協和発酵キリンが海外展開を加速させます。今年に入り、ブロックバスターへの成長を期待する新薬ブロスマブが欧米で承認されました。2020年までの中期経営計画で、海外売上高比率を50%まで引き上げることを目指す同社。念願だった欧米市場での自社販売に乗り出します。
グローバルで1500億円の売り上げを期待
2016~20年の中期経営計画で「グローバル・スペシャリティファーマへの飛躍」を掲げる協和発酵キリンにとって、そのカギを握る期待の新薬が今年、欧米で相次いで承認されました。自社創製の抗FGF23抗体「Crysvita」(一般名・ブロスマブ)。X染色体遺伝性低リン血症(XLH)の治療薬として、今年2月に欧州で、4月には米国で承認されました。
XLHは、体内のリンが尿に過剰に排泄されて低リン血症となり、結果として骨の成長や維持に障害をきたす希少疾患。小児では下肢の変形や低身長が多く見られ、成人では骨折のリスクが高くなります。
Crysvitaは、リンの過剰排泄の原因となるFGF23(線維芽細胞増殖因子23)の働きを阻害することで、体内のリンを増やすとされています。小児と成人、それぞれのXLH患者を対象とした臨床試験では、血清リン濃度の上昇や、くる病変の改善、骨折治癒率の上昇など良好な結果を得ました。ピーク時に世界で1500億円の売り上げを見込んでおり、同社としては初となるブロックバスターの期待がかかります。
海外売上高比率を3割から5割に
協和キリンは、Crysvitaの承認取得を契機に、欧米市場での自社販売に乗り出し、海外展開を本格化させる考えです。現行中計では、15年に31.4%だった海外売上高比率を20年までに50%まで引き上げることを目標に掲げています。
Crysvitaの発売に向けては、11年に買収した英プロストラカン(現社名は協和キリンインターナショナル)を中心に販売体制を構築。米国では、共同開発するウルトラジェニクスとも協力して販売網を整えました。
薬価引き下げによる国内事業の環境悪化に加え、19年には年間500億円超を売り上げる主力の腎性貧血治療薬「ネスプ」の特許切れも控える協和キリン。Crysvitaを軸とする海外事業の拡大により、20年にコアベースの営業利益を1000億円と16年(390億円)の2.6倍まで伸ばす戦略を描きます。
大型新薬の開発進展で株価も上昇基調が続いており、4月10日には合併後の最高値となる2478円を付けました。海外展開による業績拡大に、株式市場の期待も高まっています。
ブロスマブに続く新薬は
Crysvitaに続く新薬開発も進んでいます。
同社がCrysvitaとともに「グローバル戦略3品」に位置付ける抗CCR4抗体モガムリズマブは昨年、皮膚T細胞性リンパ腫の適応で欧米当局に申請しました。
米国では優先審査の対象に指定されており、今年6月4日までに承認の可否が判断される予定。モガムリズマブは、成人T細胞白血病リンパ腫の適応でも臨床第2相(P2)試験が進むほか、「イミフィンジ」「オプジーボ」といった免疫チェックポイント阻害薬との併用で固形がんへの展開も狙っています。同剤は協和キリンが初めて自社開発した抗体医薬。日本では「ポテリジオ」の製品名で2012年に発売しています。
グローバル戦略3品の残る1品目は、パーキンソン病治療薬イストラデフィリン(日本製品名・ノウリアスト)。一旦は米国で承認を拒否されるなど紆余曲折を経て、18年中の再申請に向けて準備を進めています。
Crystivaは、欧州では小児を対象とした条件付きの承認にとどまっており、同社は今後、条件の解除と成人への適応拡大に取り組む方針。条件付き承認では、現在行っている小児向け試験の完遂が求められており、成人を対象としたP3試験も進行中です。
協和発酵工業とキリンファーマが合併し、協和発酵キリンが誕生して今年10月で丸10年。節目の年は、グローバル・スペシャリティファーマへと飛躍する新たなスタート地点となります。