抗凝固薬「イグザレルト」の販売促進に絡み、バイエル薬品の社員が患者のカルテを無断で閲覧するなどしていた問題で、同社は7月14日、再発防止策を発表した。弁護士などで構成する外部調査チームは、カルテを無断で閲覧し、患者情報を取得した行為を「個人情報保護法に抵触する可能性がある」と指摘。バイエル薬品は、抗凝固薬のアドヒアランスを検討する目的で行ったアンケート調査について「疫学研究に関する倫理指針に沿って進められるべきだった」との認識を示した。
最大298人分の患者情報を取得
発表によると、バイエル薬品宮崎営業所の社員3人(うち2人は営業所長)は2014年4月頃~15年8月頃、宮崎県内の診療所で患者からの同意取得の有無を確認することなく、カルテなどから最大298人分の患者情報を不適切に取得した。
不適切に取得した情報は▽氏名▽カルテID▽年齢▽性別▽生年月日▽身長▽体重▽主病名▽検査値▽保険者番号――など。医師の講演資料やアンケート調査の考察論文に使う目的だったという。
講演資料・論文への関与「不適切な行為」
アンケート調査は、宮崎営業所の前所長が、医師の講演資料に使うことを想定して企画した。アンケート調査の実施過程では、前プロダクトマネジャーも調査結果を論文化して販促資材に用いることを企画。患者情報の不適切取得が行われた宮崎県内の診療所院長に持ちかけた。
調査の企画・実施や論文の作成について、メディカル・アフェアーズ部門のチェックは行われていなかった。同社社員は調査の企画、調査票作成、調査結果の集計などを行っており、集計表やグラフを作成するなど、論文や講演資料の作成にも関与していた。社員が行ったデータの集計には複数のミスがあり、不正確な集計結果が講演資料や論文に記載されたという。
同社は「適切なプロトコールや手順を定めた上で関与の程度を制限すべきだった。アンケート調査と論文作成は、疫学研究に関する倫理指針に沿って進められるべきだった」とし、社員の行為を「不適切な行為だった」と結論付けた。
営業部門の学術サポートを禁止
再発防止策は、▽個人情報の取り扱いに関する教育の徹底▽アンケート調査の運用に関する社内規定の策定▽ガバナンス管理体制の強化――の3つが柱。営業部門が講演会資料の作成や論文執筆などの学術サポートを行うことを禁止するとともに、これを徹底するために定期的なトレーニングや監査を行うことなどを盛り込んだ。
バイエル薬品は「患者、医療関係者、関係するすべての方々にお詫び申し上げる」と謝罪。「意図的な改ざんは認められなかったものの、社員による不適切な行為および内容の一部が不正確な論文が発表されたことを反省している」とコメントした。