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ニュース解説

「バイオと低分子 両方に強みを持つからこそ」中外製薬が中分子に取り組む理由

次期中期経営計画(2019~21年)期間中の臨床試験開始を目指し、中分子薬の研究を進める中外製薬。バイオの雄として確固たる地位を築いた中外が、なぜ今、中分子に取り組むのか。研究本部創薬化学研究部長の飯倉仁さんに話を聞きました。

 

本当に強くなると技術の限界が見えてくる

――「中分子創薬技術の確立」を掲げた現行の中期経営計画(2016~18年)が終わりに差し掛かっています。取り組みの現状を教えてください。

次の中期経営計画の3年間で臨床試験を開始することを大きな目標として鋭意取り組んでいます。新技術ですので思わぬ課題も出てくるところはありますが、技術基盤ということで妥協はしたくありません。どんどんというよりは、一歩一歩、でも着実に進んでいるという手応えは感じています。

 

疾患領域は特に限定していません。中外の主要な領域はもちろん見ますが、それに限定するものではないです。

 

中外製薬研究本部創薬化学研究部長の飯倉仁さん

中外製薬研究本部創薬化学研究部長の飯倉仁さん

 

――バイオに強い中外が、なぜ今、中分子に取り組んでいるのですか。

中外は歴史的にバイオに強く、近年は世界的に最も強いと言われてきたロシュグループのジェネンテックとも肩を並べるくらいまで力をつけています。

 

一方、低分子のほうも、旧日本ロシュの鎌倉研究所がブロックバスターの抗がん剤「ゼローダ」を生み出した経緯もあり、ロシュグループ入りしたことで世界で戦えるレベルになってきました。例えば、数年前に発売した中外創製のALK阻害薬「アレセンサ」は、先行品と比べても化合物自体のクオリティが高いと自負しており、結果として高い臨床効果をもたらしています。

 

バイオとケミストリー、その両方に本当に強くなると、それぞれの技術の限界が見えてきます。中分子というのは、抗体と低分子、双方の限界から見出した解決策の一つです。抗体でも低分子でもできない、いわゆる「細胞内のタフターゲット」にアプライする有力な手法として、10年以上前から検討を重ねてきました。

 

抗体と低分子 それぞれの限界

――抗体と低分子、それぞれの限界とは。

低分子は細胞内に入れる反面、くっつくことができるタンパク質は限られています。小さい分子が結合できる場所を持っているタンパク質というのは、全体の20%ほどしかないと言われています。

 

一方、抗体は今のところ細胞に入ることはできない。タンパク質全体の80%は細胞内にあるので、抗体は細胞外にある残り20%しか標的にできないというところがあります。抗体は分子量が大きく、穴がなくてもくっつくことができ、特異性が高いというメリットはありますが、その大きさゆえに細胞の中に入れないのが一つの限界です。

 

低分子、中分子、バイオの比較の表。<分子量>低分子:500以下、中分子:500~2000、バイオ:10000以上。<標的特異性>低分子:△、中分子:◎、バイオ:◎。<細胞内標的>低分子:◎、中分子:○、バイオ:△。<PPI阻害>低分子:△、中分子:◎、バイオ:◎。<投与経路>低分子:経口/注射、中分子:経口/注射、バイオ:注射。<製法>低分子:有機合成、中分子:有機合成、バイオ:培養。

 

創薬化学者は長らく、ハイスループットスクリーニングの登場で創薬の世界が大きく変わった1990年代にリピンスキーが提唱した“ルールオブファイブ”に縛られてきました。薬になりやすいものを予測するためのルールで、その一つに「分子量500以下」ということも含まれています。

 

薬のなかった時代、このルールオブファイブに則って、その範囲で薬になりやすい標的をどんどん薬にしてきたというのは、非常の正しい選択だったと思います。しかし、ルールの存在によって、化学者は「分子量500以上は薬にならない」と思い込んだままずっときてしまった。それが今の状況を生んでいるんだと思います。

 

リピンスキーの「ルールオブファイブ」。Christopher A.Lipinskiが1997年に提唱した、化合物が薬として優れているかを予測するためのルール(経験則)。5または5の倍数にちなむことからこう呼ばれる。1、水素結合供与体(OH、NH)が5個以下。2、分子量が500以下。3、logPが5以下。4、水素結合受容体(N、O)が10個以下。

 

――こうした限界を中分子なら解決することができる。

中分子なら全てできるようになるかはまだわかりません。これからわれわれも含め世界で中分子の限界範囲というものを明らかにしていくことになるんだろうと思います。中分子でもどんなものなら薬になるのか、タンパク質にくっつくのか。あるいは、中分子であるがゆえの副作用の懸念はないのか。そういたことを明らかにしていくということを、今われわれはやっています。

 

基盤技術の確立に競争優位性を置きたい

――中分子をめぐっては、ペプチドリームが創薬プラットフォームを持っており、国内外の大手製薬企業が提携を結んでいる中、中外は独自に取り組みを進めています。技術基盤の確立から自前でやろうと思ったのはなぜですか。

私たちは、創薬のプラットフォーム、技術基盤をつくるということをものすごく大事にしています。競争優位性はそこに置きたいと。新しい基盤をつくることによって、今まで生み出せなかったものをつくるというところに、われわれの存在価値があると思っています。

 

研究を統括する岡部(尚文・上席執行役員)も言っていますが、よそから持ってきたものって、みんなできるんですよ。一方、自社で作ったものは限界もわかるし、おかしいと思ったら調整もできるし、進化もしていく。われわれの抗体改変技術も、自分たちでやってきたからこそ知り尽くしているので、新しいことがいろいろできます。それと同じように、大事な技術基盤は自前でやりたいと思っています。

 

――世界的に開発競争が激しくなる中、中外が中分子で発揮できる強みは何でしょうか。

化学もバイオも磨いてきているというところですね。タンパク質も触り慣れていますし、創薬化学者もたくさんいます。ケミストの発想とバイオのライブラリという両方があるのは大きいでしょうね。化学とバイオ、両方の力があるというところで差別化できる技術を作っていけるのではないかと思っています。

 

あとは、目的を明確にして、やりたいことのみに集中しているということがあります。抗体でできることは中分子でやる必要はないし、低分子でできることも中分子でやる必要はない。抗体でも低分子でもできないところを突破できるか、ということだけに集中して研究開発をしているところも強みだと思っています。

 

次期中計期間中の臨床入りを目指す

――中分子の一つである核酸医薬への取り組みは。

当然、無視しているわけではありませんが、中外のサイズで何でもかんでもやるのは難しい。ロシュは持っていますので、今は核酸以外の中分子に集中している状況です。

 

――最後に、今後の展望を教えてください。

まずは、次期中計の間に臨床入りを確実に達成したい。それを通じて創薬プラットフォームが一通り形になると思うので、そうなれば、プラットフォームを活用する体制を早期につくっていくことになると思います。やはりスピードは重要な要素になるでしょうから。

 

中分子原薬の製法開発に向けて、浮間研究所(東京都北区)に研究棟を建設することも決まりました。準備は万端なので、あとはモノを出すだけです。

 

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