ここ数年、減少傾向が続いている製薬会社のMR。MR認定センターによると、国内のMR数は2013年度の6万5752人をピークに4年連続で減少しており、この4年間で3319人減りました。早期退職を行う企業も相次いでおり、今後も減少は続きそうです。
そうした中、第二・第三のキャリアとして、医療機器営業に転職するMRが増えています。彼ら・彼女らは、なぜMRを辞め、異業界へと飛び込んだのか。インテュイティブサージカルで手術支援ロボット「ダビンチ」の営業を担当する2人に話を聞きました。
20年後がイメージできなかった MRの価値に迷い
「ざっくり言うと、20年後をイメージできなかったということです」
今年4月にインテュイティブサージカルに入社した前田大樹さん(30)は、製薬業界やMRの将来に不安を感じたことが転職の理由だったと話します。前田さんは都内の私立大理学部を卒業後、内資系の中堅製薬会社に就職。7年間MRとして働いたあと、同社の営業職に転職しました。
前田さんが漠然と転職を考え始めたのは、前職に入社して3年目のとき。会社の営業方針に疑問を感じたのがきっかけでしたが、その後、製薬業界を取り巻く環境は激変し、将来に対する不安が大きくなったといいます。
「新薬が出づらくなっているということもありますし、後発医薬品も台頭しています。訪問はアポイント制が主流となり、MRがいらない時代が来ると言われる。そうした中でMRとして製薬業界に残っても、将来どうなっているのかなと」
転職を考え始めた当初は同業他社でMRを続けることを考えていたといいますが、「どの製薬会社に行っても不安は同じだろう」と思い、MRを辞めることを決意。当時、担当していた病院がダビンチを導入し、医師から「あれはすごいよ」という話を聞いたことで興味を持ち、インテュイティブサージカルの門を叩きました。
MRとしてできることが少なくなっている
今年1月に入社した片山由美子さん(31)も、MRの将来に疑問を感じて転職を決めた1人。片山さんは6年制の薬学部を卒業後、複数の製薬会社やCSOでMRとして活動。薬剤師資格を生かし、調剤薬局で勤務した経験も持ちます。
「規制が厳しくなり、MRができることが非常に少なくなっている中、医師との関係をどう構築するのか、どういう情報提供が医師のニーズにマッチしているのかということで各社悩んでいると思います。加えて、早期退職が始まったり、MRが削減されたりということもあり、MRの価値に迷いが生まれてきたんです」。そうしたとき、登録していた人材紹介会社から紹介されたのが、インテュイティブサージカルでした。
薬学生時代に参加した実務実習で、薬がどのように開発され、どのように人の手に渡っているのかに興味が湧き、MRを志望したという片山さん。もともと「人のサポートをする仕事がしたい」との思いで医療職を志しただけに、手術支援ロボットという分野を開拓するインテュイティブサージカルは魅力的に映りました。
「ダビンチについて知るにつれ、とにかくこれに関わりたいと。今後、ロボット手術の時代は確実に来ると思いますが、その先陣を切っているのがダビンチです。製薬業界の将来に不安を感じるなら、これから拡大することが見えている業界に飛び込むべきだと思いました」
医師のパートナーであることを実感
こうしてMRから医療機器営業に転職した2人ですが、実際に働いてみて、医療機器営業の仕事についてどう感じているのでしょうか。
MR時代から、同じ病院を担当する医療機器営業の姿を見て「『◯◯さん、ちょっと来て』というワンシーンをとっても、うらやましいというか、医師との関係が深いんだろうなとは思っていました」という前田さんは、MRと医療機器営業の最も大きな違いは「チーム感」だと話します。
「MRもチーム医療の一員と言われますが、今の方がチームで一緒にやらせていただいているという感覚が強いです。手術でいい結果を出すため、トレーニングをご案内したり、面談を重ねたりと、一緒につくり上げていくというところが大きく違うのかもしれないですね」。研修を経て現場に出たのは3カ月前ですが、すぐに医師から名前で呼んでもらえ、頼りにされていることを実感したといいます。
MRでは得られなかった「役に立てている」という感覚
片山さんも同じように感じています。
「MRは医師にとってビジネスパートナーという感じですが、医療機器営業は本当のパートナーで、困った時に頼りにしてくれる存在という印象です」。医師との面会も、患者一人ひとりをベースに実際の手術を想定した深い議論になることが多いといいます。「求められる知識も多く、そのあたりは大変ですが、MRの時には感じられなかった『お役に立てている』という感覚を今、すごく得られています」
片山さんが医師との関係性の変化を最も強く感じるのが、医療機器営業の特徴の1つであるオペへの立ち会いです。立ち会いでは、使用方法のレクチャーやトラブル対応といったサポートが主な業務となりますが、オペの時間をともにすることで医師との関係も自然と密になっていくといいます。
「私たちがサポートして無事に手術が終わり、先生がほっとした顔をする時が、少しでもお役に立てたのではないかと思える瞬間です。何より、実際に先生が患者さんに向き合っている現場を目の前で見られるというのは、大きなやりがいに感じています」
手術室の隅っこに…異業種への転職で感じた不安
医療機器営業の仕事に大きなやりがいを感じているという2人ですが、異業界に飛び込むのは勇気のいることです。特にMRは、日当や住宅補助など福利厚生が手厚いことで知られます。転職する上で、待遇や働き方に不安はなかったのでしょうか。
前田さんには妻と2人の子どもがいますが、待遇面での不安はさほど大きくなかったといいます。
「手当がないのは確かに不安ではありましたが、手当以外のベースの部分を計算したところ、これくらいだったらいけるだろうと思ったので、金銭的には大きな不安はありませんでした」。インセンティブも「前の会社がそれほど高くなかったこともあり、『取れたら取れた分だけ上がる』という感覚で入りました」。妻には転職について折を見て話していたこともあり、特に反対されることはなかったといいます。
ただ、働き方については「立ち会いがあるとは聞いていましたが、当然やったことはないですし、不安はありました」。片山さんも「初めて手術室に入った時は、やはり怖いと感じました。ダビンチの使い方を修正したほうがいいなと思っても、いつ声をかければいいのかわからなかったり、手術室には『清潔野』と『不潔野』がありますが、どこで分かれるのかわからなくてすごい隅っこに立っていたり」と、はじめのうちは不安が大きかったと振り返ります。
そうしたとき助けてくれたのが上司や先輩でした。「不安なので」と同行をお願いすると快く受け入れてくれる上司や先輩が多く「一緒に来てもらって、実践の中で教えてもらいました。慣れてきた今は自分ひとりでも行けます」と片山さん。知識が至らなく医師から怒られることもありますが、知識を吸収する毎日をおもしろく感じているといいます。
今後のキャリアは
MRや製薬業界の将来に対する不安から医療機器営業の道を選んだ前田さんと片山さん。最後に、今後のキャリアについて聞いてみると、2人からはこんな答えが返ってきました。
「10年後20年後に何をしたいというのはまだ思い描けていませんが、今はダビンチの営業として一人前になることが目標です。競合もこれから入ってくるので、まずは自分の担当エリアをしっかりと固めたいと思っています」(前田さん)
「ダビンチの営業はもちろんですが、育てる側のトレーナーにも憧れています。研修を担当してくれたトレーナーが皆さん豊富な知識を持っていて、そちらにもいずれは行ってみたいという思いもあります」(片山さん)
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