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「アドボカシー」と「ロビイング」は何が違う?|コラム:現場的にどうでしょう

更新日

黒坂宗久

5月上旬、日本経済新聞に掲載された「攻防RとL〜規制で統べるEU経済圏」という連載記事を興味深く読みました。EU(欧州連合)主導のルールづくりとそれに対するロビイング活動を扱った記事で、私がやっているアドボカシーの仕事にも通じるところがあるなと感じ、そのことを今月のコラムのネタを決める打ち合わせで話したところ、編集長の前田さんからこんなことを聞かれました。「黒坂さんがやっているアドボカシー活動とロビイング活動って何が違うんですか?」

 

私の中では明確な違いがあるんですが、その時はうまく言語化して即答することができませんでした。そこで今回のコラムでは、アドボカシーとロビイングの違いについて考え、皆さんにも知っていただけたらと思います。

 

まず言えるのは、アドボカシーはかなり幅の広い活動で、ロビイングを包摂するものだということです。仕事柄、この分野の社外の専門家の方と毎週、いろいろと話をさせていただくんですが、その方いわく、ロビイングを囲むようにガバメント・リレーションズという活動があり、それらを覆っているのがアドボカシーだよねと。図にするとこのような感じになると思います。

 

 

これらの活動の間に上下の関係はなく、上の図は活動の広さを示したものととらえてください。アドボカシーは「社会課題の解決に向けた仲間づくり」が活動の主眼で、どんな仲間をつくっていくかはテーマによって変わります。私が所属する部署では「革新的新薬を持続的に日本の患者さんに届けられる医療環境の実現」を大きな目標としており、一般市民から行政・政治、アカデミア、産業界まで幅広いステークホルダーとの対話を通じ、目指すべき社会像の共有と、その達成のために解決すべき医療課題への理解を醸成していくことを目指しています。

 

いがみ合うより協力しあう世界を

一方、ガバメント・リレーションズは行政や政府との関係構築・維持を目的とした活動で、対象となるステークホルダーはアドボカシーよりも狭くなります。ただ、相手がそうしたところ仕事をしている人になるというだけで、基本的に大切となることは同じです。当然と言えば当然ですが、信用・信頼を構築することが活動の大前提になります。そうした信頼関係の上に成り立つのが、政策立案者に具体的な政策の実現を働きかけるロビイングです。

 

明確かつシンプルな違いがある反面、活動のしかたは似ているとこもあります。アドボカシーにしろ、ガバメント・リレーションズにしろ、ロビイングにしろ、仕事で一緒になったことがあるとか、有益な情報を伝えてくれるとか、困ったときに助けてくれるとか、一緒に考えてくれるとか、そうしたことの積み重ねがこちらの話に耳を傾けてもらえる土台になります。そして、どの活動も目指すべきは社会課題の解決です。私利私欲のため、ではもう通用しない時代になっていると感じます。

 

冒頭で紹介した日経の記事には、このように書かれています。「ロビイングには利益誘導のために水面下で圧力をかけるといったマイナスイメージが付いて回る。だが公正で適切なロビイングがなければ実態に即した合理的なルールづくりは難しい。右手と左手のようにR(ルールづくり)とL(ロビイング)の健全な補完関係は、より良い世界へと導く「神の見えざる両手」といえる」(2025年5月8日付日本経済新聞「EUも頼る日本のロビイング団体、公正・適切な情報提供で存在感 攻防RとL〜規制で統べるEU経済圏(下)」)

 

これだけ変化の速い現実社会では、市民、企業、業界団体、行政・政治が信頼関係を軸に知恵を出し合ってより良い世界に向けて協力していく必要性が増しています。私個人としては、互いがいがみ合う世界より、こっちのほうがよっぽどましだと思います。

 

※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。

 

黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。アステラス製薬アドボカシー部所属。免疫学の分野で博士号を取得後、約10年間研究に従事(米国立がん研究所、産業技術総合研究所、国内製薬企業)した後、 Clarivate AnalyticsとEvaluateで約10年間、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率、開発コストなど)を提供。2023年6月から現職でアドボカシー活動に携わる。SNSなどでも積極的に発信を行っている。
X:@munehisa_k
note:https://note.com/kurosakalibrary
LinkedIn:https://www.linkedin.com/in/mkurosaka/

 

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