ARB「ディオバン」の臨床研究不正をきっかけにつくられた臨床研究法が、4月1日に施行されました。透明性と安全性を確保し、質の高い、社会的・学術的意義のある臨床研究の促進を狙う同法のポイントを整理しました。
「企業から資金提供」「未承認・適応外薬」の臨床研究を規制
臨床研究法は、ARB「ディオバン」や「ブロプレス」、白血病治療薬「タシグナ」の臨床研究でデータの操作やメーカーの関与などが相次いで発覚し、臨床研究に対する法的規制の必要性が指摘されたことを背景に制定されました。2017年の通常国会で成立し、今年4月1日に施行されました。
臨床研究法で規制の対象となるのは、医薬品の場合▽製薬企業から資金提供を受けて行われる臨床研究▽未承認薬・適応外薬を使った臨床研究――の2つ。同法ではこれらを「特定臨床研究」と呼び、研究の手続きなどを定めた「臨床研究実施基準」の順守義務を課しています。ただし、企業からの資金を原資とする研究でも、財団など臨床研究の資金を管理する団体が「公正な公募」を行った場合は特定臨床研究には該当しません。
特定臨床研究以外の臨床研究も同法の対象ですが、実施基準の順守は努力義務にとどまります。また、承認申請を目的に行われる「治験」は従来通りGCP省令による規制を受けるため、臨床研究法の対象にはなりません。
特定臨床研究に「実施基準」の順守義務
特定臨床研究に順守が義務付けられる「臨床研究実施基準」は、臨床研究法3条、具体的には2月28日に公布された同法施行規則の9~38条で定められています。
実施基準でまずうたわれているのは、臨床研究の基本理念。「社会的・学術的意義のある臨床研究を実施すること」や「臨床研究の質と透明性を確保すること」などを掲げ、研究責任医師や研究実施機関の管理者が順守すべき研究の実施手続きを規定しています。
法規制のきっかけとなったディオバンの問題など、臨床研究は製薬企業側の提案をもとに行われることも少なくありません。しかし、臨床研究法は「臨床研究は医行為を前提とした診療行為の上に成り立つため、研究責任医師に責任を持って実施していただく必要がある」(厚生労働省)とし、研究責任医師を主体とした法律構成になっています。
利益相反管理を厳格化 患者保護やモニタリングも
実施基準が研究責任医師に求めるのは、▽研究計画書の作成▽モニタリング・監査の実施▽研究対象者への補償▽利益相反管理計画の作成▽情報の公開――など多岐に渡ります。
ディオバンなどの事案でも問題になった利益相反(COI)では、研究責任医師が製薬企業の関与についての取り扱い基準(利益相反管理基準)を定め、実施医療機関の管理者や所属機関の長がチェックし、それに基づいて責任医師が利益相反計画を作成することを求めています。
施行規則の公布に合わせて出された厚労省医政局研究開発振興課長の通知では、利益相反基準には
▽企業の関与について研究計画書や説明同意文書に記載し、研究結果の公表時に開示すること
▽企業から研究資金の提供を受ける場合は契約を締結すること
▽重大な利益相反状態にある研究責任医師や研究分担医師が臨床研究に従事する場合の条件
▽企業の研究者が臨床研究臨床研究に従事する場合の条件
などを含むとされています。
具体的には、
(1)研究と関わりのある企業の寄付講座に所属し、企業が拠出する資金から給与を得ている
(2)研究と関わりのある企業から年間250万円以上の個人的利益を得ている
(3)研究と関わりのある企業の役員に就任している
(4)研究と関わりのある企業の株式を保有している
(5)研究と関わりのある企業の医薬品に関係する特許を保有・出願している
場合には研究責任医師にはなれず、研究に関与する場合は、データ管理やモニタリング、統計・解析には従事することはできません。
研究対象者の保護に重点を置いているのも臨床研究法の大きな特徴です。実施基準では「研究責任医師は研究の内容に応じ、実施医療機関が救急医療に必要な施設・設備を有していることを確認しなければならない」としており、研究対象者に対する補償の規定も盛り込まれました。
さらに、一連の臨床研究の不適正事案でも問題となった研究データの質については、モニタリングと監査が義務付けられ、治験と同等の管理が求められるようになりました。施行規則では、研究者が直接担当する業務を自身でモニタリング・監査することは禁じられています。
研究計画書は認定委員会がチェック
実施基準で作成が義務付けられた研究計画書には、▽研究の実施体制▽研究目的・内容▽有効性・安全性の評価――などを記載しなければならないとされています。
研究責任医師が作成した研究計画書は、利益相反管理基準や利益相反管理計画などとともに、厚労省が認定する「認定臨床研究審査委員会」に提出します。委員会は研究計画書が実施基準に適合しているかをチェックした上で、研究実施の適否や留意事項を研究責任医師に通知。研究責任医師は委員会からの指摘を反映させた上で、研究計画書のエッセンスをまとめた実施計画を厚生労働相に提出します。
認定臨床研究審査委員会は、医学・医療の専門家や法律の専門家、一般の立場の人など5人以上で構成。厚労省は3月30日付で49の審査委員会を認定しました。
厚労省は改善・中止の命令が可能に
臨床研究により有害事象が起こった場合、定められた期間内に認定審査委員会と厚生労働相に報告しなければなりません。また、研究の状況も定期的に認定審査委員会に報告することが義務付けられています。
厚生労働相は研究責任医師に対し、研究の改善や停止を命令することができるとされました。罰則規定も設けられ、最高で3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金が課されます。
製薬企業に資金提供の公表を義務化
臨床研究法では、利益相反の観点から製薬企業に研究への資金提供を公表することを義務付けています。
企業に公表が求められるのは、▽研究資金▽寄付金▽原稿執筆や講演などに対する報酬――で、今年10月1日以降に始まる事業年度から適用。各事業年度の終了後1年以内に公表しなければなりません。講演に伴う交通費や会場費などの情報提供関連費用、接遇比、労務提供、物品などは公表の対象外です。
研究資金は企業の関連財団などを経由して提供されるものも公表の対象です。寄付金は特定臨床研究の終了後2年以内に研究責任医師の所属する機関に提供されたものも含まれます。
施行規則の公布に合わせて出された厚労省の通知では、資金提供の公表はインターネット以外は認めないとされました。日本製薬工業協会の「透明性ガイドライン」では、閲覧申請をしなければ詳細を見られなかったり、印刷を禁止する設定を行ったりする企業もありましたが、臨床研究法に基づく公表ではこうした手法も認められないとされています。