1. Answers>
  2. AnswersNews>
  3. ニュース解説>
  4. 薬価改革 製薬業界に激震「抜本改革ではなく抜本引き下げ」
ニュース解説

薬価改革 製薬業界に激震「抜本改革ではなく抜本引き下げ」

更新日

厚生労働省がまとめた薬価制度の抜本改革案に、製薬業界が揺れています。焦点となっているのは、新薬創出加算。厚労省は対象品目を大きく減らす方針です。製薬業界は強く反発していますが、薬価への風当たりは強く、厚労省案を大きく変えるのは難しい情勢。新薬メーカーに大きな打撃となるのは必至です。

 

「日本はイノベーションを放棄」

「薬価制度の抜本改革ではなく、薬価の抜本的引き下げだという印象を持たざるを得ない」

 

11月29日の中央社会保険医療協議会薬価専門部会。日本製薬団体連合会の多田正世会長(大日本住友製薬社長)は、政府の薬価制度改革案に強い不満を表明しました。

 

さかのぼること1週間、厚生労働省は11月22日の同部会に、薬価制度の抜本改革案を提示。適応拡大に伴う薬価の引き下げや、薬価の毎年改定、費用対効果評価の導入など項目は多岐に渡りますが、特に製薬業界側が強く反発するのが、特許期間中の医薬品の薬価を維持する「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」の見直しです。

厚労省が中医協に示した薬価精度の抜本改革案の主な項目

 29日の部会では、米国研究製薬工業協会(PhRMA)のエイミー・ジャクソン日本代表が「日本はイノベーションを推進する政策を放棄するという意思を感じる」とし、「大変遺憾だが、今回の改革案がそのまま実現すれば、米国などイノベーションを重視する国に日本はタダ乗りすることになる」と強い言葉で批判。欧州製薬団体連合会(EFPIA)のトーステン・ポール副会長も「製薬企業は何をもって日本に優先的に投資をするのか」と問い、見直し案の再考を迫りました。

 

対象品目は激減 薬価維持はほぼ困難に

今回の新薬創出加算の見直し案では、導入当初から「革新的新薬に適用する仕組みになっていないと」批判されてきた
特許期間中で乖離率(市場実勢価格と薬価との差)が全医薬品の平均を下回る
という対象品目の要件を見直し、加算を受けられる品目を大幅に減らします。

 

具体的には、新薬薬価算定時に革新性や有用性を評価された品目や、希少疾病用医薬品などに限定。新薬開発の状況やドラック・ラグへの取り組みによって企業に点数をつけ、それによって加算に差をつけるとしています。

新薬創出加算の見直し案

2016年度の薬価改定で新薬創出加算を受けたのは823品目で、このうち656品目(79.7%)で改定前の薬価が維持されました。しかし、厚労省の見直し案が実現すると、加算を受けられる品目は大幅に減り、しかも加算を満額得られる(薬価が維持される)企業は全体のわずか5%にとどまります。ほとんどの新薬は、加算を受けられたとしても薬価を維持することはできません。「特許期間中の新薬はすべて薬価を維持すべきという業界の主張とはあまりにかけ離れており、容認することはできない」(多田氏)と製薬業界側は主張します。

 

厚労省は、対象品目を大幅に絞り込んだうえで、現在は「試行的導入」となっている新薬創出加算を恒久制度化する考えです。制度の恒久化は業界側もかねてから求めていましたが、「このまま恒久化というのが正しいとは思わない」(同)と突っぱねました。それほど、今回の見直し案は業界にとっては受け入れがたいものだということです。

 

長期収載品にも厳しいルール

今回の薬価制度改革には、後発医薬品への置き換え率が80%以上の長期収載品について、後発品発売後16年かけて後発品と同水準まで引き下げる新たなルールも盛り込まれました。置き換え率が80%に達していない長期収載品も、20年かけて後発品の1.5倍の水準まで引き下げ。後発品の水準まで薬価が下がった品目は、後発品の増産を条件に市場から撤退(販売終了)することも認める方向です。

長期収載品の薬価引き下げ案

これも製薬企業にとっては厳しい制度変更となりますが、今回の薬価制度改革がテーマとする「長期収載品に依存した経営モデルからの構造転換」は製薬業界としても目指すべきところ。業界側は長期収載品の薬価引き下げは受け入れる考えですが、「ならば特許期間中の新薬の薬価は維持すべき」との立場です。

 

長期収載品の薬価も下がり、新薬の薬価も維持できないとなれば「企業の足元の収益を直撃するだけでなく、次のイノベーションに資金を回せなくなる」(多田氏)。やはり、新薬創出加算の対象品目を現行の要件で継続することは、製薬業界としては譲れない一線です。

 

医療費削減「痛み」は誰が負うのか

11月29日の薬価専門部会では、支払い側委員の幸野庄司・健康保険組合連合会理事が「今回の抜本改革をなぜ行うのか。医療保険財政が危機に瀕しているからだ。保険者の負担も増加している。国民一人一人痛みを分かち合わないといけない」と理解を求めました。

 

一方、多田氏は、薬価改定のたびに数千億円規模で薬剤費削減が削減されてきたと指摘し「製薬業界が痛みを分かち合っていないというのは大きな間違い」と反論。EFPIAのフィリップ・フォシェ副会長も「痛み、負担をみながフェアに負担する形になっていない。医療費全体の(薬剤費を除く)残りの75%の部分について、(製薬業界と)同じような負担の担い方が見られない」と不満を隠しませんでした。

 

ただ、今回の診療報酬改定も財源は薬価頼み。政府は薬価を大幅に引き下げたうえで、診療報酬本体(医師の技術料などに相当)はプラスとする方針と言われています。高額薬剤の登場もあり、厚労省案を大きく変えるのは難しそうです。

 

あわせて読みたい

メールでニュースを受け取る

  • 新着記事が届く
  • 業界ニュースがコンパクトにわかる

オススメの記事

人気記事

メールでニュースを受け取る

メールでニュースを受け取る

  • 新着記事が届く
  • 業界ニュースがコンパクトにわかる