2018年は、製薬業界にとってM&Aの当たり年になるかもしれません。先週、仏サノフィと米セルジーンが相次いで1兆円規模の買収を発表しました。市場調査会社やコンサルタント会社はそろって、今年は製薬業界で大型買収が活発化すると予想しています。
サノフィは血友病 セルジーンはCAR-T
2018年に入り、早くも海外から大型M&Aのニュースが相次いで飛び込んできました。
仏サノフィは1月22日、血友病治療薬を手がける米バイオベラティブを116億ドル(1ドル110円換算で約1兆2760億円)で買収すると発表。米セルジーンも同じ日、新たながんの治療法として注目を集めるCAR-T細胞療法を開発する米ジュノ・セラピューティクスを90億ドル(約9900億円)で買収すると発表しました。
サノフィが買収するバイオベラティブは、2017年に米バイオジェンから血友病治療薬事業が分社して誕生した企業。いずれも半減期の長い血友病A治療薬「イロクテイト」や血友病B治療薬「オルプロリクス」を開発し、この領域をリードしています。サノフィは11年の米ジェンザイム買収で希少疾患向け治療薬の分野に本格的に進出。オリビエ・ブランディクールCEOは「今回の買収により、希少疾患分野でのリーダーシップとプレゼンスを高めることができる」とコメントしました。
一方、セルジーンが買収するジュノは、CAR-T細胞療法の開発で世界のトップを走る企業の1つ。セルジーンは、ジュノのCAR-T細胞療法「JCAR017」がピーク時に世界で30億ドルを売り上げると見込んでいます。マーク・J・アレスCEOは「ジュノの細胞免疫療法のポートフォリオと研究開発能力は、血液領域でのセルジーンの世界的リーダーシップを強化し、2020年以降の新たな成長ドライバーとなる」とコメント。多発性骨髄腫治療薬「レブラミド」で築いた血液がん領域のさらなる強化に意欲を示しました。
「大型の企業統合が加速」米税制改革が後押し
18年は製薬業界でM&Aが増加すると予想されています。英フィナンシャル・タイムズは1月23日、今年に入って発表された世界の製薬業界のM&Aは計270億ドルに達しており、これは「同業界の年初の数字としては少なくとも07年以来の高水準」と伝えました。
英コンサルタント会社アーンスト・アンド・ヤング(EY)は今月、製薬を含むライフサイエンス関連のM&A総額が17年の2000億ドルを上回るとの予測を盛り込んだレポートを発表。「大型の企業統合も加速する可能性がある」との見通しを示しました。
英調査会社エバリュエートによると、製薬業界にとって17年はM&Aが低調な年でした。M&Aの件数は13年226件、14年229件、15年290件と増え続けていましたが、16年には200件に減少。17年は第3四半期(1~9月)までで122件と、ここ数年で最低の水準にとどまりました。
17年、M&Aが振るわなかった大きな要因として指摘されるのが、米国の税制改革の先行きが不透明だったこと。それが同年12月、法人税率を35%から21%に引き下げることを目玉とする税制改革法が成立したことで、米国で事業展開する企業の収益力が高まり、M&Aが活発化するとの見方が広がっています。
今回の米税制改革では、企業が米国外に保有する資金を米国に還流させることを促す減税政策も実施されます。エバリュエートによれば、米国の大手製薬企業が海外に保有する利益は1300億ドル(14兆3000億円)にも上るといいます。こうした資金が、M&Aをさらに過熱させると指摘されています。
買収額 高騰に拍車か
製薬企業にとって、M&Aはもはや成長を維持する上でもはや欠かすことはできません。特許切れは避けて通れない一方、開発段階にある新薬候補は不足気味。それを補うために多くの製薬企業が買収を仕掛けています。
主力のインスリン製剤「ランタス」の特許切れに直面するサノフィは、M&Aを積極的に行う姿勢を鮮明にしています。いずれも敗れはしたものの、16年には米メディベーションやスイス・アクテリオンをめぐって米ファイザーや米ジョンソン・エンド・ジョンソンと買収合戦を繰り広げました。17年末には、米国のワクチン企業の買収で合意しています。
先端技術をめぐる争いも激しさを増しています。セルジーンがジュノ買収で手にするCAR-T細胞療法では昨年、米ギリアドが米カイト・ファーマを119億ドル(1兆3090億円)で買収しました。
サノフィもセルジーンも今回、高値での買収を決断しました。サノフィによるバイオベラティブの1株あたり買収額は1月19日の終値に64%のプレミアムを乗せた水準。セルジーンも、1株あたりの買収額は買収発表前の株価の2倍近い水準で、年間売上高(16年は112億ドル)に匹敵する額をつぎ込みます。
新薬不足を背景に製薬業界のM&A市場は総じて高騰しています。米国の税制改革が生むカネ余りの状況は、これに拍車をかけることになるかもしれません。