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ニュース解説

「データが変える薬剤の価値」リアルワールドデータが製薬企業にもたらすもの

最近、製薬企業の間で活用に向けた取り組みが急速に進む「リアルワールドデータ」。実臨床から得られる膨大な医療データは、製薬企業に何をもたらすのでしょうか。アイ・エム・エス・ジャパンの松井信智氏(リアルワールド・データコンサルティング シニアプリンシパル)に話を聞きました。

 

「今まで見えなかったものが見えるように」

リアルワールドデータ(RWD)とは、臨床現場から得られる匿名化された患者単位のデータのこと。レセプト(診療報酬明細書)や電子カルテがその代表です。2015年ごろから、アステラス製薬やエーザイ、中外製薬、塩野義製薬などが相次いで専門部署を立ち上げており、製薬企業の間でその利活用に向けた動きが進んでいます。

 

ここ数年で急速に盛り上がりを見せてきたRWD。松井氏はその背景として「やはり国の動きが大きい」と指摘します。

 

アイ・エム・エス・ジャパンの松井信智氏の写真

アイ・エム・エス・ジャパンの松井信智氏

 

2016年、厚生労働省はレセプトデータベース(NDB)を公開し、今年4月には国が整備を進めてきた医療情報データベース「MID-NET」が本格的に稼働する予定です。これに合わせてGPSP省令も改正され、MID-NETなどのデータベースを市販後調査に利用できるようになります。

 

さらにRWDで新薬開発の効率化を目指す動きも出ています。厚労省は18年度、RWDを使った臨床試験のガイドラインを策定する方針です。海外ではすでに活用が広がっているRWDですが、「日本でも国を挙げてデータをフル活用していこうという動きの中で、製薬企業の取り組みも一気に進んできた」といいます。

 

薬剤の付加価値を向上

RWDを活用する最大のメリットは「今まで見えなかったものが見えるようになること」だと松井氏は話します。代表格であるレセプトや電子カルテからは、「患者の属性」「治療履歴」「治療実績」「医療費」など、さまざまな情報が得られます。これらを使うことで、例えば、対照群を設定して有害事象の発現率を比較したり、イベントのリスクファクターを解析したり、といったことも可能になります。

 

「医薬品は従来、“成分勝負”の側面が強かったが、データで情報武装することで付加価値を上げることができる。RWDは薬剤の付加価値向上という視点で、これからも活用が広がっていく」(松井氏)

 

製薬企業はRWDをどう活用しているのか

製薬企業はRWDをどんなところで活用しているのでしょうか。松井氏によれば、大きく分けて「エビデンスの増加」「意思決定の精緻化」「プロセスの効率化」の3つがあるといいます。

製薬企業でのリアルワールドデータの活用例。研究では、意思決定の精緻化。開発・市販後の中では、エビデンスの増加(メディカル)・プロセスの効率化(開発/安全性)、マーケティングでの意思決定の精緻化。近い将来には、医療者・患者の支援にも活用が拡大する。モバイルを活用して患者を支援しつつ、ペイシェント・レポーティッド・アウトカムを収集する。AIを活用して将来的にイベントを起こしうる患者を推定し、早期に介入する。

 

増える発売前のデータベース研究

数年ほど前から、製薬企業の間ではRWDを使ったデータベース研究が増加しています。従来型の研究は、研究に協力してくれる医療機関を探して契約を結び、実際にデータを集めるといった流れで進みますが、データベース研究ではこうしたプロセスは不要。研究期間を短縮できるのがメリットです。

 

松井氏によると、最近、特に増えているのが、新薬発売前のデータベース研究。発売後の研究は他剤との比較が主なテーマになるのに対し、発売前は治療実態を把握したり、有害事象のリスクファクターを分析したり、といったことを目的に行われるといいます。

 

「これから参入する領域はどうなっているのかということをあらかじめ調べて論文化しておくことで、発売後に『自社の新薬はアンメット・メディカル・ニーズにこういった形で応えることができる』とか『従来薬ではこれだけあった通院回数をこれだけ減らせます』といったことが言えるようになる」(松井氏)

 

背景因子で意思決定を精緻化

RWDを活用すれば、売り上げを構成する因子を詳細に分析し、具体的に自社製品の課題を特定したり、既存の治療フローの中で自社製品のポジショニングを検討したりといったことも可能になります。研究段階では事業性の評価にも活用されています。

リアルワールドデータを使った売り上げの因子分解の図。患者数・一日用量・処方日数などを詳細にセグメント分けすることで、因果関係が把握しやすい。 「RWDのいいところは背景因子がたくさん入っていること。売り上げデータだけを見ていてもよく分からないので、患者数や患者単価、さらに新規か切り替えか、新規なら検査値はどれくらいとか、併発している疾患は何かとか、そういうところまで分析して自社の課題を見ることができる。また、ある疾患で3剤併用しても検査値が基準まで下がっていない人が多いとなると、『ここに対する上乗せという戦略がいいのではないか』といったことも検討できる」(松井氏)

 

市販後調査や新薬開発の効率化も期待されます。新薬開発では、被験者の確保が難しい希少疾病の臨床試験で、対照群をデータベースに置き換え、期間とコストを削減しようという動きがありますし、市販後調査への活用が始まれば、製薬企業の負担軽減につながります。

 

「RWDへの対応が将来の成長を左右」

さらに近い将来、RWDの活用が広がっていく分野として松井氏が指摘するのが、モバイルやAIを使った医療者や患者への支援です。

 

製薬企業の間では最近、医療従事者と患者のコミュニケーションをサポートするツールの開発が活発です。服薬状況の把握や副作用マネジメントなど治療の支援が一義的な目的ですが、こうしたツールを使っていわゆる「ペイシェント・レポーティッド・アウトカム」の収集を模索する動きも出てきているといいます。また、蓄積されたRWDをAIに学習させ、将来的にイベントを起こしうる患者を推定し、早期の介入を目指すといった活用が考えられます。

 

人材の確保・育成や、部門を超えた連携など、製薬企業がRWDを活用する上では課題もあります。当然、レセプトや電子カルテからは収集できない情報もあり、RWDが万能ということもありません。ただ、活用の幅は急速に広がっており、製薬企業にも変化を迫っています。

 

「RWDは製薬企業のビジネスのさまざまなところに関わり、いろいろなところを変えていく。見えなかったものが見えるようになることで、製薬企業で働く人も持つべきスキルが変わってくる。これにどう対応するかで、企業の将来の成長も変わってくるだろう」(松井氏)

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