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ニュース解説

新薬開発 リアルワールドデータで効率化―厚労省がネットワーク構想 民間でもサービス広がる

莫大な費用がかかる新薬の開発を、リアルワールドデータを活用して効率化しようとする動きが加速してきました。

 

厚生労働省は、国立専門医療研究センターを中心に疾患登録システムを構築し、新薬開発に活用する「クリニカル・イノベーション・ネットワーク」構想を進めており、リアルワールドデータを活用した臨床試験のガイドラインを策定する方針。日立製作所が医薬品開発向けにレジストリサービスの発売を発表するなど、民間企業でも動きが出ています。

 

厚労省のクリニカル・イノベーション・ネットワーク構想

医薬品の開発費用は世界的に高騰しています。米タフツ大の試算によると、1つの新薬を開発するのにかかる費用は25億5800万ドル(約2890億円)にも上ると言われ、開発費用の大半を占める臨床試験のコストダウンは製薬企業にとって大きな課題となっています。

 

厚生労働省は2015年、臨床試験の効率化を目指し、「クリニカル・イノベーション・ネットワーク(CIN)」構想を打ち出しました。国立がん研究センターなど6つの国立高度専門医療研究センター(=ナショナルセンター、NC)を中心に患者情報・診療情報を収集する「疾患登録システム(患者レジストリ)」を構築。NCは製薬企業とともにコンソーシアムを形成し、製薬企業が受け取ったレジストリのデータを活用することで臨床試験を効率化しようというものです。

クリニカル・イノベーション・ネットワーク構想

 

20年度までに15疾患・計105万人を登録

15年8月には産官学の関係者が参加する「臨床開発環境整備推進会議」が発足し、疾患登録システムを使った臨床試験のあり方などについて検討が進んでいます。厚労省は2020年度までに15疾患で計105万人規模の疾患登録システムを構築し、これを活用した臨床試験・臨床研究の実施を20件まで増やしたい考えです。

クリニカル・イノベーション・ネットワークの目標(20年度)

 

対照群をリアルワールドデータに

製薬業界はクリニカル・イノベーション・ネットワークに大きな期待と関心を寄せています。

 

患者レジストリが整備されれば、患者がどの医療機関にどれくらいいるか分かるため、臨床試験への患者の組み入れがスムーズに行えるようになると期待されます。加えて、試験の実施可能性自体の評価にも活用でき、そもそも患者のリクルートが難しい試験を設定してしまったり、試験開始後に組み入れ基準を変更したり、といったことを避けることが可能となります。投与期間や症例数の設定など、試験のプロトコルを立案する上でもリアルワールドデータを活用するメリットは大きいといいます。

 

厚労省はさらに、クリニカル・イノベーション・ネットワークなどから得られるリアルワールドデータを使って、臨床試験での対照群を代替する仕組みづくりも始めます。

リアルワールドデータを対照郡に活用

 新薬の臨床試験では、被験薬を投与する群と偽薬や対照薬を投与する群に分け、結果を比べて有効性や安全性を検証する比較対象試験が一般的。しかし、難病や希少疾患では患者数が限られており、多くの患者を組み入れる試験を行うのが難しいことが、新薬開発の妨げになっていると指摘されてきました。

 

対照群をリアルワールドデータで代替できれば、被験薬を投与する患者だけを集めればよく、試験にかかる時間やコストも減らせると期待されています。厚労省は来年度、リアルワールドデータを活用した臨床試験に関する開発者向けのガイドラインを策定する予定です。

 

リアルワールドデータを使った臨床試験は欧米ですでに始まっています。スウェーデンではナショナルレジストリを活用した無作為化比較臨床試験を行い、1症例あたりのコストを大幅に削減したことが報告されています。

 

民間企業でもサービス広がる

民間企業でもリアルワールドデータを活用した臨床試験支援サービスが広がっています。

 

日立製作所は10月20日、医薬品・医療機器の開発を支援する「患者レジストリサービス」の提供を18年4月から開始すると発表しました。

 

同サービスは患者の疾患や治療内容、治療経過を管理するデータベースで、試験データを電子的に保存・提出する際の留意事項を定めたER/ES指針にも対応。同社はこれまで、国立精神・神経医療研究センターなどで患者レジストリを構築しており、新サービスの提供で「医薬品・医療機器開発の早期化を支援する」としています。

 

臨床試験実施施設の選定を効率化

CROのクインタイルズ・トランスナショナル・ジャパンは、16年に合併したIMSジャパンが持つリアルワールドデータを臨床試験の実施施設の選定に活用し始めました。

 

クインタイルズによると、多くの臨床試験では1~2割の施設が契約症例数を満たすことができず、これが試験の遅れや費用の増加を招く要因の1つになっています。IMSのデータを使えば、どこにどれくらいの患者がいるか最新の動向を把握することが可能になり、「施設選定の精度を上げることができる」(品川丈太郎・臨床開発事業本部長)といいます。

 

DPCデータの分析を行うメディカル・データ・ビジョンは17年6月、治験支援事業に進出すると発表。自社の持つデータを施設選定の効率化に活用する方針です。

 

18年4月には国の医療情報データベース(MID-NET)の運用が開始され、市販後調査への活用も始まります。開発コストの高騰と、それに伴う収益性の低下という課題に直面する製薬企業にとって、リアルワールドデータの活用は欠かすことのできないものとなっていきそうです。

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