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参天製薬、自由診療市場開拓…近視進行抑制薬「リジュセア」発売、眼瞼下垂薬も申請

更新日

亀田真由

参天製薬が自由診療市場の開拓に乗り出しました。4月、国内初の近視進行抑制薬「リジュセアミニ」を薬価未収載品として発売し、昨年12月には同じく薬価未収載品として販売予定の眼瞼下垂治療薬を申請。海外展開も進めており、将来の成長源として期待しています。

 

 

リジュセア 眼軸の伸長抑え近視の進行を抑制

参天製薬は4月、小児の近視の進行抑制に使う点眼薬「リジュセアミニ」(一般名・アトロピン硫酸塩水和物)を発売しました。自由診療市場向けの薬価未収載品。価格は大半の医療機関が1カ月分4000円程度に設定しており、これとは別に検査や診察の費用がかかります。

 

近視は、眼球の前後の長さ(眼軸長)が伸び、網膜の手前で像が結ばれるようになることで起こる疾患。屋外活動の減少に加え、勉強や読書、スマートフォンなど近くを見る作業(近業)の増加を背景に、裸眼視力1.0未満の近視は増加の一途をたどっています。発症には遺伝的要因もあり、2050年には世界の人口の半分にあたる約47億5800万人に達するとも予測されています。

 

リジュセアは、ムスカリン受容体拮抗薬アトロピンの低濃度製剤(0.25mg/mL)。網膜や強膜に存在するムスカリン受容体に作用し、強膜のリモデリングを阻害することで眼軸の伸長を抑える作用を持ちます。低濃度アトロピンの近視抑制効果は古くから知られており、日本でもこれまで、シンガポールなどから輸入した薬剤を使った治療が一部のクリニックなどで行われていました。参天は国内で5~15歳の小児299人を対象に臨床試験を行い、プラセボとの比較で有効性を検証。防腐剤フリーの使い切り点眼液として承認を取得しました。

 

【「リジュセアミニ」製品概要】 〈製品名/一般名/効能・効果/用法・用量/包装/作用機序/承認/発売〉リジュセアミニ点眼液0.025%/アトロピン硫酸塩水和物/近視の進行抑制 /1回1滴、1日1回就寝前に点眼/プラスチック点眼容器、1回使い切り(防腐剤不使用)/網膜や強膜に存在するムスカリン受容体を介して強膜のリモデリングに関与。眼軸の伸長を抑制する/2024年12月27日/2025年4月21日 ※添付文書や参天製薬のリリースをもとに作成

 

患者負担に懸念、眼科医会「選定医療の対象に」

リジュセアは1日1回、就寝前に点眼します。治療自体は簡便ですが、治療を止めると急速に近視が進行する「リバウンド」の可能性があり、進行が安定する10代後半まで治療を続けるのが望ましいとされています。治療開始後は、安全性を確かめながら1年ほど投与し、効果が確認されればそのまま続けていきます。

 

承認薬の登場に眼科医は期待を寄せる一方、保険適用外のため患者の負担を懸念しています。筑波大医学医療系眼科の平岡孝浩准教授は、6月10日に参天が開催したプレスセミナーで、安全性への懸念が小さいことや年齢による制限が少ないことがメリットだと指摘。ただ、保険診療と自由診療を併せて行う混合診療は禁止されており、リジュセアによる治療開始後は、眼鏡やコンタクトレンズの処方も含めて近視での受診はすべて患者の自己負担となります。日本眼科医会の白根雅子会長は「医療格差にもつながる。眼科医会としては、リジュセアによる近視進行抑制治療が選定医療の対象となり、検査費が保険適用となることを希望している」と話しました。

 

