大日本住友製薬が、不振の国内事業の立て直しを急いでいます。
11月に行う早期退職には295人が応募。工場の統廃合も前倒しし、製造部門の人員にも削減のメスを入れます。新たな収益源としてオーソライズド・ジェネリック事業への参入も表明しました。
長期収載品の低迷や新製品発売の遅れなどから国内事業の業績低迷に歯止めがかからない中、稼ぎ頭の抗精神病薬「ラツーダ」の特許切れが19年に迫る大日本住友製薬。19年度には営業利益がゼロに近い水準まで落ち込む見通しで、危機感を募らせています。
早期退職に工場集約前倒し…AGにも参入
「日本の事業基盤の強化をしないといけないというのが重要なテーマだ」
10月28日に行われた大日本住友製薬の2017年3月期第2四半期決算説明会で、多田正世社長はこう強調し、低迷する国内事業の収益基盤強化に向けた4つの策を説明しました。
▽戦略品/新製品の最大化
▽人員適正化の推進
▽生産拠点統合のスケジュール変更
▽オーソライズド・ジェネリック(AG)などのプロモーションを行う子会社の設立
今年9月から10月にかけて募集した早期退職には、295人が応募しました。同社が早期退職を行うのは、大日本製薬と住友製薬の合併により大日本住友製薬が発足した翌年の06年以来、10年ぶり2回目。同社は今回の早期退職で年間30億円強の人件費削減効果を見込んでいます。
生産拠点の統廃合では、当初20年度を予定していた大阪・茨木工場の三重・鈴鹿工場への統合を18年度に前倒し。愛媛工場の閉鎖は予定通り18年度に閉鎖します。
多田社長は「ここでまた人員の問題が出てくるので、今回のような措置を今度は生産の方々を対象に行う」と述べ、今回の早期退職では対象とならかった製造部門の人員適正化にもメスを入れる考えを示しました。
AGの新会社「DSファーマプロモ」は、MR約40人の体制で12月1日に事業開始予定。当面は長期収載品の糖尿病治療薬「メトグルコ」のプロモーションを本体と連携して行い、今後、長期収載品となる自社製品のAGを順次展開していく方針です。狙いは、長期収載品の収益化に加え、「販売の適正化と、これまで大日本住友がアプローチできていなかった中規模薬局チェーンのカバー」(多田社長)だといいます。
業績低迷に歯止めかからず
こうも打ち手を急ぐのは、国内事業の業績低迷に歯止めがかからないからです。
大日本住友製薬の国内医薬品事業の売上高は、08年度の1850億円をピークに右肩下がりが続いています。ここ数年はその傾向にも拍車がかかっており、15年度は前年度比6.4%減の1465億円まで減少。16年度はさらに1390億円(5.1%減)まで落ち込む見通しで、08年度と比べると8年間で25%縮小することになります。
長期収載品の落ち込み激しく 現主力品も伸び悩み
国内事業低迷の大きな要因は、長期収載品の売り上げ減少です。
08年当時に年間100億円超の売上高があった旧主力5製品の売上高は、08年度は計1183億円に上ったものの、特許切れで後発医薬品に市場を奪われ、15年度には428億円(755億円減)まで減少しました。
07年度のピーク時に636億円を売り上げたCa拮抗薬「アムロジン」は今年度、122億円と5分の1以下に落ち込む見通しです。消化管運動機能改善剤「ガスモチン」や抗菌薬「メロペン」も、08年当時の半分以下の売り上げにとどまります。
一方、15年度に売上高100億円超の現主力6製品(アムロジンは除く)の売上高は、08年度の61億円から15年度は763億円(702億円増)に増えました。ただし、当初期待されたような伸びにはなっておらず、結果として旧主力製品の減少分をカバーするには至っていません。
国内事業の低迷は、同社全体の業績にも影を落とします。今年5月の決算発表時に公表した17年度を最終年度とする中期経営計画の見直しでは、17年度の売上高目標を4500億円から4400億円に、営業利益目標を800億円から500億円に、それぞれ下方修正しました。
