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ニュース解説

ついに成立 「臨床研究法」5つのポイント

更新日

臨床研究の不正を防止するための「臨床研究法」が4月7日、成立しました。

 

ARB「ディオバン」のデータ改ざん事件に端を発した、臨床試験に対する法規制の導入。新たな法律によって臨床研究はどう変わるのでしょうか。ポイントを5つにまとめました。

 

※2018年2月に公布された施行規則やその関連通知などをもとに、ポイントをより詳しくまとめた記事はこちら→【施行目前】4月スタートの臨床研究法 そのポイントは(2018年3月15日公開)

 

【ポイント1】規制対象は「製薬企業から資金提供を受けた研究」

「被告人(ノバルティスファーマ元社員)が意図的にデータ改ざんを行ったということは認定された。臨床研究に対する国民の信頼を回復させなければならないということが浮き彫りになった。(法案の)必要性は再確認されたと思うべきだ」

 

臨床研究法案が可決された3月17日の衆院厚生労働委員会。採決に先立って行われた質疑で、塩崎恭久厚生労働相は、前日に言い渡されたARB「ディオバン」をめぐる臨床研究データ改ざん事件の判決に対する感想をこう述べました。16日の東京地裁判決は、ノバルティス元社員による意図的なデータ改ざんを認定した一方、それをもとに書かれた論文は薬事法(現・医薬品医療機器等法)の誇大広告にはあたらないとし、元社員と同社を無罪としました。

 

この「ディオバン事件」をはじめ、2013~14年に相次いで発覚した研究不正を機につくられた臨床研究法。法的な規制を課すことで研究不正を防止し、臨床研究に対する信頼性を確保するのが狙いです。

 

臨床研究法で規制の対象となるのは、医薬品の臨床研究のうち▽製薬企業から資金提供を受けた臨床研究▽未承認・適応外の医薬品の臨床研究――。法律ではこれらを「特定臨床研究」と位置付け、実施の手続きを規定しています。臨床研究に対する規制

承認申請を目的とした臨床試験(治験)以外の臨床研究はこれまで、国の倫理指針に基づいて行われており、法的な規制はありませんでした。臨床試験(治験)はこれまで通り、GCP(Good Clinical Practice)省令による規制を受けるため、臨床研究法の対象とはなりません。

 

【ポイント2】治験と同等の「実施基準」順守を義務化

臨床研究法では、厚生労働省が「臨床研究実施基準」を定め、特定臨床研究を行う研究者らにその順守を義務付けています。

 

実施基準では、

(1)臨床研究の実施体制に関する事項
(2)臨床研究を行う施設の構造設備に関する事項
(3)臨床研究の実施状況の確認に関する事項
(4)対象者に健康被害が生じた場合の保障・医療の提供に関する事項
(5)特定臨床研究に使う医薬品を製造販売するメーカーの関与に関する事項
(6)その他必要な事項

について定めることとされています。

 

「ディオバン事件」の場合、ノバルティスの元社員が自社に有利になるように研究データを書き換えており、ノバルティスからは研究を行った大学に多額の奨学寄付金が提供されていました。実施基準では、太字部分の(3)で研究チーム以外の第三者がカルテとデータを照合するモニタリングが、(5)では製薬企業との利益相反管理が義務付けられます。ディオバン事件と同様の研究不正を防ぐには、この2つが特に大きなポイントと言えます。

 

実施基準の具体的な内容は今後、厚労省が関係する審議会で議論し、省令で定めることになっています。厚労省は実施基準をGCPに準拠したものにするとしており、特定臨床研究は治験と同等の厳格な手続きを求められることになります。

 

臨床研究法ではさらに、インフォームド・コンセントの取得や被験者の個人情報の保護、臨床研究に関する記録の保存なども義務付けています。

 

