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バイオシミラー

バイオシミラーとは

バイオシミラーとは、国内ですでに承認されているバイオ医薬品(先行バイオ医薬品)と同等・同質の品質、安全性、有効性を持つ医薬品のことです。通常、先行バイオ医薬品を開発した会社とは別の会社が開発し、先行バイオ医薬品の特許が切れた後に発売されます。国内の規制では「バイオ後続品」が正式な呼び方とされています。

 

バイオシミラーと後発医薬品の違い

バイオシミラーと低分子医薬品の後発医薬品の最も大きな違いは、開発方法にあります。

 

バイオシミラーと後発医薬品の違いの表。【バイオシミラー(バイオ医薬品)】<定義>新有効成分含有医薬品として承認されたバイオテクノロジー応用医薬品(先行バイオ医薬品)と同等/同質の品質、安全性および有効性を有する医薬品。<分子構造>複雑。<有効性・安全性>先行品とほぼ同じ。<開発に必要な試験など>臨床試験、臨床薬理試験(PK/PD試験)、非臨床試験、品質特性解析。<開発費用>数十億円~。【後発医薬品(低分子医薬品)】<定義>先発医薬品と同一の有効成分を同一量含み、同一経路から投与する製剤で、効能・効果、用法・用量が原則的に同一であり、先発医薬品と同等の臨床効果・作用が得られる医薬品。<分子構造>単純。<有効性・安全性>先発品と同じ。<開発に必要な時間など>生理学的同等性試験、品質特性解析。<開発費用>数千万円~。

 

化学合成でつくられる低分子の後発品の場合、開発では、有効成分が先発医薬品と同一であることを検証します。臨床試験を行う必要はなく、ごく少数の健常者に先発医薬品と後発品を同じ量だけ投与する「生物学的同等性試験」で、薬物動態が同じであることを証明すればよいとされています。

 

一方、バイオ医薬品には▽分子量が非常に大きく、分子構造が複雑である▽動物の細胞などを使って製造する――といった特徴があり、先行バイオ医薬品と同一のバイオシミラーをつくるのは不可能。バイオシミラーが「シミラー(類似した)」と呼ばれる理由はここにあります。

 

バイオシミラーの開発では、先行バイオ医薬品と全く同じでなかったとしても、臨床的には同等・同質であることを証明する必要があります。このため、実際の患者を対象とした臨床試験を行い、有効性と安全性を確認しなければなりません。

 

バイオシミラーにおける「同等・同質」とは、「先行バイオ医薬品と品質特性の類似性が高く、かつ、品質特性に何らかの差異があったとしても、最終製品の安全性や有効性に有害な影響を及ぼさないと科学的に判断できること」と定義されています。つまり、バイオシミラーは先行バイオ医薬品と全く同じではないものの、先行バイオ医薬品と同様の有効性と安全性が期待できる、ということです。

 

バイオシミラーの薬価

バイオシミラーの薬価は、先行バイオ医薬品の薬価に0.7を掛けた額となります。

 

バイオシミラーと後発医薬品の薬価の比較。先行バイオ医薬品・先発医薬品を100とした場合、バイオシミラーは「先行バイオ医薬品×0.7」、後発医薬品は「先行医薬品×0.5」。

 

通常の後発品(原則、先発品の薬価×0.5)よりも高く設定されているのは、開発や製造に多額のコストがかかるからです。臨床試験の充実度合いによっては、10%を上限に加算がつく場合もあります。

 

2番手以降(すでに同じ有効成分のバイオシミラーが販売されている)場合、薬価は、すでに販売されているバイオシミラーの最も安い薬価と同額になります。

 

バイオシミラーの薬価収載は5月と11月の年2回。ちなみに低分子の後発医薬品の薬価収載は6月と12月です。

 

バイオシミラーの名称

バイオシミラーの一般名と販売名は、厚生労働省によってつけ方のルールが定められています。

 

バイオシミラーの一般名は、先行バイオ医薬品の一般名の末尾に、「後続1(後続2、後続3…)」と角括弧書きで記載します。販売名は、先行バイオ医薬品の一般名のあとに、バイオシミラーであることを示す「BS」と、剤形、含量、会社名を付記するのが原則です。

 

バイオシミラーの名称。【例】持田製薬のフィルグラスチム(遺伝子組み換え)の場合。▽先行バイオ医薬品、一般名:フィルグラスチム(遺伝子組み換え)、販売名:グランシリンジ75。▽バイオシミラー、一般名:フィルグラスチム(遺伝子組み換え)[フィルグラスチム後続1]、販売名:フィルグラスチムBS注75μgシリンジ「モチダ」。

 

国内で承認されているバイオシミラー

日本国内では2018年10月6日現在、9つの先行バイオ医薬品に対して16のバイオシミラーが承認されています。

 

国内初のバイオシミラーは、成長ホルモン剤「ソマトロピン」(一般名・ジェノトロピン)のバイオシミラーで、サンドが2009年に承認を取得。2010年には腎性貧血治療薬「エスポー」(エポエチン アルファ)のバイオシミラーが承認され、2012年以降は、G-CSF製剤「グラン」(フィルグラスチム)やインスリン製剤「ランタス」(インスリン グラルギン)、抗TNFα抗体「レミケード」(インフリキシマブ)などに相次いでバイオシミラーが登場しています。

 

