわけではありません。過去の経験を活かせるところでと思っていましたが、エージェントから来る話はやはり製薬ばかりでしたね」
「会社が用意した再就職支援は、大手人材会社と契約し、次の就職が決まるまでずっと支援してくれるという制度で、結構皆使っていました。ただ、次が決まらないまま辞めた人も相当いましたね」
週1回はジム通い ビジネススクールにも
久米さんは現在、exMedioのサービスを通じた医薬品のプロモーション責任者として担当。製薬会社にサービスを提案して回る日々です。
「医師が診断や薬の相談をするサービスの中で、例えば薬に関する質問が出た時に、関係する製品のコンテンツのリンクを出して医師を誘導したりといったことを製薬会社に提案しています。そこで『こうしたらどうだろう』『ああしたらどうだろう』という製薬会社のニーズを聞き、サービスをブラッシュアップするために社内の調整を行ったり、製薬も医師もハッピーになるような新しいサービスをプラニングしたりといったことが業務の中心です」
「業界は大きく変わりましたが、入社を決めた時点では不安はあまりありませんでした。薬の情報を伝えるという意味では同じ。違いは、立っている場所が製薬会社なのか、製薬会社と医師の間なのかということなので、業界が変わったという気持ちもそれほどありませんでした。ただ、入ってからは、IT用語やWEBマーケティングがわからず、社内のエンジニアが言っていることの意味がわからないということに直面したんですけども」
転職して生活も大きく変わりました。前職では朝7時半に出勤して夜8時、9時まで働く生活でしたが、今は週に3日は午後6時に退社。平日に週1度はジムに行き、来年からはビジネススクールに通う予定だといいます。
「仕事の時間も場所もフレキシビリティがとれるようになり、生活は大きく変わりました。妻もバリバリ働く人なので、以前は息子が夜9時10時まで家で一人で待っているということもたくさんありました。夜遅い仕事がほとんどなくなって、息子との時間を確保できるようになったのはよかったと思っています。時間に余裕があるなら家事をやればいいし、仕事は家でもできますので」
早期退職を機に製薬会社を離れ、ITベンチャーへと働く場を大きく変えた久米さん。その判断に後悔はほとんどないようです。
「今、新しいことにチャレンジして苦しんでいるところですが、以前の仕事に対する未練はないですね。結果的にいい判断をしたと思いますし、妻も『この判断で正しかったと思う』と言ってくれます。後悔があるとすれば、残って、会社の変化に柔軟に対応して、新しいことにチャレンジする選択肢もあったかもしれないと考えることですかね。でも、そんな時は、自分がなぜ転職したのかを思い出すようにしています」
「昔はバリバリ働いて上を目指していくことだけが幸せだと思っていたんですが、今は夢を持った若いベンチャー起業家と一緒に、経験を生かして会社を大きくして、社会にどれだけ貢献できるかという挑戦が、定年まであと13年できたらいいと思っています」
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