【ポイント3】研究計画の届け出を義務化 「認定委員会」で審査

臨床研究法では、研究者が研究の「実施計画」を作成して厚労省に届け出るとともに、厚労省が認定する「認定臨床研究審査委員会」の審査を受けることも義務付けられます。実施計画には、モニタリングや製薬企業の関与など、実施基準に対応した内容を記載しなければなりません。

臨床研究法に基づく特定臨床研究の実施手続き

認定審査委員会の認定要件は、臨床試験に関する専門的な知識をもつ委員で構成され、公正な審査ができる体制を整えていることなど。特定臨床研究の実施計画を審査するとともに、研究者に義務付けられる副作用報告を受け、必要に応じて原因究明や再発防止のための意見を述べます。具体的な認定要件は今後、厚労省が省令で定めます。

 

厚労省は実施計画の新規申請数を年間800件程度と見込んでおり、認定審査委員会を全国で50カ所程度整備する方針です。国会審議では審査が滞るとの懸念も示されましたが、厚労省は「50の認定審査委員会がそれぞれ月1、2件の計画を審査することを想定している。審査が滞ることはないと考えている」としています。

 

【ポイント4】研究の改善・停止を厚労省が命令

厚労省は臨床研究法で、実施基準の順守や実施計画の提出、認定審査委員会による審査を義務付けることにより、特定臨床研究を法律に基づいて監視したり、指導したりすることが可能になります。倫理指針に基づいて行われていた従来の臨床研究では、厚労省の行政指導にも強制力がなく、研究不正の歯止めとしては不十分との指摘がありました。

 

特定臨床研究の実施者には、研究の実施状況を定期的に厚労省に報告することが義務付けられます。実施基準の順守義務などに違反した場合、厚労省は改善命令や研究の停止命令を出すことが可能となり、最高で懲役3年、罰金300万円の罰則も設けられます。

 

厚労省は認定審査委員会に対しても改善命令や認定取り消しなどの処分を行うことができます。研究の実施者と研究の質を担保する認定審査会の両方に対して、法的根拠のある権限を持つことにより、研究不正ににらみをきかせる狙いです。

 

【ポイント5】資金提供の公表 製薬企業に義務付け

臨床研究法では製薬企業に対して、自社の医薬品を使った特定臨床研究に資金を提供する場合は契約を結ぶことを義務付けるとともに、研究を行う医師・歯科医師とその所属機関への資金提供を毎年度公表することを義務化します。

 

公表が義務付けられるのは「研究費(臨床)」「寄付金」「原稿執筆料・講師謝金など」で、接遇費は公表対象となりません。「寄付金」と「原稿執筆料・講師謝金など」は自社製品を使った臨床研究の終了後2年以内のものも含まれます。

 

日本製薬工業協会(製薬協)は2011年に「透明性ガイドライン」を策定し、13年度からは各メーカーが医療従事者への資金提供の内容を公開してきました。しかし、公開された情報を閲覧するための手続きが煩雑で、改善を求める声も少なくありません。臨床研究法に基づく資金提供の公表方法は、今後厚労省が定める省令に委ねられています。

 

契約を結ばなかったり、資金提供を公表しなかったりした場合、厚労省は製薬企業に対して勧告を行うことが可能で、それに従わなければ企業名を公表することができます。

 

臨床研究を推進?萎縮?

臨床研究法による規制のポイントを図にまとめました。臨床研究法による規制のポイント

厚労省は法規制によって臨床研究に対する信頼性を向上させ、臨床研究を推進させるとしていますが、研究者の負担は増えることになり、逆に臨床試験の停滞や萎縮を招くとの懸念もあります。法律の運用面の多くは、これからつくられる省令に委ねられています。

 

ディオバン事件では、不透明な奨学寄付金を通じた製薬企業と研究者の関係性が大きくクローズアップされました。産学連携はもはや革新的新薬の創出には欠かすことができません。法規制はやむを得えない面もありますが、臨床研究を萎縮させることなく、透明性を高めて産学連携を推進させる運用が求められます。

 

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