日本国内で承認されているバイオシミラーの表。先行バイオ医薬品名:ジェノトロピン、バイオシミラー販売名:ソマトロピンBS皮下注「サンド」、社名:サンド、承認年:2009年。先行バイオ医薬品名:エスポー、バイオシミラー販売名:エポエチン アルファBS注「JCR」、社名:JCRファーマ、承認年:2010年。先行バイオ医薬品名:グラン、バイオシミラー販売名:フィルグラスチムBS注「モチダ」「F」、社名:持田製薬・富士製薬工業、承認年:2012年。先行バイオ医薬品名:グラン、バイオシミラー販売名:フィルグラスチム「NK」「テバ」、社名:日本化薬・テバ、承認年:2013年。先行バイオ医薬品名:グラン、バイオシミラー販売名:フィルグラスチムBS注「サンド」、社名:サンド、承認年:2014年。先行バイオ医薬品名:レミケード、バイオシミラー販売名:インフリキシマブBS点滴静注用「NK」「CTH」、社名:日本化薬・セルトリオン、承認年:2014年。先行バイオ医薬品名:レミケード、バイオシミラー販売名:インフリキシマブBS点滴静注用「あゆみ」「日医工」、社名:あゆみ製薬・日医工、承認年:2017年。先行バイオ医薬品名:レミケード、バイオシミラー販売名:インフリキシマブBS点滴静注用「ファイザー」、社名:ファイザー、承認年:2018年。先行バイオ医薬品名:ランタス、バイオシミラー販売名:インスリングラルギンBS注「リリー」、社名:日本イーライリリー、承認年:2014年。先行バイオ医薬品名:ランタス、バイオシミラー販売名:インスリングラルギンBS注「FFP」、社名:富士フィルムファーマ、承認年:2016年。先行バイオ医薬品名:リツキサン、バイオシミラー販売名:リツキシマブBS点滴静注「KHK」、社名:協和発酵キリン、承認年:2017年。先行バイオ医薬品名:ハーセプチン、バイオシミラー販売名:トラスツズマブBS点滴静注用「NK」「CTH」、社名:日本化薬・セルトリオン、承認年:2018年。先行バイオ医薬品名:ハーセプチン、バイオシミラー販売名:トラスツズマブBS点滴静注用「第一三共」、社名:第一三共、承認年:2018年。先行バイオ医薬品名:ハーセプチン、バイオシミラー販売名:トラスツズマブBS点滴静注用「ファイザー」、社名:ファイザー、承認年:2018年。先行バイオ医薬品名:エンブレル、バイオシミラー販売名:エタネルセプトBS皮下注用「MA」、社名:持田製薬、承認年:2018年。先行バイオ医薬品名:ファブラザイム、バイオシミラー販売名:アガルシダーゼ ベータBS点滴静注「JCR」、社名:JCRファーマ、承認年:2018年。

 

国内で開発中のバイオシミラー

今後もバイオ医薬品が相次いで特許切れする見通しで、バイオシミラーの開発も活発化しています。

 

TNFα阻害薬「エンブレル」(エタネルセプト)のバイオシミラーは、あゆみ製薬が2018年5月に販売を開始(製造販売承認は持田製薬)しましたが、協和薬品工業も同年3月に申請済み(販売は日医工の予定)。YLバイオロジクスも臨床第3相(P3)試験を行っています。抗TNFα抗体「ヒュミラ」(アダリムマブ)のバイオシミラーは、持田製薬や第一三共などが開発を進めています。

 

腎性貧血治療薬「ネスプ」(ダルベポエチンアルファ)のバイオシミラーは、JCRファーマと三和化学研究所がそれぞれ2018年9月に申請。YLバイオロジクスも臨床試験を進めています。

 

※詳しくは→「【UPDATE】バイオシミラー 最新の国内開発状況まとめ―大型バイオ薬が相次ぎ特許切れ 新薬大手も続々参入

 

バイオシミラーをめぐる最近のトピックス

バイオにもオーソライズド・ジェネリック

協和発酵キリンは2018年8月、子会社・協和キリンフロンティアを通じて、腎性貧血治療薬「ネスプ」のオーソライズド・ジェネリック(AG)の承認を取得しました。バイオ医薬品のAGが承認されるのは国内初。2019年7~9月の発売を予定しています。

 

ネスプのAGはバイオシミラーではなく、低分子の後発品と同じ枠組みで承認されました。AGは先行バイオ医薬品と原薬や添加物、製造方法が同じなため、先行バイオ医薬品と品質特性も「同一」であるとみなされたようです。このようなバイオAGは、類似品であるバイオシミラーと区別して「バイオセイム」とも呼ばれます。

 

政府が普及に本腰

バイオシミラーは先行バイオ医薬品に比べて薬価が低く、医療費削減を狙う政府も普及に力を入れ始めています。

 

2017年6月に閣議決定された「骨太の方針(経済財政運営と改革の基本方針)」では、2020年度末までにバイオシミラーの品目数を成分数ベースで倍増させるとの目標が掲げられました。

 

バイオシミラーの普及に向けては、医師や患者の認知度・理解度の不足が課題として指摘されています。このため厚生労働省は2018年度から、医療従事者や一般市民を対象にバイオシミラーを正しく理解してもらうための講習会を全国で開催しています。

 

2017年9月の取引分を対象に厚労省が行った薬価調査によると、バイオシミラーへの切り替えによる医療費削減効果は、推計で年間87億円に上りました。

 

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