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EU 医療技術評価を統一へ―市場アクセスにプラス?マイナス?|DRG海外レポート

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米国に本社を置くコンサルティング会社Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、欧州連合(EU)で起こっている、医療技術評価(HTA)の共通化をめぐる議論。加盟国間では賛否が分かれています。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

新薬の臨床評価を一元化

欧州委員会(EC)は2018年1月、医療技術評価(HTA)について、加盟国間の協力強化を促す提案を採択した。

 

EUでは2004年から、新薬の承認は域内で単一の中央審査方式をとっている一方、HTAは「EUnetHTA」(EUのHTA連携組織)のような試みを除いて、ほとんどが加盟各国の権限のもとで存続してきた。その結果、現在、新しい医療技術の市場アクセスは欧州内でも国や地域によって異なる状況となっている。

 

HTAがEU内で統一されていないことで、予見性と透明性が損なわれている上、効率が悪く、業界やEU加盟国、そして患者にも悪影響が及んでいるとECは見ている。

 

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非臨床的側面の評価や価格・償還の判断は加盟各国で

今年1月に出されたECの提案は、新薬と新医療機器の臨床評価を共通化することを意図している。ただ、医療技術の非臨的側面(経済、社会、倫理)の評価や、価格と償還の決定では、これまで通り加盟国がそれぞれ責任を負うことに変わりはない。

 

この提案は、EU全体でHTAの手法と手続きを共通化し、▽共同臨床評価▽開発者と当局の早期対話▽ホライゾン・スキャニング(有望な新規医療技術の早期特定)▽その他の領域での自発的協力の継続――を狙うものだ。

 

この提案によって設立されるCoordination Group on HTAは、各国のHTA当局や関係機関の代表者で構成。各国が共同作業を行うサブグループも設置される。加盟各国のHTA当局は、EUレベルで行われた評価を自国のHTAプロセスの一部として活用し、経済分析などの非臨床評価は自国で行う。

 

一元化で期待されること

ECの意欲的な提案がもたらす便益に対する期待は大きい。ECは、患者や加盟国、そして製薬企業などにとっても大きな価値があると考えている。

 

EUレベルで臨床評価の手続きが一元化されれば、新薬の付加価値について透明性が高まり、革新的新薬の市場アクセスが迅速化すると期待され、すべてのEU加盟国で患者と製薬企業、双方の利益につながる可能性がある。

 

製薬企業が国ごとに違う手続きに合わせる必要もなくなる。国ごとの評価も迅速化し、よりロバストなエビデンスを踏まえることができるはずだ。

 

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R&D投資の活発化を期待

ECは、この提案によって無駄がなくなり、製薬企業と加盟各国の双方で人的・経済的なリソースの活用が効率化されると予想している。製薬企業にとっては、EU全体をカバーする分かりやすいHTAシステムが導入されることで、事業の予見性は明らかに向上する可能性がある。企業側が新規技術の開発で消極的な判断をするリスクは低下し、欧州全体でR&Dへの投資を呼び込むだろう

 

EUレベルでは、各国のHTA機関がそれぞれ幅広いテーマで課題や人員を抱え込むのではなく、各国機関が異なるテーマ(例えば、希少疾病用医薬品や医療機器など)を専門的に扱えるようにすることも期待されている。加えて、HTAプロセスの開発が進んでいない加盟国にとっても利益をもたらすだろう。

 

今回の新たな提案には、HTAプロセスに患者と医療従事者が参加する枠組みも盛り込まれている。さらに保護条項も設けられており、加盟国は自国の公衆衛生を守るため、共同臨床評価への参加を拒否することもできる

 

製薬業界や患者団体、医療従事者そして学術界も今回の提案を支持しているようだ。2016年10月21日~2017年1月31日にECが開いた公開協議では、HTAでEU加盟国が協力することについて、参加者の87%が賛成した。

 

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分かれる賛否

一方、提案に対しては即座に拒否する意向を表明した加盟国もある。

 

