米国に本社を置くコンサルティング企業Decision Resources Groupのアナリストが、海外の新薬開発や医薬品市場の動向を解説する「DRG海外レポート」。今回取り上げるのは、米国のベンチャー企業が開発する、皮下に設置したミニポンプから薬剤を半年間投与し続ける新たな糖尿病治療薬。米FDAは一旦承認を見送ったものの、臨床現場に登場すれば大きなインパクトとなりそうです。
(この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。本記事の内容および解釈については英語の原文が優先します。正確な内容については原文を参照してください。原文はこちら)
GLP-1 年2回の投与で注射も不要に
米Intarcia Therapeutics社は、エキセナチドを持続的に投与する皮下送達装置「ITCA-650」を、2型糖尿病向けに開発している。この機器は、エキセナチドを当初用量で3カ月、その後、維持療法で6カ月、持続的に投与するものだ。
エキセナチドはGLP-1(グルカゴン様ペプチド1)受容体作動薬。現在、アストラゼネカが1日2回および週1回の自己注射製剤として、2型糖尿病を対象に販売している。ITCA-650は承認されれば、GLP-1受容体作動薬として唯一、年2回の処置で注射が不要な薬剤となる。
ただ、ITCA-650の使用にあたっては、その挿入と抜去について医師も訓練が必要だ。承認されても、実際に使用されるまでは時間がかかるかもしれない。
米FDAは承認を見送り
ITCA-650の臨床第3相(P3)試験「FREEDOM program」は2013年2月に開始され、計4本の試験で5000人を超える患者が登録された。一連のP3試験のうち、4000人を対象に行った最大の心血管系アウトカム試験(FREEDOM-CVO)は16年4月に完了。ITCA-650は心血管系の安全性の主要評価項目を満たすという成果を上げた。
しかし、ITCA-650はまだ承認には至っていない。米FDA(食品医薬品局)への申請は17年2月3日に受理されたが、同年9月27日、FDAは現時点では承認しないことを意味する審査完了報告通知を発行した。
Intarcia Therapeutics社は、審査完了報告通知で示されたFDAの要求に応えるための新たな臨床試験は必要ないとしている。さらに同社は、FDAから製造面について明快かつ前向きな指導があったとし、承認獲得の確信をもって再申請に向けた作業を進めるとしている。
糖尿病薬の負担感決める「投与頻度」
Decision Resources Group(DRG)の調査によると、プライマリケア医や内分泌専門医が投与の負担という点で2型糖尿病治療に感じているアンメットニーズは、高くもなく低くもない。投与の負担という尺度では、今の2型糖尿病治療のパフォーマンスにそこそこ満足していることもうかがえる。
内分泌専門医らはDRGの調査に対し、負担の差となるポイントは、「その薬剤をどのように投与するか」ではなく、「どの程度の頻度で投与しなければならないか」だ、とも示唆している。
ITCA-650は、現在の2型糖尿病治療薬に比べて投与回数が大幅に減少する点で優位に立つとDRGは予測している。実際、DRGが調査した医師は、既存のGLP-1受容体作動薬よりもITCA-650を処方する最大の動機は「投与間隔」だと指摘している。
合併症抱える患者で使用進む?
ただ、それでも、かなりの割合の医師がこの製品を処方しないことも示唆された。その理由は、ITCA-650のリスク/ベネフィットプロファイルが、現在販売されている薬剤よりも優れていることを内分泌専門医が見逃していることにある。これに対し、プライマリケア医は安全性の懸念を主な理由に挙げている。
ITCA-650により、患者の服薬コンプライアンスは保証されることになる。このことは、2型糖尿病患者、中でも複数の合併症のある患者を管理する医師にとって大きな関心事だ。DRGが調査した内分泌専門医の多くは、2型糖尿病患者に対する薬剤の処方を決めるにあたり、投与の負担が及ぼす影響は相当重要だと考えている。これは、複数の合併症があり、すでにたくさんの薬を服用している高齢患者など、さまざまな患者の状況を反映しているのだろう。
こうした患者は、より複雑かつ個別化された治療を必要になる。このため、単純でより簡便に使える新たな薬が望まれている。独特の薬物送達プロファイルを持ったITCA-650のような新規治療を医師は歓迎するだろう。
コンプライアンスは100%に
P3試験「FREEDOM-2」で、ヘモグロビンA1cの低下が0.5%超かつ体重減少2kg超を達成した患者の割合は、シタグリプチン群(28%)をITCA-650群(61%)が優位に上回っており、ITCA-650は有望な薬剤だと言える。
持続的に薬剤を投与することで、服薬コンプライアンスは向上し、頻繁に注射をする必要もなくなり、注射後に血中の薬物濃度が高くなることで起こる悪心などの副作用も減ると期待される。
ITCA-650がもたらす100%の服薬コンプライアンスは、医師の処方決定に重要な役割を果たすだけではなく、保険者に対する訴求力ともなるだろう。2型糖尿病治療薬市場はコストに敏感だ。このため、ITCA-650は、シェア獲得に大きな影響を及ぼすフォーミュラリーで有利なポジションを得る可能性がある。
(原文公開日:2017年11月13日)
【AnswersNews編集長の目】Intarcia Therapeuticsが開発中の「ITCA-650」は、マッチ棒大のミニポンプを腹部の皮下に挿入することで、エキセナチド(日本製品名・バイエッタ)を半年間、持続的に投与できるもの。残念ながら日本では開発されていないようですが、新たな薬物送達システム(DDS)として注目されています。
糖尿病などの慢性疾患は服薬コンプライアンスが悪くなりがちです。その点、年2回処置するだけで、自動で持続的に薬剤を投与できるITCA-650が承認されれば、糖尿病治療にも大きなインパクトを与えることになるでしょう。
国内では2015年、週1回投与のDPP-4阻害薬として「ザファテック」(武田薬品工業)と「マリゼブ」(MSD)が相次いで登場。GLP-1受容体作動薬にも週1回投与の製剤が発売されています。
今年11月には、テルモがパッチ型のインスリンポンプの承認を取得。長期間に及ぶ糖尿病治療ですが、少しでも服薬の負担を軽減しようと各社が知恵を絞っています。 |
この記事は、Decision Resources Groupのアナリストが執筆した英文記事を、AnswersNewsが日本語に翻訳したものです。Decision Resources Groupは、向こう10年の2型糖尿病治療薬市場予測レポート(Disease Landscape and Forecast – Type 2 Diabetes)を発行予定しています。レポートに関するお問い合わせはこちら。