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【便秘型過敏性腸症候群】急拡大する市場 ネックは診断率・治療率の低さ|DRG海外レポート

更新日

米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは便秘型過敏性症候群(IBS-C)治療薬。市場は急成長していますが、治療選択肢は少なく、診断率と薬物治療率の低さが課題となっています。

 

(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら

 

低い診断率と薬物治療率

過敏性腸症候群(IBS)は、診断も治療もまだ十分でない。IBSの症状は多様なため厄介だ。医師には、消去法で考えうるほかの疾患の可能性を排除した上で診断することが今なお求められている。

 

IBSには、便秘が優勢なタイプ(IBS-C)、下痢が優勢なタイプ(IBS-D)、そしてそれらの混合タイプ(IBS-M)という、大きく分けて3つのタイプがある。それぞれのタイプで症状は相反しており、この疾患に精通していない医師にとっては特に診断は難しい。

 

 

有病者の4分の1しか診断を受けていない

IBSは認知度が低く、大きなアンメットニーズがあり、診断も難しいため、過小診断・過小治療の状態だ。2017年で見てみると、米国のIBS有病者のうち、診断を受けているのは4分の1以下で、薬物治療を受けているのはその55%にとどまる

 

Decision Resources Groupの疫学考察によると、IBS-CはIBS患者全体の20%程度。診断率と薬物治療率がIBSのどのタイプでも同じだと仮定すれば、米国ではIBS-C患者520万人のうち約70万人しか薬物治療を受けていないことになる。

 

こうした疫学的な数字からでも、疾患に対する認知度を向上させる必要があるのは言うまでもなく、診断率と薬物治療率を上げることでマーケットを拡大させるチャンスがあることは明白だ。しかし、製薬企業がこのチャンスを生かすには、医師が治療薬を選択する際に何を優先するのかを理解することも重要になる。

 

少ない治療選択肢

認知度の低さに加え、この市場の重石となっているのが、有効な治療薬の不足だ。現在、米国でIBS-Cをラベルに表示できるのはわずか3剤にとどまる。

 

ルビプロストンは2006年に慢性特発性便秘(CIC)で承認を取得したあと、08年にIBS-Cへの適応拡大が承認された。CICはIBSと似て非なる疾患で、便秘を伴うもののIBS-Cで見られる腹痛は生じない。

 

Plecanatideも同様に16年の承認当初はCICの適応だったが、18年はじめにIBS-Cに拡大された。リナクロチドは逆で、12年にまずIBS-Cで承認されたあと、17年にCICの適応が追加された。

 

3D illustration of Large Intestine, Part of Digestive System.

 

これらの治療薬はすべて、complete spontaneous bowel movement(CSBM:残便感のない自発的排便)の上昇と腹痛や腹部不快感の軽減を複合した反応率による評価に基づいて承認されている。しかし、これまでに反応率が35%を超えた治療薬はなく、大いに改善の余地があると言える。

 

IBS-Cの治療にはほかの薬剤も使われているが、この疾患を適応とするものではなく、市販薬またはCICやオピオイド誘発性便秘(OIC)で承認された薬の適応外使用だ。OICはIBS-Cと似た症状を持つが、明らかに医原性のものだ。

 

最初にIBS-Cの適応で承認された治療薬であるリナクロチドは、市場で成果を上げているようだ。Decision Resources Groupが最近発表したIBS-Cのアンメットニーズに関するレポートによると、米国の医師を対象に行った調査で、リナクロチドはIBS-Cの適応を持つほかの薬剤よりも高い満足度を得た

 

市場は急成長

Syneos Healthの請求データベースでは、リナクロチドの処方箋のうちIBS-Cにコードされたものは約30%に過ぎず、残りは不特定の便秘に向けて出されている。ところが、同剤の売り上げに占めるIBS-C向けの割合は2015~2016年の1年で100%の伸びを見せている。これは興味深い事実だ。

 

ルビプロストンのIBS-C向けはやや振るわず、同じ1年間での成長率は66%となっている。とはいえ、より成熟した治療薬の市場と比べると、この成長はやはり注目に値する。Plecanatideの販売傾向はまだつかめていないが、これら3つの薬剤を合計すると、2016年のIBS-C向けの売り上げは約4億ドルに達した。

 

 

2020年までに市場は10億ドル突破

今の診断率と薬物治療率の低さを考えれば、特段の競争戦略をとらずとも、疾患の認知度向上に務めることでIBS-C治療薬は成長を続けるだろう。すべてのタイプのIBS患者の診断率と薬物治療率がIBS-Cにも当てはまると仮定すると、現在、この疾患向けの処方薬を使っているのは10%程度にとどまる。

 

IBS人口の約4分の3が診断を受けていない中、売り上げ拡大に向けた最大の策は診断率の向上だ。現在使用可能なIBS-C治療薬の成長傾向が続けば、この市場は2020年までに難なく10億ドルを超えるだろう。

 

新薬の登場が認知度を上げる

大きな成長が見込める上、アンメットニーズも大きいIBS-C治療薬市場は、製薬会社にとって魅力的だ。現在、この疾患を対象に後期臨床試験を行っているのはTenapanorだけだが、すでに承認されている薬剤も腸機能を正常に戻すことはできていない。

 

このため、既存の治療薬を少しでも上回る改善を示すことができれば、その薬は競合品からかなりのシェアを奪う可能性がある。新規薬剤に医師や患者の注目が集まれば、疾患の認知度も向上し、さらなる市場拡大につながるだろう。

 

米国で使用できるIBS-C治療薬は3剤だけで、選択肢は限られているが、それでも市場は年々拡大している。IBS-C市場は新薬開発の機が熟していると言え、承認取得にこぎ着けられれば、そのメーカーの利益は約束されるだろう。

 

(原文公開日:2018年4月11日)

 

【AnswersNews編集長の目】

過敏性腸症候群は日本でもまだ認知度の低い疾患です。米国では便秘型過敏性腸症候群(IBS-C)治療薬として3剤が承認を得ていますが、日本ではアステラス製薬の「リンゼス」(一般名・リナクロチド)1剤だけ。開発中の薬剤としては、大日本住友製薬の「DSP-6952」が臨床第2相試験の段階にあります。記事中で紹介されたルビプロストン(マイランEPDの「アミティーザ」)は日本では「慢性便秘症」の適応でしか承認されていません。

 

一般的な便秘は高齢者になるほど有訴者率が高く、高齢化による市場拡大への期待もあって新薬開発が活発です。今年4月にはEAファーマと持田製薬が慢性便秘症治療薬「グーフィス」(エロビキシバット)を発売。両社は昨年11月、ポリエチレングリコールの申請も行いました。アステラスもリンゼスの慢性便秘症への適応拡大を昨年9月に申請しています。

 

この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。

 

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AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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