米国に本社を置くDecision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回は米国で依然深刻なオピオイドの乱用を取り上げます。薬剤給付管理会社が相次いで、処方日数に制限を設けるなど乱用防止策を打ち出しています。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
オピオイドによる死亡は4倍に増加
オピオイドの乱用は今なお注目の高い問題だ。
米疾病管理予防センター(CDC)によると、過量服薬による死亡の多くにオピオイドが関与しており、処方箋薬のオピオイドによる死亡は1999年から4倍に増加している。届け出のあったオピオイドによる死亡例のうち851人が乱用しており、新規に10日分のオピオイドが処方された患者の5人に1人が、長期に渡って服用していることが分かっている。
骨折や慢性疼痛、歯科治療で最もよく処方される「ヒドロコドン/アセトアミノフェン配合剤」「オキシコドン/アセトアミノフェン配合剤」「サボキソン」などのオピオイド鎮痛薬は、疼痛管理には非常に効果的だが、常習性があり、誤用や過量服薬死、救急搬送など健康上有害な結果を招くことが多くある。処方ガイドラインや臨床試験のエビデンスがあるにも関わらず、過剰投与は今なお大きな課題だ。
こうした中、米国の大手薬剤給付管理会社(PBM)各社は、オピオイドの乱用防止を目的としたプログラムを開始している。
PBM最大手 オピオイドの初回処方を7日に制限
エクスプレス・スクリプツ社は2017年9月1日、乱用防止プログラムとAdvanced Opioid Management(高度なオピオイド管理)を開始した。
これは、加入者10万人を対象に行った調査に基づいて2016年に開始した試験的なプログラムを拡大したもの。処方元、薬剤師、患者と連続する治療の各接点でリスクを低下させることを意図している。同社によると、試験的に行ったプログラムの結果は良好で、6カ月のフォローアップ期間中、対照群と比べ介入群は入院が38%、救急外来受診は40%減った。
新規患者には短時間作用型
このプログラムでは、初回のオピオイド処方は7日分に制限されている。1回の服用量を制限することも目標としており、オピオイドを使ったことのない患者に対しては、長時間作用型よりも短時間作用型が優先されることになる。ただ、エクスプレス・スクリプツ社のこのプログラムは、医師がどういう処方を行ったかに関わらず初回の処方を7日間に制限していること、また事前に承認が必要なことに対して米国医師会から異論の声が上がり、相当な批判を受けた。
医療機関・薬局の利用状況をモニタリング
オピオイドを乱用する患者は、複数の医療機関や薬局からオピオイドを入手しようとすることが多い。エクスプレス・スクリプツ社では、医療機関や薬局の利用状況も含め、オピオイド使用者の行動パターンをモニターすることも計画している。
モニタリングでこうした行動をとる患者が見つかれば、新規患者の場合は通報するとともに、乱用や中毒の危険性を警告。すでにオピオイドを使用している患者については、モルヒネ換算量で1日200mg以下に処方が制限されることになりそうだ。この制限を上回る場合、PBMはその患者をモニターするよう、処方医に注意喚起する。
エクスプレス・スクリプツのプログラムは、がん患者や生命を脅かす疾患の患者、ホスピスケアを受けている患者には適用されない。
同社のプログラムは、16年にCDCがプライマリケア医向けに出したオピオイド処方ガイドラインも土台としている。この中ではオピオイド未使用の患者について、初回は短時間作用型を処方すること、極力少ない量で治療を始めることを推奨している。モルヒネ換算で50mg以上が処方された場合、CDCは処方者に警告を出し、モルヒネ換算で90mgを超えないよう注意喚起する。
1回量にも上限 不適切処方する医師を特定
一方、CVSケアマーク社はオピオイドを10日以内に制限するとともに、1回の服用量にも上限を設定。原則、短時間作用型から投与を始めることにしている。同社はさらに、米国の41の州と連携し、オピオイドの過量服薬に対する治療薬であるナルカンの使用を拡大させている。
CVSケアマークにも、処方箋薬の監視プログラムがある。また、CVSグループの小売り薬局とも連携し、処方傾向の見直しやハイリスク薬を極端なパターンで処方する医師の特定も行っている。さらにオピオイドの使用を管理するプログラムを2018年2月1日から開始する予定で、これにより新規患者へのオピオイドの処方は7日分に制限されることになる。