初動は想定通り

期待と懸念を背負っての発売となったリジュセアについて、参天の伊藤毅社長は5月の決算説明会で「初動は想定通り順調に推移している」と明らかにしました。主なターゲットは開業医市場ですが、5月中旬時点ですでに全国1000施設以上で採用が進んでおり、「積極的な治療姿勢を持つ医療機関も多い」(伊藤氏)といいます。説明会では証券会社のアナリストから「垂直立ち上がりもあり得るか」との質問もあり、中島理恵チーフオペレーティングオフィサーは「本当に自由診療で使われるようになるには時間がかかるだろうという覚悟でマーケティング活動は手堅く行っている」としつつ、「SNSなどでのノイズの上がり方を見ると、爆発的に売れ始めるということがあり得ないとは言い切れない」と応じました。

 

ただ、リバウンドへの懸念などもあるため、患者が治療から脱落してしまう「ザルから物が落ちていくようなマーケットの作り方はしない」と伊藤社長は強調。適正使用を前提に着実に市場を構築していく構えです。治療の意義やメリットの啓発はもちろん、患者が効果を実感することで治療が継続される仕組みづくりにも今後数年かけて取り組んでいくとしています。

 

参天は海外でも近視進行抑制薬としてアトロピンの製品化を進めており、欧州では6月5日、「Ryjunea(ライジュネア)」の製品名で承認を取得(0.1mg/mL)。ドイツを皮切りに、北欧、イタリアと順次発売していく予定です。欧州ではほとんどの国で保険診療として市場形成を進める方針で、ゆるやかな立ち上がりを想定しています。2026年3月期のリジュセア/ライジュネアのグローバル売上収益予想は16億円。内訳は日本が約14億円、欧州が約2億円です。

 

今後は27年度にアジア、28年度に中国での発売を計画。先行する日本と欧州での経験をもとに、より多くの潜在患者を抱えるアジア、中国でも市場をリードしたい考えです。29年度には4地域で300億円以上を販売する想定で、ピークセールスは600億円を見込みます。

 

【参天製薬 近視・眼瞼下垂領域 各地域の発売予定年度と推定潜在患者数】〈近視抑制の発売予定年度/各地域〉2025年度/EMEA、日本|2027年度/アジア|2028年度/中国〈眼瞼下垂の発売予定年度/各地域〉2026年度/日本|2027年度/EMEA、アジア|2029年度/中国〈各地域/近視の推定潜在患者数(百万人)〉日本/4|EMEA/14|アジア/18|中国/94〈各地域/眼瞼下垂の推定潜在患者数(百万人)〉日本/30|EMEA/68|アジア/119|中国/174 ※参天製薬の中期経営計画資料をもとに作成

 

近視と眼瞼下垂で29年度に売上収益450億円

参天はアトロピンについて、得意とするライフサイクルマネジメント(LCM)の検討も進めるとしています。具体的なアイディアについては明らかにしていないものの、従来同社が治療薬を提供してきた前眼部の疾患と異なり「薬物が届いて働く場所が違う」(伊藤社長)ため、送達方法など「いろんな改良の手立てを考えている」(同)と言います。

 

一方、次世代近視薬として開発していた「STN1013400」は開発を中止。同薬は選択的ムスカリンM2受容体拮抗薬で、低濃度アトロピンに見られる散瞳を抑えることを意図して開発してきましたが、日本で行った臨床第2a相(P2a)試験データの解析結果を踏まえて中止を決めました。近視の分野では当面、リジュセアでの市場形成に注力します。

 

近視と並んで将来の成長源と期待する眼瞼下垂でも、市場創出に向けた動きが進みます。昨年12月、日本で後天性眼瞼下垂治療薬「STN1013800」(オキシメタゾリン塩酸塩)を申請。26年度にリジュセアと同じ自由診療市場で販売を開始する予定です。欧州と中国でもP3試験が始まっており、29年度までに各市場に投入する計画です。

 

先月公表した29年度までの5カ年の中期経営計画では、最終年度にこれら2つの新領域で450億円(近視300億円、眼瞼下垂150億円)の売り上げを想定しています。参天全体では、24年度の売上収益3000億円を29年度に4000億円まで増やすことを目標としており、増分の約半分を新領域で稼ぐ考え。収益性の高い製品であることから原価率の低減も見込めるといい、同社は29年度のコア営業利益目標800億円(24年度は594億円)にも大きく寄与すると期待しています。

 

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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