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ニュース解説

「Aβ仮説に確信」エーザイ アルツハイマー薬開発で勝負に―アデュカヌマブ前倒しで共同開発

エーザイがアルツハイマー病向け新薬の開発で勝負に出ました。

 

10月23日、米バイオジェンとのアルツハイマー病治療薬開発に関する提携を拡大すると発表。同社の抗アミロイドβ抗体アデュカヌマブについて、保有していたオプション権を前倒しで行使し、共同開発に乗り出すことを明らかにしました。

 

Aβをターゲットとした新薬開発は失敗が相次いでいますが、果たしてエーザイの勝算は。内藤晴夫CEOは「最新の研究やこれまでの臨床試験から、Aβ仮説に基づく創薬に確信を深めている」と語りました。

 

「開発加速に期待」

「アデュカヌマブは世界で最も開発が進んでいるアルツハイマー病の次世代治療薬候補。今回の提携拡大で両社の知や経験が結集し、アデュカヌマブの開発がいよいよ力強く進行することを期待している」

 

10月24日朝、急遽開いた記者会見で、エーザイの内藤晴夫代表執行役CEOは、抗アミロイドβ(Aβ)抗体アデュカヌマブの開発加速に強い期待を寄せました。アデュカヌマブは今、最も注目されているアルツハイマー病に対する新薬候補と言っても過言ではありません。16年9月には、同剤投与によってAβが除去された脳の画像が、英科学雑誌ネイチャーの表紙を飾りました。

 

開発費の45%を負担 利益配分も見直し

エーザイはこの前日の深夜、アルツハイマー病治療薬の開発に関する米バイオジェンとの提携を拡大すると発表。同社が臨床第3相(P3)試験を行っているアデュカヌマブについて、保有している共同開発・共同販促のオプション権を行使し、予定より前倒しして共同開発に着手することを明らかにしました。

アデュカヌマブの開発・販売をめぐる提携の拡大

 オプション権の行使によりエーザイは、アデュカヌマブの開発費用のうち、2018年4~12月は15%、19年1月以降は45%を負担することになりました。あわせて、従来の契約では全世界で両社折半することとしていた発売後の利益配分も変更。米国と欧州ではバイオジェンが利益のそれぞれ55%と68.5%を得る一方、日本とアジア(中国・韓国を除く)ではエーザイの取り分を80%に引き上げ、売り上げもエーザイに計上されることになりました。

 

共同開発を前倒しで開始した「3つの理由」

エーザイとバイオジェンは14年3月、アルツハイマー病治療薬候補3品目の開発・販売で提携を結びました。対象はエーザイのBACE阻害薬エレンベセスタットと抗Aβ抗体「BAN2401」、そしてバイオジェンのアデュカヌマブ。前者2品目は両社で共同開発・共同販促を行うこととし、アデュカヌマブについてはエーザイが共同開発・共同販促のオプション権を持っていました。

エーザイとバイオジェンが提携するアルツハイマー病薬

オプション権の行使についてエーザイはこれまで、17年末から18年はじめに取得予定のBAN2401のP2試験のトップラインデータを見た上で判断すると説明していました。

 

それが今回、なぜ前倒しで権利を行使し、共同開発に乗り出すことになったのか。両社が契約拡大の交渉を始めたのは今年初めからと言いますが、内藤CEOは会見で、その判断に至った理由を、
▽アルツハイマー病に対する次世代治療薬の開発加速
▽新薬を普及させるための環境整備にいち早く取り組む必要性
▽「Aβ仮説」への自信と確信の高まり
にあると説明。「非常に機を得たタイミングでの権利行使と考えている。両者の全面的な関与により、アルツハイマー病の次世代治療薬の創出に一層拍車がかかることを期待している」と強調しました。

 

「Aβは主要な病因。開発成功の確度は高い」

アルツハイマー病の研究では長年、アミロイドβと呼ばれるタンパク質が脳に蓄積することで発症するとする「Aβ仮説」が有力視されてきました。ところが近年、この仮説に基づいて開発された新薬候補が相次いで臨床試験に失敗。一部の研究者からはAβ仮説に懐疑的な声も上がり始めています。

 

一方、内藤CEOはこの日の会見で「最近の遺伝疫学的研究はAβを標的とする創薬アプローチを支持している。アデュカヌマブのP1b試験結果や、他社の抗Aβ抗体の臨床試験からも、Aβのリポジショニングを改善することが、認知機能の改善に結びつくことが示唆されている」と強調。「Aβが主要な病因の1つであるとの自信を深めているし、アデュカヌマブの開発成功の確度は高いと判断した」と述べました。

 

エーザイの内藤CEO

エーザイの内藤CEO

Aβ仮説に疑義が生じていることに対しては、タウタンパク質が関与している可能性が指摘されるなど「研究が進んだことで、アルツハイマーの病理自体が複雑化していることが、疑念を生んでいるのではないか」との見解を披露。Aβ仮説は依然有力で、これに基づいた新薬開発を進めていくと繰り返しました。

 

他社ではP3失敗が相次ぐが…

内藤CEOの言う通り、アデュカヌマブはこれまでの臨床試験結果は良好。ただ、米イーライリリーの抗Aβ抗体ソラネズマブや米メルクのBACE阻害薬ベルベセスタットも、P2までは順調に進んだものの、P3試験で有効性を示せず開発が頓挫しました。

 

内藤CEOは、他社で失敗が相次いだのは、Aβ陽性でない患者を組み入れたり、アルツハイマー病が進行した患者を対象としたりしたことが原因と指摘。「いかに早期の患者をセレクションしていくかが重要だ」と話しました。

 

普及に向け環境整備

エーザイとバイオジェンはアデュカヌマブの開発を加速させると同時に、新薬の普及に向けた医療環境や社会環境の整備にも取り組む考えです。

 

内藤CEOは会見で「早期診断・早期治療を啓発するとともに、客観的指標による診断法の開発も積極的に行っていかなければならない」と強調。エーザイはシスメックスと血液からアルツハイマー病の診断を行う技術を共同開発しており、これが成功すれば「大きな革新となる」と言います。さらに「がんと同様に、認知症も公的な枠組みで多くの国民が検診を受けられる姿が理想」とも述べました。

 

「薬剤の価値をどう評価するか」

中・低所得国で新薬へのアクセスを高めるとともに、薬剤の価値をどう評価するかも重要な課題になると内藤CEOは指摘。日本でも医薬品の費用対効果評価の議論が進んでいますが、「アルツハイマー病の新薬の価格を決めるには、医学的な評価だけでは不十分。従来のHTA(医療技術評価)の方法で正しい価値判断ができるかどうか」と疑問を示しました。

 

認知症にかかるコストは医療費以外も含めて世界で110兆円に上ると言われますが、30年にはこれが倍増すると予測されています。しかも、このうち8割は医療費ではなく、介護など社会的費用とされ「家族の負担軽減なども含めた価値の評価を実現することが必要」と訴えました。

 

期待の新薬が相次いで失敗し、閉塞感が漂っているアルツハイマー病の新薬開発。国際アルツハイマー病協会によると、世界の認知症患者は4700万人に上り、2050年には3倍に増えると予測。日本でも25年に700万人を超える見通しです。

 

立ちはだかる高い壁を越え、エーザイとバイオジェンは新たな治療の道を切り開いていくことができるのでしょうか。患者や家族のみならず、社会全体が新薬の開発成功を待ちわびています。

 

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