2018年4月の薬価制度改革で、大幅に見直されることになった「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」。対象品目の縮小によりドラッグ・ラグが再び拡大するとの見方も出ています。制度の見直しは製薬各社の新薬開発にどんな影響を及ぼすのでしょうか。
対象品目は35%減少「企業要件」で薬価維持困難に
厚生労働省は2018年度の薬価制度改革で、特許期間中の新薬の薬価を実質的に維持する「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」を大きく見直します。
現在の制度では「特許期間中で乖離率(市場実勢価格と薬価との差)が全医薬品の平均を下回る」新薬が加算の対象ですが、18年度からはこれを撤廃し、医薬品そのものの革新性・有効性で判断する仕組みに変更。新規作用機序の医薬品と類似する品目には「最初の品目の薬価収載から3年以内・3番手まで」に限定されます。
あわせて、企業ごとに革新的新薬創出への取り組みなどを点数化し、それに応じて加算率を段階的に設定する仕組みも新たに導入。この点数で上位25%に入った企業だけしか薬価を維持することができなくなります。
16年度の薬価改定では823品目が新薬創出加算の対象となっており、このうち656品目(79.7%)で薬価が維持されました。厚労省の試算では、今回の見直しによって対象品目は約540品目と16年度比で約35%減少。16年度改定では90社が加算の適用を受けていますが、制度見直し後に薬価を維持できるのは15~20社程度にとどまる見通しです。
欧米企業「日本で新薬を早く使えなくなる」
新薬創出加算が導入されたのは2010年度。当時は、海外で使える薬が日本で使えない、いわゆるドラッグ・ラグが社会問題となっていました。製薬業界は加算導入を「日本への開発投資を促進する」と高く評価。ラグは短縮し、日本での開発品目も増加するなど、加算は新薬開発やドラッグ・ラグ解消に一定の効果を発揮してきたと言えます。
米国研究製薬工業協会(PhRMA)の調査によると、申請ラグ(欧米を日本の承認申請の時間差)が1年以内の品目は、加算導入前の06~09年度は全体の2割以下にとどまっていましたが、15~19年度(見込み)には7割まで拡大。国内で申請された品目数も1.8倍に増えました。
開発品目見直しの動きも
欧米の製薬業界団体は、今回の新薬創出加算の見直しについて「新たな医薬品を日本で開発しようというインセンティブが大きく損なわれ、日本の患者が新薬を早期に使用することが非常に難しくなる」と指摘し、解消しつつあるドラッグ・ラグが再び拡大すると懸念。ある外資系製薬企業関係者は、「日本での開発品目を見直す動きはすでに出てきている。加算がとれなそうなら開発をやめるという判断もあるだろう」と明かします。
一方、日本製薬工業協会(製薬協)の畑中好彦会長は「今回の改革で軽々にドラッグ・ラグが拡大するなどとは考えていない」と話しています。研究開発型の製薬企業にとって新薬開発はビジネスの源泉で、たとえ制度が不利な方向に変わってもそれは変わりません。中外製薬の小坂達朗社長も「日本だけを遅らせることは我々の責任としてやりたくはない」と話しますが、一方で業界からは「日本企業の中でも、国内より海外を優先する企業が出てきてもおかしくない」との声も漏れます。
製薬業界は改善を働きかけ
新薬創出加算の見直しは決まりましたが、製薬業界は引き続き改善を働きかけていく構えです。製薬協は「品目要件の選定基準や企業要件のあり方などの諸課題について、改善に向けた検討が極めて重要」と主張。PhRMAも「日本政府に再検討を求めていく」としています。
中外の小坂社長は「ドラッグ・ラグの解消は、PMDA(医薬品医療機器総合機構)による承認審査の迅速化と新薬創出加算の両輪でなされてきたという歴史がある」と指摘。PMDAは14年から3年連続で、新規有効成分を含有する新薬の審査期間で「世界最速」を達成しています。
もう1つの車輪である新薬創出加算の見直しが、新薬開発やドラッグ・ラグにどれほどの影響を与えるのか、現時点ではまだ読みきれません。新薬開発という使命と収益性の狭間で、製薬各社は揺れています。