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開発は最終段階に―経口GLP-1受容体作動薬は糖尿病治療の新たな道を開くのか|DRG海外レポート

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米国に本社を置くDecision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、ノボノルディスクが開発中の経口GLP-1受容体作動薬。開発が最終段階に差し掛かる中、糖尿病治療の新たな選択肢として注目されています。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

7試験からなるP3試験プログラムが進行中

ノボノルディスクは、2型糖尿病治療薬セマグルチドの経口剤を開発している。同薬はグルカゴン様ペプチド1(GLP-1)受容体作動薬で、注射剤としてはすでに販売中。消化管経由でもバイオアベイラビリティを確保するため、経口剤にはEmisphere TechnologiesのEligenテクノロジーが使われている。

 

2015年8月、ノボは臨床第2相(P2)試験の良好な結果を受け、経口セマグルチドをP3試験に進めると発表した。P3試験PIONEERプログラムは、心血管疾患アウトカム試験(CVOT)など7つの試験で構成されており、約9000人の患者が登録。試験はすべて2016年にスタートした。

 

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7つの試験のうちの1つ、PIONEER1試験では、経口セマグルチドの3用量(3mg、7mg、14mg)すべてでHbA1cがプラセボに比べて有意に改善し、主要目的を達成した。26週にわたって700人あまりの2型糖尿病患者を対象に行われたこの試験では、経口セマグルチドが安全かつ忍容性も良好であることが示された。

 

PIONEER1試験では、経口セマグルチドを服用した患者のHbA1cは、3mg群で0.8%、7mg群で1.3%、14mg群で1.5%低下した。プラセボ群は0.1%の低下で、ベースラインの平均HbA1cは8.0%だった。さらに、14mg群ではプラセボに比べて有意に大きく体重を減少させた。体重減少は3mg群と7mg群でも認められたが、統計学的な有意差はなかった。

 

DPP-4阻害薬やSGLT-2阻害薬と直接比較

PIONEER2試験は、セマグルチドとSGLT-2阻害薬エンパグリフロジンとの比較だ。26週時点のHbA1cは、経口セマグルチドがエンパグリフロジンよりも有意に改善されており、こちらも主要目的を達成している。ただし、体重減少では両剤に統計学的な有意差は認められなかった。

 

DPP-4阻害薬シタグリプチンと比較したPIONEER3試験でも、経口セマグルチドは7mgと14mgの2用量で統計学的に有意にHbA1cを改善し、主要目的を達成。体重減少もシタグリプチンより有意に大きかった。

 

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PIONEER4試験は、ノボのGLP-1受容体作動薬リラグルチドとの比較。PIONEER5試験は中等度の腎機能障害を持つ患者を対象に有効性と安全性をプラセボとの比較で検証している。PIONEER6試験は心血管に対する安全性の評価を目的としたものだ。

 

P2試験で検討された経口セマグルチドの最高容量(40mg)は、週1回の注射剤(1mg)と同等の有効性を示したが、有害事象が多く出た。これを受け、P3試験では少なめの用量が検討されている。ただ、低用量では有効性が注射剤に劣るというリスクもある。PIONEER7試験は、この問題の克服を意図したものとみられ、柔軟な投与戦略のもとにシタグリプチンとの比較が行われる。

 

これまでの試験結果はおおむね良好

これまでのところ、PIONEERプログラムにおける経口セマグルチドの結果は全体的に良好と言える。ノボが一連の試験の最初にシタグリプチンやエンパグリフロジンとの比較を行ったという事実は、同社がDPP-4阻害薬やSGLT-2阻害薬を直接的な競合品と捉えていることを示唆している。

 

PIONEER7試験で経口セマグルチドがシタグリプチンに対する優位を保ち、柔軟な投与によって消化器系の有害事象を最小化することができれば、経口セマグルチドはDPP-4阻害薬の代替として有効性・忍容性のプロファイルを強化することになる。PIONEER4試験の良好な結果が医師の背中を押せば、リラグルチドが2022年に特許切れを迎えるより前に、処方を経口セマグルチドに切り替えるかもしれない

 

現在販売されている2型糖尿病治療薬の中で、GLP-1受容体作動薬は最も効果的な治療選択肢だと認識されている。経口剤が登場すれば、患者も保険者も治療アルゴリズムの早い段階で使いたがるだろう。

 

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懸念は消化器系の有害事象

とはいえ、経口の場合はバイオアベイラビリティが課題となるため、注射剤と同等の有効性を示せるかという疑問は残る

 

さらに消化器系の有害事象もハードルとなる。GLP-1受容体作動薬の注射剤で最も高い頻度でみられるのが消化器系の副作用であり、経口剤でもP2試験、P3試験を通じて発生率が高くなっている。経口投与で消化器系の有害事象が増える懸念はある

 

ただし、消化器系の有害事象は投与量の増加によるもので、経口という投与形態そのものが原因ではない可能性には注意する必要がある。

 

医師も保険者もPIONEERプログラムの結果を心待ちにしているのは言うまでもない。コストの問題はさて置き、注射剤しかないことはGLP-1受容体作動薬の大きな欠点だからだ。このクラスは血糖効果と体重減少の両面で有効なため、安全かつ忍容性の高い経口GLP-1受容体作動薬は、2型糖尿病の治療選択肢として強く望まれるだろう。

 

(原文公開日:2018年8月15日)

 

【AnswersNews編集長の目】

開発の最終段階を迎えているGLP-1受容体作動薬セマグルチドの経口剤。日本を含むグローバルで臨床第3相試験が行われていますが、日本では注射剤も発売されていません。

 

セマグルチドの週1回投与の注射剤「オゼンピック」は、日本で2018年3月に承認を取得したものの、その後、5月、8月と薬価収載を2回見送っています。

 

経口のGLP-1受容体作動薬をめぐっては、米イーライリリーが先日、中外製薬と同社創製の「OWL833」に関するライセンス契約を締結。全世界での開発権・販売権を獲得し、開発に乗り出します。今後、臨床第1相試験を始める予定です。

 

注射であることがネックの1つとなっているGLP-1受容体作動薬に経口剤が登場すれば、同じインクレチン関連薬であるDPP-4阻害薬をはじめとする既存の経口糖尿病治療薬にとっては脅威となるでしょう。

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。

 

【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ(担当:斎藤)
E-mail:ssaito@teamdrg.com
Tell:03-5401-2615

 

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