米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、大麻由来の医薬品として米国で初めて承認され注目を浴びる「Epidiolex」。一部ではブロックバスターの呼び声も高い同薬ですが、果たして。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
大麻由来の医薬品 承認はFDA初
米FDA(食品医薬品局)は6月25日、GWファーマシューティカルズのEpidiolex(エビディオレックス、一般名・カンナビジオール=CBD)を、レノックス・ガストー症候群(LGS)とドラベ症候群(DS)の治療薬として承認した。これら2つの疾患は、まれではあるが重度のてんかん症候群。カンナビジオールは大麻に含まれる成分で、こうした医薬品をFDAが承認するのは初めてだ。
承認の次のステップとなる米DEA(麻薬取締局)の審査には最大90日かかるとみられるが、GWファーマは年末までにEpidiolexを発売できると期待している。ウォール街の一部アナリストの予測ではEpidiolexの年間売上高は10億ドル超。一方、Decision Resources Groupとしては、現時点ではもう少し控え目な予測をしている。この記事では、Epidiolexがブロックバスターとなるのに必要な条件を検討し、売り上げを左右するであろう要因について考えていく。
GWファーマは今のところ、Epidiolexの定価を公表していないが、ウォール街のアナリストらは年間の費用は3万ドルと推定している。この額に基づき、継続率と服薬コンプライアンスが100%だと仮定(すべての患者が処方通り年間を通して毎日服用)すると、米国市場だけで年間10億ドルを売り上げるには、年間3万3334人の患者がEpidiolexによる治療を受けなければならない計算だ。
LGS財団によると、米国のLGS患者は3~5万人。一方、DSは、有病率がLGSの20%未満だとされている。ここでは単純に、米国の患者数をLGSとDS合わせて5万人と仮定しよう。そうした場合、米国で年間10億ドルを売り上げるにはLGS患者とDS患者の3分の2がEpidiolexを使うことになるが、これは現実的な話だろうか?
価格設定は妥当でも使用制限が課される可能性
Epidiolexの年間費用を3万ドルとすると、ルンドベックのOnfiよりは約65%高くなるが、エーザイのBanzelとは同程度となる(2017年の価格)。OnfiとBanzelも、ともに米国で承認されているが、適応はLGSのみ。Epidiolexは米国で初めてDSの適応でも承認されており、保険会社にとってもその価格設定は妥当と言える。
しかし、保険会社は間違いなく、症状に応じた段階的な使用といった処方制限を課すはずだ。米国のKOL(キーオピニオンリーダー)の多くは、OnfiとBanzelにとっても現在の処方制限は使用の足かせとなっていると言う。厳密な処方制限が課されれば、市場シェアの3分の2を占めることも、ブロックバスターとして莫大な売り上げを手にすることも、夢と終わるだろう。
臨床プロファイルは良好だが圧倒的とは言えない
最近われわれのインタビューに応じたKOLらは、Epidiolexの臨床プロファイルを良好と評価する一方、驚異的な新薬ではないという点では一致する。
KOLらは異なる臨床試験を比較した上で、Epidiolexの有効性と忍容性は、ほかの抗てんかん薬と同程度と認識している。LGSとDSを対象としたEpidiolexの臨床第3相(P3)試験では、患者の13~14%が有害事象により脱落している。これは、治療継続率や服薬コンプライアンス、ひいては収益にも影響してくるだろう。
適応拡大は追い風になるが対象患者は多くはない
Epidiolexは、結節性硬化症関連のけいれんを対象に臨床試験を行っている。この適応で承認されれば、対象患者は2万5000人程度増える可能性がある。今のところはっきりとはしていないが、同社はさらに希少な疾患にも適応の拡大を検討している。
また、Decision Resources Groupのインタビューに応じた米国のKOLらは、患者や医師からの需要は高くなる一方、LGSやDS以外での処方は保険会社によって制限されると予想している。P3試験の主要評価項目は、LGSとDSに特有なタイプのけいれんに対する有効性の評価だった。多くのKOLはこれを根拠に、Epidiolexがほかのてんかんに効果を示すか疑問視している。