プライム社は2017年7月、規制物質管理プログラムを開始し、オピオイドの乱用と依存症の対策に取り組んでいる。このプログラムには▽規制物質を乱用するリスクのある個人を特定するリスク・アセスメント・スコア▽啓発活動▽直接介入――が含まれる。2018年にはさらに、予測的モデリングシステムを実行に移し、薬物乱用防止プログラムをさらに推進する予定だ。
ユナイテッドヘルス・グループ傘下のオプタムRx社は、オピオイドリスク管理プログラムを全米で行っており、販売されているオピオイドのモルヒネ換算量を、薬剤や剤形のレベルまで細分化して算出するアルゴリズムを作成。これにより、新規にオピオイドを開始した患者では、処方が7日以上とならないことが保証される。
トランプ大統領「国家的な非常事態」保険会社でも対策
オピオイドの乱用防止に対するPBM各社の取り組みは、この問題に高い関心を寄せる議会やその他の関係者と歩調を合わせたものだ。
ドナルド・トランプ米大統領は、オピオイドの乱用が「国家的な非常事態」との認識を表明。米FDA(食品医薬品局)のスコット・ゴットリーブ長官も、このオピオイド危機に全力で立ち向かうよう1万8000人のFDA職員に文書で呼びかけた。
メディケイドでも量的制限
メディケイドは全国的にオピオイドの処方を追跡する処方箋薬監視計画を進め、量的な制限や事前承認など、いくつかの規制を実行に移している。
医療保険会社のシグナは、オピオイドの使用患者が前年比で12%減ったこと、オピオイド中毒の治療を求める加入者の事前承認規定は取り下げる予定であることを発表。同業のアンセム社は、新規に短時間作用型オピオイドの処方を受けた場合の保険給付の上限を7日分に制限したところ、オピオイドの処方が30%減ったと発表しました。
保険者やPBMの影響力が対策の成否を分ける
Decision Resources GroupがFormulary Insightsレポートシリーズで分析している通り、各PBMが処方箋薬の利用に与える影響力は州ごとに大きく異なっている可能性がある。医療提供社と保険者の力関係も地域によって大きく異なり、こうしたことがオピオイド乱用防止プログラムの効果に影響を与える可能性もある。
医療提供者と保険者が高度に統合されている州、保険者やPBMの影響力が強い州では、乱用防止プログラムがより高い成果を上げるだろう。
(原文公開日:2017年10月11日)
【AnswersNews編集長の目】2016年に急逝した米人気歌手プリンスさんの死因としても注目された、オピオイドの過剰摂取。米研究チームの調査によると、2015年に全米で9180万人(成人人口の37.8%)が処方薬のオピオイドを使用、このうち1150万人が乱用で、190万人がオピオイド中毒だと推定されています。
オピオイドがいくら効果の高い鎮痛剤であるとはいえ、人口の4割近い人に処方されている現状はやはり行き過ぎでしょう。
政府も手をこまねいているわけではなく、オピオイド中毒による死亡が急増した2000年代以降、乱用防止の対策を強化。処方量自体は減少傾向にあると言われますが、乱用は依然として大きな社会問題です。FDAは今年5月、米エンド・ファーマシューティカルズが製造するオピオイド系鎮痛薬「Opana ER」について、乱用されている可能性があるとして販売中止を勧告。FDAがこうした措置をとったのは初めてで、エンドはその後、勧告に従って同剤の販売を中止しました。メーカーが自主的に販売を中止したケースもあります。
オピオイドの乱用をめぐっては、リスクを軽視して販売した製薬企業の責任を問う声も上がっており、司法当局による調査や法的措置も増加。米司法省は過剰処方を行う医療従事者にも厳しい姿勢を示しており、今年7月には医師や看護師ら412人を訴追しました。
トランプ大統領が「国家的な非常事態」とまで言った米国のオピオイド乱用。薬剤給付管理会社や保険会社だけでなく、医療従事者や製薬企業、そして患者も巻き込んだ対策が求められます。 |
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。Decision Resources Group は主要7ヶ国の今後10年の市場予測レポート(Disease Landscape & Forecast : Opioid Addiction)を今年12月に発行予定です。レポートに関するお問い合わせはこちら。