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オプジーボ 根拠乏しい「50%引き下げ」…17年2月に緊急薬価改定

高額な薬価が議論を呼ぶ免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」の薬価を緊急的に50%引き下げることが、11月16日の中央社会保険医療協議会(中医協)で決まりました。

 

引き下げ幅は当初、最大25%とみられていましたが、国会で野党がさらなる引き下げを要求。政府内からも大幅な引き下げを求める声が高まり、一気に「50%引き下げ」へと流れました。

 

厚生労働省が引き下げのよりどころとした年間販売額の推計は根拠に乏しく、50%という数字が先行した感は否めません。現行ルールを度外視した薬価引き下げに、製薬業界は反発しています。

 

 

100mg1瓶73万円→36.5万円

厚生労働相の諮問機関・中央社会保険医療協議会(中医協)は11月16日の総会で、小野薬品工業の免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」の薬価を50%引き下げることを了承しました。

 

これにより、20mg1瓶は15万200円から7万5100円に、100mg1瓶は72万9849円から36万4925円に、それぞれ引き下げられます。企業側から11月22日までに不服意見の提出がなければ、同24日に新薬価が告示。実際の引き下げは、2017年2月1日から適用されます。

 

中医協が了承したオプジーボの新薬価

 

薬価改定は2年に1回が原則で、直近の改定は16年4月に行われたばかり。本来なら次は18年4月まで待たなければなりませんが、「医療保険財政への影響が極めて大きいことから、緊急的に対応を講ずる」(厚労省)ことになりました。改定時期を外れた薬価の引き下げは、異例中の異例です。

 

「オプジーボ」は14年9月、悪性黒色腫の適応で発売。患者数が極めて少ないこともあり、高額な薬価が付きました。15年12月には非小細胞肺がんへの適応拡大が承認されましたが、16年度の薬価改定には間に合わず、高い薬価のままとなっていました。

 

野党が国会で追求 政府内からも圧力

当初、厚労省は、市場拡大再算定の特例ルール(特例拡大再算定)を適用して最大25%の引き下げを行うことで決着を図ろうとしている、と伝えられていました。特例拡大再算定は、年間販売額1000~1500億円で予想の1.5倍なら最大25%、1500億円で1.3倍以上なら最大50%、薬価を引き下げるルール。小野薬品が公表している16年度の年間販売予想1260億円を当てはめれば、最大25%の引き下げとなるはずでした。

 

市場拡大再算定の要件と引き下げ幅

 

ところが、この問題が国会で取り上げられると、流れは一気に変わります。

 

10月6日、参院の予算委員会で、日本共産党の小池晃議員が「25%ではあまりに不十分」と政府を追及。こうした声は野党だけにとどまらず、10月14日に開かれた政府の経済財政諮問会議でも「50%以上下がってもしかるべき」といった意見が上がりました。11月9日には、安倍晋三首相と日本医師会の横倉義武会長が会談。「適正な価格に引き下げるべき」との認識で一致しました。

 

内外価格差の存在も大幅引き下げを求める声を後押ししました。全国保険医団体連合会の分析によると、「オプジーボ」100mg1瓶の価格は、日本の約73万円に対し、米国は約30万円、英国は約15万円。米国とは2.5倍、英国とは5倍の価格差があるといいます。

 

推計販売額 あいまいな根拠「確実に大丈夫か」

通常、薬価改定は、改定前に行われる薬価調査で把握した市場実勢価格をもとに行われます。しかし、緊急的な改定となる今回は薬価調査を実施せず、厚労省が独自に推計した薬価ベースの年間販売額1516億円に基づいて引き下げ幅を50%と決めました。

 

先にも書いた通り、小野薬品が公表している16年度の年間予想販売額は1260億円。これは小野薬品から医薬品卸売業者への販売価格(仕切り価)をベースとしたものです。厚労省はこれに、▽流通経費▽消費税▽乖離率▽16年度の適応拡大分の販売額―を積み上げ、薬価ベースの年間販売額を「1516億円超」と見積もりました。

 

流通経費と乖離率は、薬価調査を行っていないため実際の数字を把握することは厚労省もできていません。そのため厚労省は、

 

