アストラゼネカの抗PD-L1抗体「イミフィンジ」が近く承認される見通しとなりました。この20年間、ほとんど治療に進歩がなかったステージIIIの非小細胞肺がんの治療。初めて登場する化学放射線療法後の治療選択肢に、医師らも高い期待を寄せています。
アンメットニーズが高いステージIIIの薬物療法
「この20年間、われわれはステージIIIの非小細胞肺がん患者に対して良い治療を全く生み出せなかった。免疫チェックポイント阻害薬が出ることで、もしかしたら20年ぶりに新しい有効な治療を届けることができるかもしれない」
和歌山県立医科大呼吸器内科・腫瘍内科の山本信之教授は、ステージIIIの非小細胞肺がんに対する免疫チェックポイント阻害薬の承認を間近に控え、治療の進展に期待を寄せています。
ステージIIIの非小細胞肺がんを適応とする初の免疫チェックポイント阻害薬として近く承認されるのが、アストラゼネカの抗PD-L1抗体「イミフィンジ」(一般名・デュルバルマブ)。4月25日の厚生労働省薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会で承認が了承されており、6月の正式承認、8月の薬価収載が見込まれています。
非小細胞肺がんの病期はがんの広がりによって大きく4つの病期に分けられ、左右の肺の間にある縦隔へのリンパ節転移があるとステージIII(III期)と診断されます。ステージIIIは、がんの広がりは肺にとどまっているものの、胸部のリンパ節に転移がある局所進行の状態。ステージIIIの患者は非小細胞肺がん全体の約2割を占めており、毎年2万人ほどが新たに診断されているといいます。
ステージIIIの非小細胞肺がんに対する治療は、切除可能な患者は外科手術が、切除不能な患者は放射線療法と化学療法を併用する「化学放射線療法」が標準。治療の目標は根治に置かれますが、5年生存率は20%程度と低く、高いアンメットメディカルニーズが残されています。
20年間 治療は進展せず
現在標準治療とされている化学放射線療法は、放射線治療にプラチナ系抗がん剤(シスプラチン、カルボプラチン)をベースとした化学療法(プラチナ併用療法)を併用する治療法。1990年代は化学療法後に放射線治療を行う逐次化学放射線療法が中心で、現在行われている同時化学放射線療法は2000年ごろから広がりました。
この間、化学療法に使う抗がん剤には「第3世代」と呼ばれる薬剤が登場。ステージIII非小細胞肺がんの化学放射線療法でも、こうした新しい薬剤を加えた様々な組み合わせが検討されてきました。しかし、従来の組み合わせも含めてどれも生存期間に差はなく、「非小細胞肺がんのステージIIIはこの20年間、治療成績は進歩していない」(山本教授)。
さらに、化学放射線療法後は「経過観察」が標準治療となっており、積極的な治療選択肢はいまだありません。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬の相次ぐ登場で飛躍的に進展したステージIVの治療とは対照的です。
化学放射線療法後に初めての治療選択肢
近く国内で承認されるイミフィンジの適応は「切除不能な局所進行の非小細胞肺がんにおける根治的化学放射線療法後の維持療法」。プラチナ製剤を使った根治的化学放射線療法後に疾患進行が認められなかった患者が対象で、1回10mg/kg(体重)を2週間間隔で投与します。投与期間は12カ月まで。米国では今年2月に承認を取得しています。
昨年9月に開かれた欧州臨床腫瘍学会で発表された臨床第3相試験「PACIFIC」の中間解析結果によると、イミフィンジは標準療法である経過観察と比較して統計学的に有意に無増悪生存期間(PFS)を延長。根治的化学療法後の維持療法として世界で初めてPFSの優越性を示しました。
ステージIIIの非小細胞肺がん患者は、化学放射線療法が奏効してもその後に積極的な治療を行うことができません。多くは局所再発や遠隔転移を起こし、予後は不良です。PACIFIC試験の結果は、これを大きく改善する可能性を示唆しています。「(イミフィンジの登場は)非常に大きなインパクトがある。使える患者にはかなり積極的に使われるだろう」。国立がん研究センター中央病院の大江裕一郎副院長・呼吸器内科長は話します。
非小細胞肺がんの適応を持つ免疫チェックポイント阻害薬はイミフィンジで4つ目。先に承認された3つの薬剤はいずれもステージIVを対象としたものですが、中にはステージIIIでの開発を行っている薬剤もあります。
山本教授は免疫チェックポイント阻害薬が使えるようになることで「ステージIIIでも薬だけでいけるようになるのではないかという期待は持っている」と話します。ステージIIIの非小細胞肺がんに対する薬物治療は今後、急速に発展していくことになるかもしれません。