米国に本社を置くDecision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、グラクソ・スミスクラインの抗IL-5抗体「ヌーカラ」。米FDAの諮問委員会が、COPDへの適応拡大の承認を支持しないとの見解を示しました。その理由は?
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
好酸球数の多いCOPD患者にヌーカラは有効か
グラクソ・スミスクライン(GSK)のヌーカラ(一般名・メポリズマブ)は、好酸球を標的とするモノクローナル抗体である。インターロイキン5(IL-5)が好酸球表面のIL-5受容体に結合するのを阻害することで、血中の好酸球数を減少させる。
ヌーカラは、米国では十数年ぶりとなる喘息向け生物学的製剤として2015年11月に承認された(欧州では同年12月に承認)。適応は重症の好酸球性喘息で、ほかの喘息治療薬と併用する。血中好酸球数が150cells/μL以上の喘息患者を対象とした臨床試験では、ヌーカラは喘息増悪の頻度をプラセボに比べて有意に減少させた。
米FDA(食品医薬品局)の肺・アレルギー薬諮問委員会の7月25日の会合では、COPD(慢性閉塞性肺疾患)を対象にヌーカラの安全性と有効性を評価した2つの臨床第3相試験「MEA117106(試験116)」「MEA117113(試験113)」について議論された。
2つの試験はいずれも国際共同、無作為化、二重盲検、プラセボ対照の試験で、試験期間は52週。対象患者は、吸入ステロイド薬(ICS)・長時間作用性β2刺激薬(LABA)・長時間作用性抗コリン薬(LAMA)の3剤併用療法を受けているCOPD患者。主要エンドポイントは両試験とも、中等度から重度の増悪の頻度だった。
結果は、試験106では主要エンドポイントを達成した(血中好酸球数が多い患者群でP=0.036)が、試験113では統計学的な有意差を示すことができなかった(ヌーカラ100mg投与群でP=0.068、300mg投与群でP=0.14)
「喘息の臨床試験に依存しすぎている」
諮問委の会合では、16対3でヌーカラをCOPD治療薬として承認することに反対した。その根拠となったのは、GSKはCOPDでの承認を目指しているのに喘息を対象に行った臨床試験に頼りすぎているという見解だ。FDAはこれまでの対話で、用量設定についてCOPD患者のデータを求めていたにもかかわらず、喘息への依存度が高いと判断している。
さらに、好酸球数カットオフ値の精度や、検査のタイミングにまつわる疑問など、具体的な懸念も提起された。
たとえば、検査で血中好酸球数が150cells/μLを超えてヌーカラの投与対象となった患者が、翌月の検査で正常範囲まで好酸球数が減少した場合、この患者はヌーカラによる治療を中止するのか?
そういった疑問に対する詳細な答えが7月25日の会合で示されなかったことが承認に反対した理由だと、諮問委のメンバーは述べている。
実際、GSKが喘息を対象にヌーカラを評価した臨床試験に依存していることは、この日の会合全体を通して問題となった。COPDに対するヌーカラの承認に反対した諮問委のメンバーは「女性患者を組み入れていない」といったCOPDのP3試験の問題点を指摘するとともに、COPDでは好酸球数と有効性の間に関連性はないかもしれないとの見解を示した。
喘息とのオーバーラップは
COPDに対するヌーカラの安全性・有効性を検討した臨床試験では、その時点で喘息と診断されている患者は除外された一方、喘息の病歴がある患者は除外されなかった。これは重大な差異となり得る。
Decision Resources Groupのインタビューに応じた呼吸器科医は、ヌーカラの投与対象となる可能性がある患者について語る際、決まって喘息の病歴の有無に言及する。喘息の病歴があるCOPD患者とない患者の病態生理学的な違いはわかっていない。このため、試験106で示された有効性が、喘息の病歴のある患者によるものかは不明だ。
一方、ヌーカラの承認に賛成したメンバーは、▽好酸球増加性COPDの患者集団をはっきりと識別できる点▽好酸球性の条件に適合し、最大限の治療を行っても症状が出る患者のアンメットニーズが存在する点――を主張している。
Decision Resources Groupがインタビューした医師らは、好酸球数をCOPD患者に対するICS治療の指標としていると述べており、マーカーとして有用である可能性が示唆される。ヌーカラの承認に賛成票を投じた諮問委のあるメンバーは、ヌーカラが承認され使用されることで、不明な部分も多いCOPDに対するヌーカラの有効性について解明が進むだろうと期待している。
いずれにしても、好酸球数の高い喘息とCOPDの区別が焦点となることには変わりない。COPDに対するヌーカラの審査終了目標日は9月7日。COPDと喘息の潜在的なオーバーラップについての判断は、FDAに委ねられている。
(原文公開日:2018年8月1日)
【AnswersNews編集長の目】近年、新薬が相次いで登場している喘息向けの生物学的製剤。日本では2016年6月にグラクソ・スミスクラインが抗IL-5抗体「ヌーカラ」(メポリズマブ)を、今年4月にはアストラゼネカが抗IL-5受容体α抗体「ファセンラ」(ベンラリズマブ)を発売。サノフィの抗IL-4/13受容体抗体「デュピクセント」(デュピルマブ)も3月に喘息への適応拡大を申請しました。
喘息で生物学的製剤が相次いで発売される一方、COPDではいまだに生物学的製剤は登場していません。承認されればCOPD治療薬としては世界初の生物学的製剤となるはずだったヌーカラは、記事でも紹介した通り米FDAの諮問委員会が承認に否定的な見解を示し、ファセンラも今年5月、COPDへの適応拡大に向けた臨床第3相(P3)試験「GALATHEA」で主要評価項目を達成することができなかったと発表しました。
GSKはFDA諮問委員会の判断を受け「私たちのデータは、好酸球数に基づくCOPD治療薬としてのメポリズマブを支持している」とコメント。アストラゼネカは、現在進行中の2本目のP3試験「TERRANOVA」の結果を待って、今後の開発方針を決めるとしています。 |
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
【記事に関する問い合わせ先】
ディシジョン・リソーシズ・グループ(担当:斎藤)
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