
2030年までの成長戦略で、キードライバーの1つにオープンイノベーションを掲げる中外製薬。米国にコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)を設立するなど「脱・自前オンリー主義」を図る中、6月13日、同社として初めてオープンイノベーションに関する投資家・メディア向けの説明会を開催。CVCの活動状況などを明らかにしました。
「単独ではできない創薬をパートナーと実現」
「中外はこれまで、自分たちで技術を作るということにかなりコミットしてきた一方、外部と接する機会はそこまで積極的に持ってこなかった。オープンイノベーションを拡充し、中外単独ではできない創薬をパートナーと実現していきたい」。中外の井川智之・執行役員研究本部長は13日の説明会でこう語りました。
中外はこれまで、国内のアカデミアとの連携には力を入れてきた一方、特に海外のアカデミアやベンチャー企業との協業はほかの国内製薬大手と比べると多くはありませんでした。同社は2021年に策定した30年に向けた成長戦略で「R&Dアウトプット倍増」「自社グローバル品毎年上市」を目標に掲げ、オープンイノベーションをキードライバーの1つに設定。「自前オンリー主義から脱却し、外部の強みを取り入れることで自社創薬の範囲とアウトプットを拡大する」とし、外部との連携強化を打ち出しています。
ベンチャー投資「2~5年後に中外のR&Dに資するものを」
オープンイノベーション推進の一環として米ボストンに設立したCVC「中外ベンチャーファンド(CVF)」は24年1月に活動を開始。CVFのヘッドとして招聘したジョン・ガストフソン氏は、米アッヴィのCVCや英アストラゼネカの事業開発で要職を歴任した人物で、多くの投資先企業で取締役を務めた経験を持ちます。
中外ベンチャーファンドプレジデントのジョン・ガストフソン氏
CVFの投資規模は2億ドル(約290億円)で、投資地域は主に米国、欧州、日本。投資対象は、技術として▽タンパク質安定化/タンパク質分解▽RNA&DNAバイオロジー▽遺伝子治療/遺伝子編集▽T細胞バイオロジー▽デジタル技術――など、疾患として▽がん▽免疫疾患▽代謝疾患▽中枢神経疾患――などとしています。ガストフソン氏は「2~3年後、あるいは5年後に中外の研究開発に資するものを見ている」と話しました。
CVC、活動1年半で4件投資
CVFは活動1年半ですでに4件の投資を実行。そこに至るまでに100社以上のベンチャーキャピタルと面談し、528件の投資機会を検討したといいます。投資先は、疾患の進行を促進するタンパク質を不活化する低分子薬を開発している米Hyku Biosciences、中枢神経疾患に対する精密医療を開発する同Leal Therapeutics、in vivoの遺伝子治療薬を開発する同Stylus Medicineなど。「いずれもエキサイティングなテクノロジーをもたらしてくれるものだ」(ガストフソン氏)と期待します。
ガストフソン氏はCVFの1年半の活動を振り返り、「中外はサイエンスで優れていると評価されているが、多くの人はその理由を理解していない。中外は謙虚で自社の成果を誇示しない」と指摘。井川氏も「ボストンでのプレゼンスは十分でない。ボストンでのプレゼンスが向上すれば世界のトッププレイヤーに『中外とパートナーになりたい』と言ってもらえる」とし、「技術をさらに磨き、外部に発信する取り組みが必要だ」と話しました。
細胞・遺伝子「第4のモダリティとして研究」
CVFがフォーカスするのは、「自社の研究開発」「従来のオープンイノベーション(中外本体による投資、ライセンシング、共同研究、M&A)」の外側にある「未着手の領域」。中外は現在、低分子、中分子、抗体の3つのモダリティで自社創薬を展開していますが、CVFの投資対象には遺伝子や細胞も含まれています。
井川氏は「4つ目のモダリティとして細胞・遺伝子医薬品の研究を社内でも行っている。新規モダリティには社内でもそれなりのリソースをかけて投資をしており、それを補完するものとしてCVFが投資をしていく」との考えを示しました。
オープンイノベーションはボトムアップで
中外は疾患領域にこだわらない「技術ドリブン」の創薬活動を行っており、グループのスイス・ロシュが戦略上の理由で導入しないと判断した中外創製品については、第三者に導出しています。
代表的なものは、国内ではマルホ、海外ではスイス・ガルデルマに導出した抗IL-31受容体A抗体ネモリズマブ(対象疾患・アトピー性皮膚炎など)、米イーライリリーに導出した経口GLP-1受容体作動薬オルフォルグリプロン(2型糖尿病/肥満症)、同ベラステムに導出したRAF/MEK阻害薬アブトメチニブ(がん)など。事業開発部長の浅野由美子氏は「ロシュが疾患戦略をとっている一方、われわれが疾患領域にとらわれない創薬をやる中、どうしても戦略に合わないものは外部のより良いパートナーを探していくということを今後も続けていく」と話しました。
「技術ドリブン」は変えない
説明会で「技術ドリブン創薬という路線は変えないのか」と問われた井川氏は、「変えるつもりはない」と断言。「せっかくの研究者のアイデアを、疾患領域を限定することで潰してしまうのはもったいない。疾患のブームも移り変わるので、疾患を限定するとブームが終わったときに『じゃあ次どうするの』という難しさもある」とし、「技術に軸足を置き、時流に乗って自分たちの技術でできる創薬を展開していくことが中外の価値を高める」との認識を示しました。
井川氏は、中外にとっては「研究戦略実現の1つの手段としてのオープンイノベーション」と「研究者が主体となり、自分たちの創薬の可能性を広げるためのオープンイノベーション」の2点が重要だと指摘。「研究者が自分たちのやりたい創薬を実現するためにボトムアップで上がってきたオープンイノベーションを進めていきたい。中外の創薬はこれまでもほとんどのプロジェクトがボトムアップでアイデアが出てきたものだ。オープンイノベーションにもそれを適用していきたい」と話しました。
AnswersNews編集部が製薬企業をレポート
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