ドイツでは、Statutory Health Insurance Organisation(GKV-Spitzenverband)とJoint Federal Committee(G-BA)が、HTAで協力に向かうEUの動きを突っぱねた。新薬の評価に関する自国の基準が、一元化されるHTAプロセスによって著しく低下すると主張している。

 

しかしドイツ内には、ECの提案を歓迎し、規制当局とHTA機関が緊密に協力する可能性を説く業界グループもある。Association of Research-Based Pharmaceutical Companies(VFA:研究基盤型製薬企業連合)とFederal Association of Pharmaceutical Manufacturers(BAH:製薬製造企業連邦協会)だ。

 

ドイツは強く反対 オランダは賛成

HTAプロセスの一元化に懸念を持っているのは、ドイツだけではない。ほかの国々でも、またスペイン・カタルーニャのような地域でも、「今回の提案は行き過ぎではないか」「加盟国によって異なるHTAのニーズに合った評価を行うのがベターではないか」といった声が上がっている。

 

HTAはEU加盟国の間でも意見の分かれ方に特徴のある分野だ。分権的なやり方を志向する国もあれば、協力の拡大を支持する国もある。意見の対立点も明確ではなく、ギリシャやドイツのような国は分権的なやり方を支持している。ドイツは協力の推進に最も強く反対した国の一つだが、オランダは賛成派の先頭に立っている。

 

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導入には厳しい交渉が予想される

中央審査的なシステムには多くの便益が期待されているとはいえ、懸念を示す加盟国や保険者も少なくない。利害関係者から積極的な参加を取り付けるための交渉は、厳しく、そして相当な時間がかかるものとなるだろう。そもそもシステムの設計自体が貧弱なら、期待されるメリットもなくなってしまう。

 

交渉が順調に進み、欧州会議と閣僚会議の承認が得られれば、今回の提案は2019年にも採択される可能性がある。そうなれば、移行期間を含め6年間で各国の当局や業界が新たなHTAシステムに適応しなければならない

 

イギリスのEU脱退で、サプライチェーンやR&Dに地殻変動が起こり、EMA本部もまた混乱している。欧州市場では何が起こるかわからない。製薬企業は多くの変化に備える必要がある。

 

(原文公開日:2018年3月5日)

 

【AnswersNews編集長の目】

1月31日の発表によると、ECが提案した新たなHTAに関するEU規則案では、▽共同臨床評価▽共同科学的協議▽新規医療技術の特定▽自発的協力の継続――の4つの主要分野で加盟国を強化し、EU全体で共通の手法や手続きを導入することを目指しています。

 

ECのユルキ・カタイネン副委員長は、医療部門はEUのGDPの10%を占める重要な分野であるとし、新たなHTAの枠組みは「イノベーションを促進し、医療技術の革新の取り組みを支援し、EU全域の保健システムの持続可能性を改善する」と強調。ECは、提案が実現すれば、革新的な医療技術を患者に早く届けられるようになり、メーカーも国ごとに異なる手続きに対応する必要はなくなると訴えています。

 

一方、日本では2016年度に「費用対効果評価」の名称でHTAが試行的に導入され、今年4月の薬価改定ではじめて、費用対効果評価の結果に基づく価格調整が行われます。

 

先日の中央社会保険医療協議会(中医協)費用対効果・薬価・保険医療材料専門部会合同部会で明らかにされた評価結果によると、抗がん剤「カドサイラ」「オプジーボ」が薬価の引き下げを受ける一方、C型肝炎治療薬「ハーボニー」は費用対効果が高いとして価格調整は行われないことになりました。

 

今回の試行導入では、企業による費用対効果の分析と、第三者による再分析の結果に大きな隔たりがあったとして、対象品目のほとんどで結論を出すことができませんでした。厚労省はこれらの品目について、再々分析を行って18年度中に結論を出す方針で、先送りした本格導入に向けた議論も並行して進める考えです。

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。

 

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