売上高は米国でブロックバスター化した抗精神病薬「ラツーダ」が引っ張るものの、営業利益目標を大きく下げた最大の要因は、国内事業の減収に伴う利益減少。多田社長はその影響を「(修正幅300億円のうち)250億円くらい」と説明していました。
狂った新薬発売計画
大日本住友製薬にとって痛かったのが、国内事業の柱を担うはずの2つの新薬の発売が遅れたことです。
1つは、米国で年間1000億円以上を売り上げる「ラツーダ」。統合失調症を対象に日本での承認取得を目指して行った臨床第3相(P3)試験でいい結果を得られず、開発戦略を見直しました。現在、統合失調症と双極Ⅰ型うつ、双極性障害メンテナンスの適応でP3試験段階にありますが、日本での申請は19年度以降と大幅に遅れました。
もう1つは、12年のボストン・バイオメディカル(BBI)買収で獲得した抗がん剤ナパブカシン(開発コード「BBI608」)。がん幹細胞を標的とする世界初の抗がん剤として注目されています。しかし14年5月、最も進んでいた直腸結腸がんを対象としたP3試験で中間解析の結果、事前に定めたクライテリアを達成できず、試験を中止しました。
ナパブカシンは複数のがん種を対象に開発が行われており、現在最も開発が進んでいるのは胃がん。ほかの抗がん剤との併用療法でP3試験を実施中です。ただ、世界的に免疫チェックポイント阻害薬の開発が活発化しているあおりで、患者の組み入れが思うように進まず、こちらの試験も遅れています。BBI買収当初は米国で15年、日本で16年を見込んでいた発売時期は何度か先延ばしされ、申請目標は18年度までずれ込みました。
12年12月の「アイミクス」(ARBイルベサルタンとCa拮抗薬アムロジピンの配合剤)以降、国内で発売した新薬(剤形追加・適応拡大は除く)は、日本イーライリリーが製造販売承認を持つGLP-1受容体作動薬「トルリシティ」のみ(日本イーライリリーとの提携で大日本住友が流通・販売を担当)。新薬が出せない中で、国内事業の減収に歯止めをかけられない状況が続いています。
迫る「ラツーダクリフ」 営業利益はゼロ水準に
大日本住友にとって目下の経営課題は、19年に迫る「ラツーダ」の米国での特許切れ。国内事業の不振を補って同社全体の業績拡大を牽引してきた製品だけに、その影響は甚大です。同社は19年度に営業利益がゼロ水準に落ち込むと見込んでいますが、ポスト「ラツーダ」のナパブカシンの開発は遅れており、赤字転落の可能性も否定できません。
子会社の米サノビオンは10月、カナダのバイオベンチャー・シナプサスを買収し、17年前半に米国での申請を予定するパーキンソン病治療薬を獲得。一方で、ナパブカシンの本格的な業績寄与は「ラツーダ」の特許切れには間に合わなくなりました。
10月28日の決算説明会で改めて19年度の利益見通しを問われた多田社長は、「ナパブカシンの遅れはラツーダクリフに影響する一方、今回の買収や検討中の製品導入が早期に業績寄与すればマイナスをキャンセルできると思う。18年度からの新たな中期経営計画でしっかり分析したい」と述べるにとどめました。
大日本住友は今回の早期退職にあわせ、経営責任を明確にするために役員報酬の減額(10~20%、6カ月)も実施。ここ数年、国内の複数の製薬企業が早期退職を行っていますが、経営陣が表立って自らの責任を問うケースはありませんでした。異例とも言える役員報酬減額は、国内事業の低迷と「ラツーダクリフ」への強い危機感の表れなのかもしれません。
再生医療・細胞医薬に投資し、国内外での製品導入やM&Aに1500~2000億円の資金を用意するなど、将来への種はまいています。これらが花を咲かせるまで、しばらくは険しい道のりが続きそうです。