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田辺三菱 大型買収で見せた米市場開拓の本気度―米国売上高800億円 射程に

更新日

2007年の合併からまもなく10年。田辺三菱製薬が米国市場の開拓にアクセルを踏み込みました。

 

今年5月、米国自社展開の第1号となるALS治療薬ラジカヴァの承認を取得したのに続き、欧米でパーキンソン病治療薬を開発するイスラエルの製薬企業を1240億円で買収すると発表。2020年度までの中期経営計画で目標とする米国売上高800億円に向け、事業基盤の確立を急ぎます。

 

パーキンソン病治療薬を獲得

田辺三菱製薬は7月24日、イスラエルの製薬会社ニューロダームを買収すると発表しました。買収額は約11億ドル(約1241億円)となる見通し。同社の発行済み株式を全て取得し、完全子会社化します。買収完了は10月を予定。買収費用は全額手元資金で賄います。

 

田辺三菱は2020年度までの中期経営計画で、米国で事業基盤確立を重点課題としており、最終年度までに米国売上高を800億円とすることを目標に据えています。今年5月にはALS(筋萎縮性側索硬化症)治療薬「ラジカヴァ」(一般名・エダラボン、日本製品名・ラジカット)の承認を取得。8月にも販売を開始する予定です。

 

ニューロダームは中枢神経系の医薬品の研究開発に特化した製薬企業で、強みとするのはパーキンソン病治療薬。現在、欧米で臨床第3相(P3)試験が行われている「ND0612」は、18年度の申請、19年度の発売を見込んでいます。「ラジカヴァと『ND0612』の2剤で米国売上高800億円の達成は可能」。田辺三菱の三津家正之社長は意気込みます。

ニューロダームのパイプライン

レボドパを液剤化 ポンプで24時間投与

「ND0612」は、標準的なパーキンソン病治療薬であるレボドパとカルビドパを液剤化し、携帯ポンプで24時間持続的に皮下注射する製剤。レボドパ・カルビドパは経口剤が一般的で、液剤化に成功したのは「ND0612」が世界で初めてといいます。

 

パーキンソン病は進行するにつれ、レボドパ含有製剤が適切に効果を発揮する血中濃度の範囲が狭まり、薬が効きすぎることによって体が勝手に動く「ジスキネジア」や、薬が切れて動けなくなる「オフ症状」が出現する時間が多くなります。既存の経口剤ではレボドパの血中濃度をタイトにコントロールするのは難しく、こうした運動合併症はパーキンソン病治療の大きな課題です。

パーキンソン病治療薬の課題 一般的な経口剤では血中濃度をタイトにコントロールできず、運動合併症が問題となる。 軽度・中等度・重症におけるオン期の範囲と経口剤による血中レポドパ濃度変化。ジスキネジア・オン期・オフ期の関係を図解。

「ND0612」はレボドパ・カルビドパを液化し、24時間持続的に投与することで血中濃度を一定にコントロールすることが可能になると期待されており、「経口剤の限界を相当程度、改善できる可能性を持っている」(三津家社長)。同様のコンセプトでレボドパ・カルビドパを持続的に投与する製品としては、米アッヴィが胃瘻を通じて空腸に直接投与するゲル製剤「デュオドーパ」を販売していますが、「ND0612」の方が患者の負担は軽くなりそうです。

 

田辺三菱によると、米国のパーキンソン病患者は100万人で、市場規模は10億ドル。後発医薬品がメインですが、「デュオドーパ」など新薬も発売されており、市場は成長に転じると同社は見ています。

 

ラジカヴァとシナジー 買収・導入は継続

ALS治療薬「ラジカヴァ」とのシナジーが見込める点も、今回の買収の大きなポイントとなりました。

 

ALSとパーキンソン病はいずれも神経疾患。専門医は限られ「ビジネスモデルに相似性がある」(三津家社長)。田辺三菱は50人体制で「ラジカヴァ」を販売することにしていますが、「ND0612」の販売も30人程度の増員で全米をカバーできると想定。「ラジカヴァ」で構築した米国事業基盤を活用します。

 

ニューロダームは「ND0612」のほか、重症パーキンソン病治療薬アポモルフィン持続皮下注投与ポンプ製剤「ND0701」(P2)、中枢神経系疾患に伴う認知障害の治療薬ニコチンおよびオピプラモール経皮剤「ND0801」(P2)を開発中。田辺三菱が重点領域とする神経疾患のパイプラインは拡大します。

田辺三菱製薬の米国パイプライン 神経疾患では、2017年、ラジカヴァ(ALS)承認済。2018~2020年、ND0612(パーキンソン病)P3.2021年度以降MT-8554(神経系用剤)P2。ND0701(パーキンソン病)P2。ND0801(中枢神経疾患に伴う認知障害)P2。 自己免疫疾患では、2021年度以降、MT-1303(潰瘍性大腸炎)P2。MT-7117(皮膚科用剤)P1。MT-2990(炎症・自己免疫疾患)P1。

田辺三菱は2020年度までの中期経営計画で、米国に2000億円以上を投資する方針を掲げています。三津家社長は「神経変性疾患や自己免疫疾患で開発中の品目とのシナジーがあるものについては、継続して見ている。M&Aなのかライセンスインなのか、方法は問わない」と話しました。引き続き、買収や導入でラインアップを広げていく考えです。

 

欧州での販売体制は未定 日本でも開発計画に着手

「ND0612」の開発は欧米で行われており、田辺三菱は買収によって米国だけでなく欧州にもリーチできる品目を獲得したことになります。欧州でも18年度の申請、19年度の販売開始を見込みますが、導出するのか、一部の国で自社販売するのかも含めて販売体制は未定。日本では開発計画の立案を始めました。

 

多発性硬化症治療薬「ジレニア」(スイス・ノバルティス)や糖尿病治療薬「インヴォカナ」(米ジョンソン&ジョンソン)のように、海外大手に販売権を供与して米国市場を攻めてきた田辺三菱製薬。両剤のロイヤリティーは725億円(16年度)に上りますが、このうち537億円を稼ぐ「ジレニア」は19年に米国で特許切れを迎えます。

 

薬価引き下げや後発品の浸透で国内事業も厳しい状況が続く中、自社販売へと攻め手を変えることで、米国を日本に次ぐ収益基盤に育てられるのか。まずは8月に発売する「ラジカヴァ」の動向が注目されます。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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