流通経費「7%」…厚労省が毎年行っている「医薬品産業実態調査」の12~14年度の平均値で、新薬の薬価算定時にも採用している値

乖離率「3.45%」…15年度薬価調査の「その他の腫瘍用薬(注射薬)」の平均乖離率6.9%の2分の1(新薬創出加算の対象であることを考慮)

 

を使って年間販売額を推計しました。

 

厚労省が行った「オプジーボ」の薬価ベース販売額の推計

 

乖離率 平均の2分の1に「明確な根拠ない」

ところが、11月16日の中医協では、薬価引き下げを支持してきた委員からも、推計の根拠を疑問視する声が相次ぎました。

 

万代恭嗣委員(日本病院会常任理事)「乖離率を2分の1とした根拠は」

中山智紀・厚労省薬剤管理官「1500億円を超えるかどうかで引き下げ率が大きく変わるので、より保守的に見積もった。2分の1に明確な根拠はない」

 

万代委員「微妙な算段で(推計が)変化してしまう。ある程度納得いく説明をした方がいい」

中山薬剤管理官「乖離率の個別の情報は得られない状況なので、平均を用いるしかない。ただ、厳しく見積もるという観点から2分の1にした」

 

松原謙治委員(日本医師会副会長)「計算式自体が仮定の上に仮定を重ねているところに不安を覚える。決してひっくり返ることがないというものでなければ、企業活動に大きなダメージを与えるわけだから、よく考えて対応すべきだ」

中山薬剤管理官「流通経費は仮説ではなく、しっかりとしたデータなので大丈夫。乖離率についても、15年度薬価調査のデータに基づく値を活用している。厳しく見積もるという点で2分の1も妥当だと考える」

 

松原委員「数字がずれて実は20億円足りなかったという話になると、この決定自体が大変な問題を持つことになるが、大丈夫か」

中山薬剤管理官「大丈夫だ」

 

「オプジーボ」は画期的新薬で競合となる製品もないため、ある業界関係者は「値引きはほとんどしていないはずで、乖離率はかなり小さいはず」と見ています。仮に乖離率が平均の3分の1だったとすれば、年間販売額は1500億円を割り込み、引き下げ幅は25%にとどまる計算です。

 

幸野庄司委員(健康保険組合連合会理事)は「今までの議論では25%が適用されると考えていたが、1500億円という数字が出てきてちょっと意外に思っている」と漏らしました。厚労省は「薬価ベースに計算し直すという立場は一貫している」と説明しますが、推計に用いた数値に根拠は乏しく、「50%引き下げ」という数字が先行した感は否めません。

 

製薬業界「ルール外の改定、二度とあってはならない」

「オプジーボ」のような高額薬剤は高額療養費制度の対象となるため、今回の薬価引き下げによって患者の負担が大きく変わることはありません。

 

厳しさを増す公的医療保険財政にとってはプラスとなりますが、製薬企業の新薬開発の意欲を削ぐことも懸念されます。「オプジーボ」の薬価引き下げが決まったその日、日本製薬団体連合会(日薬連)と日本製薬工業協会(製薬協)は連名で「現行ルールを大きく逸脱したもので、今後二度とあってはならない」とする声明を発表しました。

 

国民皆保険の維持はもちろん重要で、「オプジーボ」の薬価引き下げはやむを得なかった面もあります。ただ、今回のようなルール外のイレギュラーな改定が今後も続くようなことがあれば、経営の予見性は損なわれ、ひいては新薬開発への投資を困難にすることにもなりかねません。日薬連と製薬協は「新薬の研究開発意欲を削ぐことにつながるおそれがあり、ドラッグ・ラグを招くことにもなりかねない」と懸念を示しています。

 

厚労省は次の18年度薬価改定に向け、適応拡大にあわせた薬価引き下げなど薬価制度の抜本的改革を検討する方針です。医療保険財政が厳しさを増す一方、高額な薬剤の登場が今後も予想される中、医療費抑制とイノベーション評価のバランスをどうとっていくかが大きな課題となります。18年度に向けて、議論はさらに熱を帯びていきそうです。

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