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第一三共が「本気度100%」で取り組む 世界初のiPS由来心筋シート実用化

第一三共が、iPS細胞(人工多能性幹細胞)を使った心筋シートの事業化に乗り出します。大阪大発の再生医療ベンチャー「クオリプス」に出資し、全世界での販売オプション権を獲得。共同で開発を進め、5年後をめどに実用化したい考えです。

 

「製薬企業にとって今後重要なのは、最先端の技術を取り入れ、標準治療を変えていくこと」と話す第一三共の中山譲治会長兼CEO。再生医療を含む細胞治療の分野で、取り組みを加速させています。

 

2022年めどに実用化

「本気度は100%だ」。10月5日、大阪大発の再生医療ベンチャー・クオリプスと第一三共が都内で開いた記者会見。iPS細胞由来心筋シートの実用化に向けた意気込みを問われた第一三共の中山譲治会長兼CEOは「資金、人材、ノウハウ、技術を投入し、全面的に支援していく」と力を込めました。

 

「標準治療を変革する治療を実現する」と語った第一三共の中山会長

「標準治療を変革する治療を実現する」と語った第一三共の中山会長

 

第一三共は今年8月、クオリプスに出資し、同社が開発するiPS細胞由来心筋シートの全世界での販売オプション権を獲得する契約を締結。5日の記者会見では、両社で共同開発を行うことを発表しました。

 

両社が開発するiPS細胞由来心筋シートは、阪大大学院医学系研究科の澤芳樹教授(心臓血管外科学)らのグループの研究成果を活用したもの。実用化されれば、iPS細胞を使った心臓の再生医療としては世界初となります。

 

クオリプスは澤教授らの研究成果を事業化するため、澤教授ら阪大の研究者3人と、同大発ベンチャーのセルキューブ、投資ファンドのデフタパートナーズが出資して今年3月に設立されました。クオリプスは今後、阪大に設置する共同研究講座を通じて同大との共同研究を進め、第一三共との共同開発、そして実用化へとつなげていく方針です。

iPS細胞由来心筋シートの共同開発・事業化のスキーム

 「既存治療でもほかに手がないという患者がたくさんいる。そういう人をどうするのか。大きな役割を果たす再生医療の第一歩だ」

 

クオリプスのチーフ・サイエンティフィック・オフィサーを努める澤教授は会見でiPS細胞由来心筋シートの意義を強調しました。今回の提携についても「『死の谷』を越え、『ダーウィンの海』を渡るのは大変難しいが、第一三共と協力することで世界中に届けることが可能になった」と期待。来年にも臨床研究を始め、5年後の2022年をめどに実用化したい考えを示しました。

 

第一三共「新しい領域に踏み込むべきと判断」

iPS細胞事業への参入は、第一三共にとっても大きな意味を持ちます。当初、出資と販売オプション権の保有にとどまっていた契約を共同開発まで広げたことについて、中山会長は「出資の時点から共同開発も考えていた。第一三共の中でも細胞治療はスタンダード・オブ・ケア(標準療法)を変革するものとして重要な位置付け。新しい領域に踏み込んでいくべきだと判断した」と語りました。

 

第一三共は16~20年度の中期経営計画で、25年のビジョンの1つに「スタンダード・オブ・ケアを変革する先進的な製品・パイプラインの充実」を掲げ、「積極的なアライアンスと製品導入による細胞治療ビジネスへの早期参入」をうたっています。

 

外部提携で積極展開

16年4月には、社内に細胞治療研究の専門部署「細胞治療ラボラトリー」(現・細胞治療研究所)を設置。同年5月には英セルセラピーから体性幹細胞を使った虚血性心不全に対する細胞治療薬「Heartcel」を、翌17年1月には米カイトファーマから悪性リンパ腫を対象とするCAR-T細胞治療薬「KTE-C19」をそれぞれ導入し、日本での権利を取得しました。旭川医科大とは、同大の川辺淳一特任教授が発見した新規幹細胞「毛細血管幹細胞(CapSCs)」を再生医療・細胞治療として実用化するための共同研究を始めています。

第一三共の再生医療・細胞治療分野での提携

「今後、製薬企業にとって重要なのは最先端の技術を取り込んで標準治療を変えていくこと」。中山会長はこの日の会見でもあらためて強調。「今までのメーカーが扱っていないものをやることが先を作る」とした上で、日本発の研究成果であるiPS細胞を日本企業の手で実用化したいとの想いも口にしました。

 

事業性「難しい問題も」

澤教授らはiPS細胞より一足先に、骨格筋芽細胞を使った心不全向けの再生医療を実用化しています。16年にテルモが世界に先駆けて発売した「ハートシート」です。澤教授は「極めて画期的」な製品だとする一方、心筋細胞でないことや、自家細胞を使うためコストが高いといった課題もあると指摘します。

 

一方、実用化を目指すiPS細胞由来心筋シートは、あらかじめストックされた他家iPS細胞を使用。移植した心筋と同じように拍動することから、より高い治療効果が期待されるといいます。澤教授は「自家細胞より他家iPS細胞のほうが、コスト面も含めて戦略的にポテンシャルが高い。やはり心筋には心筋細胞がいいだろう、宿主心筋との相乗効果もあるだろう」と話しました。

 

iPS細胞由来心筋シートを開発した阪大の澤芳樹教授

iPS細胞由来心筋シートを開発した阪大の澤芳樹教授

 

クオリプスなどがiPS細胞由来心筋シートでまずターゲットとするのが、重症の心不全。国内患者数は数千人で、「治療を待ち望んでいる人は毎年世界で100万人いる」(澤教授)。市場としても有望です。

 

継続していくだけの収益は生むべき

ただ、事業化のハードルは低くはありません。

 

第一三共の中山会長は「事業性については難しい問題もある。薬価から始まってどうしていくのか」と指摘する一方、「これだけ困っている患者がいるということを考えると、国は必ずリーズナブルな考え方をしてくれるはず」と期待。「事業を継続していくだけの収益をきちんと生むべき。iPSは経済性でも優位なので、これでできなければどうしたらいいのか」と話しました。

 

ただ、医療費への圧力が高まる昨今。ハートシートには一連の治療で1476万円という価格が付きましたが、審議した中央社会保険医療協議会では「あまりに高額」との意見も相次ぎました。

 

日本では14年、医薬品・医療機器等法が改正され、再生医療等製品を条件付き・期限付きで早期に承認する制度が創設されるなど、国も開発を後押ししています。日本発のシーズは、産学連携で世界初の実用化にこぎつけられるのか。「拙速な開発で不確実な治療を届けるつもりはないが、(移植以外に治療法がない)心不全の患者は待てない」(中山会長)。クオリプスと第一三共は開発を急ぐ方針です。

 

※国内の大手製薬企業の間で、細胞治療薬の研究開発に取り組む動きが広がっています。詳しくは、「細胞治療薬、開発活発化 製薬大手が続々参入…第一三共は『心不全』『がん』田辺三菱は『変形性膝関節症』」

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