国内のバイオシミラー市場に、大手の新薬メーカーが相次いで参入します。ファイザーは今月、関節リウマチ治療薬インフリキシマブ(先行品名・レミケード)の承認を取得。第一三共の抗がん剤トラスツズマブ(ハーセプチン)も承認が近付いています。依然として普及率が低調な日本のバイオシミラー市場。大手の参入は、こうした状況を変えるのでしょうか。
ファイザーはインフリキシマブ 第一三共はトラスツズマブ
7月2日、ファイザーの「インフリキシマブBS『ファイザー』」(先行バイオ医薬品名・レミケード)が承認されました。同薬は関節リウマチや潰瘍性大腸炎、クローン病、乾癬の治療に使われる抗TNFα抗体で、ファイザーにとっては日本初となるバイオシミラー。11月に薬価収載される見通しで、同社は「ファイザー品質のバイオ医薬品が適切に医療現場で活用されるよう、情報提供活動を実施していく」としています。
一方、第一三共の「トラスツズマブBS『第一三共』」(ハーセプチン)は、8月3日の厚生労働省薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会で承認が報告され、順調にいけば9月に承認、11月に薬価収載となる見通し。第一三共にとっても同薬が初めてのバイオシミラーとなります。
第一三共は2012年に米コヒーラス・バイオサイエンスと提携し、関節リウマチ治療薬エタネルセプト(エンブレル)の日本での開発に着手。国際共同臨床第3相(P3)試験では主要評価項目を達成し、同等性を証明したものの、17年7月に「日本での供給を可能とする商用製剤製造方法を確立できなかった」として承認申請を断念しました。
コヒーラスとの提携とは別に、第一三共は16年7月に米アムジェンとバイオシミラーの日本での商業化で提携。近く承認の見通しとなったトラスツズマブもこの提携に含まれており、第一三共としては満を持してのバイオシミラー市場参入となります。
大手の参入本格化
国内では現在、ファイザーのインフリキシマブを含め8つの先行バイオ医薬品に13のバイオシミラーが承認されています。
バイオシミラーはこれまで、後発医薬品企業や中堅新薬メーカーが中心で、新薬大手では15年8月にインスリン製剤「インスリングラルギン『リリー』」(先行バイオ医薬品名・ランタス)を、18年1月に協和発酵キリンが抗がん剤「リツキシマブ『KHK』」(リツキサン、開発はサンド)を発売したにとどまっています。
今回、国内のバイオシミラー市場に参入するファイザーと第一三共は、いずれも複数品目を市場に投入することを目指しており、今後、新薬大手の参入が本格化していくことになります。
第一三共とアムジェンの提携は9品目が対象で、近く承認の見通しとなったトラスツズマブのほか、アダリムマブ(ヒュミラ)やベバシズマブ(アバスチン)などが含まれます。アムジェンは欧米ですでにこれら3品目(トラスツズマブは欧州のみ)の承認を取得済み。パイプラインにはインフリキシマブ(レミケード)やセツキシマブ(アービタックス)、リツキシマブ、エクリズマブ(ソリリス)が控えており、第一三共もこうした品目を日本市場に投入する可能性があります。
ファイザーは日本でのバイオシミラーの開発状況を公表していませんが、米国本社のパイプラインにはトラスツズマブやベバシズマブ、リツキシマブ、アダリムマブなどが並んでいます。
市場拡大への起爆剤となるか
バイオ医薬品の特許切れが本格化するのに伴って、市場に出回るバイオシミラーの品目数は増える一方、依然として普及は低調です。売上高では、JCRファーマとキッセイ薬品工業のエポエチンアルファが61億円(18年3月期)、日本イーライリリーのインスリングラルギンが40億円(17年12月期薬価ベース)に上る一方、日本化薬のインフリキシマブは21億円(18年3月期)と646億円を売り上げた先行バイオ医薬品の足元にも及びません。
バイオシミラーをめぐっては、先行品との同等性・同質性に懸念が根強くあることや、高額療養費制度の対象となることで患者には切り替えによる経済的なメリットがないことが普及を阻んでいると指摘されています。
インフリキシマブのバイオシミラーはすでに、日本化薬とセルトリオン、日医工、あゆみ製薬の4社が販売していますが、ファイザーは新薬のバイオ医薬品で積み上げた実績をアピールし、市場浸透を図る構え。第一三共にとっても、世界のバイオ医薬品市場をリードするアムジェンが開発・製造した製品であることは大きな訴求点になるはずです。
新薬大手の参入は、バイオシミラーへの懸念を払拭し、市場拡大の起爆剤となるのでしょうか。2社の動向が注目されます。