医薬品業界の積年の課題である「流通改善」。いよいよ、国が問題の解決を主導することになりました。
厚生労働省は、製薬企業と医薬品卸、医療機関・薬局それぞれが流通改善に向けて取り組むべきことを盛り込んだガイドラインを策定し、4月から運用を始める予定です。当事者間の取り組みではなかなか進まなかった流通改善は、これで一気に解決へと向かうのでしょうか。
流通改善 3つの大きな課題
今後は国が主導し、流通改善の取り組みを加速する――。厚生労働省は昨年12月13日に開かれた「医療用医薬品の流通改善に関する懇談会」(流改懇)に、製薬企業、医薬品卸、医療機関・薬局の3者が流通改善に向けて取り組むべき事項を定めたガイドラインの案を示しました。強制力はないものの、ガイドラインを守っていない事例を公表するなどして実効性を担保する考えで、今年4月1日から運用を開始する予定です。
医薬品の流通改善は、業界にとって長年の課題です。
医療機関や薬局は、仕入れ値(納入価)を可能な限り下げ、公的価格である薬価との差益で利益を得ようとしてきました。一方、メーカーは卸への販売価格(仕切価)を高く設定し、なるべく薬価に近い価格で医薬品を売ろうとします。納入価の下落は、そのまま薬価の引き下げにつながるからです。
安く買おうとする医療機関・薬局と、高く売りたいメーカーの間に挟まれ、医薬品卸は低収益にあえいでいます。大手卸の営業利益率(医薬品卸売事業)は1%を下回る年も珍しくありません。
「未妥結・仮納入」「総価取引」「一次売差マイナス」
こうした構造の中、製薬企業と卸、そして医療機関・薬局は長年、独特の商取引を続けてきました。納入価が決まらないまま納入する「未妥結・仮納入」や、本来は個々の医薬品ごとに決めるべき納入価を「ひと山いくら」で値引きする「総価取引」がその象徴。こうした慣行は、薬価改定のよりどころとなる市場実勢価格を正確に把握することを難しくしています。
加えて、納入価が仕切価を下回る「一次売差マイナス」も医薬品流通の大きな課題。メーカーは「割戻(リベート)」や「アローアンス(販売奨励金)」を卸に支払うことで不足分を補填していますが、不透明な部分も多いのが実態です。
「一次売差マイナス」は拡大「単品単価」も頭打ち
こうした医薬品流通の問題解決は、これまで当事者間の取り組みとして進められてきました。2004年には、メーカーと卸、医療機関・薬局の代表者が流通改善に向けた策を話し合う流改懇が発足。流改懇は07年、▽一次売差マイナスと割戻・アローアンスの拡大傾向の改善▽長期にわたる未妥結・仮納入の改善▽総価契約の改善――を柱とする「緊急提言」をとりまとめました。
ところが、それから10年たった今も問題は解決に至っていません。
日本医薬品卸売連合会のまとめによると、一次売差は03年度以降、マイナスが続いており、15年度はマイナス3.22%。流改懇が緊急提言をまとめた07年度(マイナス2.69%)から0.53ポイント拡大しました。一方、割戻・アローアンスは7.00%と高止まりで、一次売差のマイナスを割戻・アローアンスで補う構造が固定化しています。
総価契約の改善では、納入価を品目ごとに決める「単品単価取引」の割合が、16年度は200床以上の病院で57.7%(07年度は36.2%)、20店舗以上を展開する薬局チェーンで60.6%(同1.0%)と増えました。
特に薬局チェーンでは、卸と単品単価取引推進のための「覚書」を交わす取り組みを行ったことで大きく上昇。ただ、ここ数年は病院、薬局チェーンとも単品単価取引は頭打ちで、改善が十分進んだとは言えません。
一方、未妥結・仮納入については、14年度の診療報酬・調剤報酬改定でいわゆる「未妥結減算」制度が導入されたことで大幅に改善しました。未妥結減算は、妥結率(取り引きする医薬品のうち、納入価が妥結した)が低い医療機関・薬局の報酬(200床以上の病院は初診料・外来診療料・再診料、薬局は調剤基本料)を減らす制度。これにより妥結率は、08年9月時点の70.9%から16年9月時点では93.1%と大きく上昇しました。
ガイドライン 守らなければ公表、指導も
ここにきて国が流通改善への関与を強める背景にあるのが、薬価の毎年改定です。
昨年末に取りまとめられた薬価制度抜本改革の骨子では、2年に1度の薬価改定の間の年も全品目を対象に市場実勢価格を把握するための薬価調査を行い、それに基づいて薬価改定を行うことが明記。これまで以上に正しく市場実勢価格を把握する必要に迫られたことが、厚労省の背中を押しました。
厚労省がまとめた流通改善に関するガイドライン案は、▽一次売差マイナスの解消に向けた適切な仕切価設定▽早期妥結と単品単価取引の推進▽過大な値引き交渉の是正――が柱です。単品単価取引は「原則、全品目で進める」とし、単品単価契約の割合を毎年高めていくことを要請。医薬品の価値や流通コストを無視した値引き交渉は慎むことも明記しました。
ガイドラインの実効性を担保するため、厚労省内に流通関係者からの相談を受け付ける窓口を設置します。ガイドラインが守られていない事例は流改懇に報告するほか、厚労省のサイトでも公表。場合によっては厚労省が指導を行います。
さらに、診療報酬・調剤報酬での対応も行います。未妥結減算制度で「単品単価取引の割合」や「一律値引き契約の状況」の報告を求め、報告を行わなかった場合には減算の対象とする方向です。
薬価や調剤報酬の引き下げなどを背景に、医薬品流通をめぐる環境は厳しさを増しています。流通改善は一筋縄ではいきませんが、不健全な取り引きが続けば薬価制度の信頼性は揺らぎます。国主導の下、関係者全体で改善に取り組むことが必要です。