火中の栗を拾ったのは、感染症が重点領域のMeijiSeikaファルマを擁する明治グループでした。12月12日、化学及血清療法研究所(化血研)の事業譲渡の受け皿として設立される新会社に議決権ベースで49%を出資すると発表。連結子会社にし、代表取締役社長と取締役の過半を送り込みます。
血液製剤の不正製造問題の発覚から2年半余り。迷走を続けた化血研の受け入れは、明治グループの医薬品事業に何をもたらすのでしょうか。
問題発覚から2年半
化血研は12月12日、人体用ワクチン、血漿分画製剤、動物用ワクチンの3事業をはじめとする主要事業を、明治グループと地元・熊本県の企業連合、そして熊本県が出資して設立する新会社に譲渡すると発表しました。
譲渡額は500億円で、新会社は議決権ベースで49%(98億円)を出資する明治グループの傘下入り。地場卸の富田薬品や再春館製薬所、地元テレビ局などからなる熊本の企業連合が49%を出資し、残る2%は熊本県が出します。事業譲渡は18年9月までに完了する予定です。
混迷を極めた化血研問題は、これでようやく区切りを迎えることになります。新しい体制にこぎ着けるまで、問題発覚から2年半余りの時間を要しました。
化血研が国の承認書と異なる方法で血液製剤を製造していたことが明らかになったのは2015年5月。翌16年1月には、厚生労働省が過去最長となる110日間の業務停止を命令。塩崎恭久厚生労働相(当時)は「化血研という組織のまま製造販売を続けることはない」と事業譲渡による解体的な出直しを迫りました。
化血研は当初、アステラス製薬と譲渡交渉を進めていましたが、条件面で折り合わず難航。この間、化血研は独自再建の志向を強め、結局、交渉は破談となりました。厚労省は16年10月、日本脳炎ワクチン「エンセバック」でも不正製造が見つかったことを明らかにしましたが、化血研はこれに真っ向から反論。問題は混迷の度合いを深めました。
事態が動いたのは17年5月。早川堯夫前理事長が辞任し、MeijiSeikaファルマ出身の木下統晴氏が理事長になってからでした。木下氏は、早川氏が主張した独立路線を改め、事業譲渡を急ぐ方針に転換。そして今回、古巣が出資する新会社への事業譲渡が決まりました。
ワクチン取り込み「予防から治療まで」 バイオも強化
不正製造問題で社会的にも強い批判を浴びた化血研に、明治ホールディングス(HD)が手を差し伸べたのはなぜか。理事長が同社出身だということも大きな要因として考えられますが、狙いは医薬品事業で新たな成長基盤を手に入れることにほかなりません。
特にワクチンは、MeijiSeikaファルマが重点領域とする感染症領域と親和性が高く、明治HDは出資を通じて実現可能なこととして、第1に「感染症に対する予防から治療までのバリューチェーンの構築」を挙げています。主力の抗菌薬は、耐性菌の問題で適正使用が強化されているうえ、後発医薬品の普及もあり売り上げは減少。かつては170億円規模の売り上げを誇ったセフェム系抗菌薬「メイアクト」も、17年度は75億円まで落ち込む見通しです。
ワクチンは安定した需要が見込め、製造できる会社も国内では現在、6法人しかありません。感染症を重点領域とするMeijiSeikaファルマが、製造機能を持つ化血研のワクチン事業を取り込む意義は大きく、明治HDは国内での販売拡大とともに、海外展開にも期待しています。
明治HDが出資のポイントとしてもう1つ挙げるのが、バイオ医薬品の研究力・開発力の強化です。化血研はワクチンの作成技術だけでなく、抗体の作成技術や細胞培養技術、タンパク質の高純度精製技術などを保有。治療用抗体の研究開発も行っており、海外では抗HIV抗体(エイズ治療薬)の臨床試験を進めています。
MeijiSeikaファルマはバイオシミラーの開発に取り組んでおり、今年3月には韓国企業との合弁会社でバイオ医薬品の原薬・製剤の受託製造サービスを開始。化血研の事業を取り込むことで、バイオ医薬品事業の加速を期待します。
明治傘下で信頼回復なるか
譲渡先が決まったことで、今後は不正製造で地に落ちた信頼の回復が焦点となります。
明治HDは新会社の代表取締役社長と取締役の半数以上を指名することになっており、経営の実権を握ります。これまで財団法人として事業を行ってきた化血研に企業流のガバナンスを持ち込む考えで、化血研は「明治グループ全体のガバナンス体制に従って指導・管理・監督が行われ、コンプライアンスと経営の健全性が確保される」としています。ただ、40年間にも渡って不正の隠蔽を続けてきた組織の問題は根深く、信頼回復の道のりは決して平坦ではありません。
明治HDはMeijiSeikaファルマのサポートにより、コンプライアンスを強化し、厳格な品質管理・生産管理体制を構築したい考え。ただ、財団法人と株式会社という組織風土の違いもあり、再生に向けた取り組みは困難も予想されます。