DEAのスケジュールの影響は限定的
DEAは、乱用の危険性に応じて薬物をスケジュールI~Vの5段階に分類し、それぞれ管理措置を規定している。Epidiolexは乱用の危険性が低いことが示されており、スケジュールI(乱用の危険性が高く、厳格な管理を要する)に分類するのが不適当なのは明確だ。GWファーマはスケジュールIVまたはVに分類されると想定しており、Decision Resources Groupとしてもこれは妥当だと考えている。
とはいえ、合成テトラヒドロカンナビノール(THC)を含有するアッヴィのMarinolはスケジュールIIIに分類されている。KOLらは、ほかの多くのてんかん治療薬(ベンゾジアゼピン系の薬剤やエーザイのフィコンパ)なスケジュールIII~Vに分類されていることを指摘し、DEAによるスケジュール分類がEpidiolexの処方に及ぼす影響は限定的だと見ている。
未承認のCDBオイルは、Epidiolexの自己負担額よりもかなり高額になるだろう。あるKOLは、現時点で自身の患者の1カ月あたりの自己負担額を600ドル程度と推定する。
また、未承認のCBDは質にも大きなバラツキがある。専門家は、Epidiolexが議題となった今年4月のFDA諮問委員会の会合で、治療効果が安定的な製品を入手する難しさを強調していた。2017年に発表されたある調査では、オンライン販売のCBD製剤で表示が正確だったものはわずか30%。さらに、CBD製剤の20%からはTHCが検出された。米国のKOLによると、THCは一部のてんかん発作を悪化させることがある。
ZogenixのZX-008とは激しい競争に
ゾゲニクスが開発中のZX-008(低用量のフェンフルラミン)は、間もなく米国で承認申請されると予想されており、来年には発売となる見通しだ。DS患者を対象としたP3試験では、有効性はEpidiolexよりも顕著で(異なる試験の比較であることには注意が必要だが)、ブレークスルーセラピーの指定も受けやすいだろう。
LGSを対象としたP3試験は現在実施中で、KOLらはこの薬を強く支持している。ZX-008はEpidiolexにとって大きな脅威となるだろう。
つまるところ、Epidiolexの市場での成功には多くの要素が複雑に絡んでおり、この薬が実際にブロックバスターになる保証はない。また、この記事では米国以外のグローバルな販売についてはあえて触れていない。Epidiolexがほかの地域でも発売されれば、EUの主要5カ国だけでも対象患者が4万人(LGSとDSの合計)ほど増える可能性はあるが、米国のような価格設定にはならないだろう。
まとめとしては、希少なてんかんに対する治療薬のアンメットニーズは極めて大きく、Epidiolexの承認はLGSとDSの治療におけるブレークスルーを意味する。ブロックバスターになるかどうかにかかわらず、売り上げがそれを教えてくれるだろう。
(原文公開日:2018年7月2日)
【AnswersNews編集長の目】米FDAが初め大麻由来の医薬品を承認したというニュースは、瞬く間に世界中を駆け巡り、関心の高さをあらためて印象付けました。日本でも主要メディアが報じており、ご存知だった方も多いでしょう。
米国では一部の週で医療用大麻の使用が認められている一方、連邦法では禁止されています。Epidiolexの有効成分であるカンナビジオールは、大麻に含まれる80以上の化学物質の一つ。テトラヒドロカンナビノールのような精神の高揚は引き起こさないといいます。
FDAのスコット・ゴットリーブ長官はEpidiolexの承認を受け「これは重要な医学的進歩だ」とする声明を発表。同薬の承認は「マリファナ由来の成分に関する健全な科学的研究の推進が重要な治療法につながる可能性がある」としながらも「マリファナやそのすべての成分を承認したわけではないことには注意が必要だ」としています。
Epidiolexの承認によって今後、米国でも医療用大麻の研究開発が活発化する可能性があります。一方でFDAは、未承認のカンナビジオールの販売が広がりかねないことにも懸念を示しています。 |
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。
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