米国に本社を置くDecision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、CAR-T細胞療法。長期の有効性と安全性が明らかになりつつありますが、それでも治療へのアクセスという面で課題が残ります。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
持続性に懸念のあったCAR-T
最近、B細胞性急性リンパ芽球性白血病(ALL)を対象としたCAR-T細胞療法について、新たに2つの長期追跡データが発表された。大方の予想通り結果は良好で、CAR-T細胞療法は小児と成人のALL患者にとって安全かつ持続性の高い治療選択肢であるとのエビデンスを示すものとなった。
新たに発表された2つのデータは、ノバルティスの「ELIANA試験」で得られた25歳以下のALL患者を対象とする追加データと、Memorial Sloan Kettering Cancer Center(MSKCC)が独自のCAR-T細胞構成体である「28-19z」について成人のALL患者(18歳以上)を対象に得た新データだ。
昨年、ノバルティスの「Kymriah」が米FDAの承認を得たことは、がん治療に新時代の到来を告げる画期的なブレークスルーとなった。Kymriahの奏効率の高さはALL治療ではかつてない“偉業”だが、一方で効果の持続性については慎重な専門家も多くいた。
懸念払拭する長期追跡データが発表
しかし、ELIANA試験の新たな結果によって、そうした懸念は多少和らぐだろう。
今回のデータでは、Kymriahの投与3カ月時点の全寛解率は81%(患者75人)で、以前報告された83%とほとんど変わらない。重要なのは、Kymriahは投与から20カ月たっても患者の体内で検出が可能な点で、これは1回の治療が長時間持続することを示している。今回発表されたデータは、フォローアップ期間の中央値が13.1カ月、寛解持続期間の中央値はまだ達していない。
ALLのCAR-T細胞療法市場で新たなライバルとなるMSKCCの28-29zは、中央値29カ月とKymriahより長いフォローアップデータを持っている。28-29zの臨床第1相試験では、投与後の完全寛解率が83%(患者53人)、全生存期間の中央値は12.9カ月だった。とりわけ注目されるのは、腫瘍量が少ない患者の全生存期間の中央値は20.1カ月で、腫瘍量の多い患者よりも有意に延長していることだ。
アクセスと保険償還がボトルネックに
開発の進展を見守る関係者にとって、こうした結果は、ALL治療のアルゴリズムにおけるCAR-T細胞療法の役割を強化するとともに、この治療法にまつわる話題の焦点を転換させることになるだろう。少なくともALLに関しては有効性と安全性にもはや疑いがないとすれば、対応すべき課題として残るのは何だろうか?
小児および若年成人のALLを対象にKymriahが、成人の再発大細胞型B細胞性リンパ腫を対象にYescartaが、それぞれ発売されているが、キーオピニオンリーダーらは治療アクセスと保険償還がボトルネックだとコメントしている。
米国では、CAR-T細胞療法の使用は認可を受けた治療施設に限定されており、これがアクセスにとってロジスティカルにも管理の上でも障壁となるほか、保険適用範囲が不明確なことも使用の妨げになるという。
長期の有効性と安全性に対する懸念は完全には払拭されていないが、最新のエビデンスはCAR-T細胞療法の臨床での使用を後押しするだろう。患者はCAR-T細胞による治療へのアクセスを切望している。この治療法の真のマーケットポテンシャルがはっきりする前に、アクセスと保険償還の課題を解決する必要がある。
(原文公開日:2018年2月8日)
【AnswersNews編集長の目】昨年、米国で承認され、新たながん治療法として注目を集めるCAR-T細胞療法。今回の記事では、追跡データから長期に渡る有効性が明らかになりつつある状況をお伝えしました。
日本に目を向けてみると、ノバルティスが今年前半にもキムリアの申請を行う方針とも伝えられています。国内企業では、タカラバイオが2020年の承認取得を目指して臨床第1/2相試験を実施中。第一三共はギリアドに買収された米カイトから日本での開発・製造・販売権を獲得し、武田薬品工業も日本のバイオベンチャー・ノイルイミューンと研究開発で提携しています。
米国ではキムリアの投与1回あたりの価格が47万5000ドル(1ドル110円換算で5225万円)に設定されており、高額な費用はやはりネックです。
米国では投与1カ月以内に治療に反応した患者だけに支払いを求める「成功報酬型」の支払い方法が導入されており、ノバルティスのバサント・ナラシンハンCEO(当時はグローバル医薬品開発部門責任者兼チーフメディカルオフィサー)は昨年10月の日本経済新聞とのインタビューで、日本でも同様の制度を導入するよう政府に働きかける考えを表明しました。
これに対して加藤勝信厚生労働相は「成功という場合の薬の効果はどう判定するのか、あるいは自己負担や保険給付との関係をどう考えるのか、投薬と治療をどう峻別していくのかなど、いろいろな問題がある」との考えを示しています。
CAR-T細胞療法は19~20年ごろに日本でも使えるようになる見通しです。新たな治療法の登場は患者にとっては福音となりますが、日本の薬価制度に新たな議論を巻き起こすことになるでしょう。 |
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。Decision Resources Groupは、米国におけるCAR-T発売後1カ月時点の医師の認知度やトライアルユースの動向などを調査したレポート(Emerging Therapies – CAR-T Wave 1)を発行しています。レポートに関するお問い合わせはこちら。