
超純水製造装置「Milli-Q」
私が大学の学部4年生で研究室に配属されたのは1997年。あらためて振り返ると恐ろしくなるくらいの年月が経ってしまいましたが、当時からの長年の念願を先日、ついに叶えることができました。
その念願とは「超純水を飲むこと」。超純水とは、不純物を除去してH2O(水)に限りなく近づけた水のことです。ウエットな実験の経験がある理系の人は「Milli-Q水」が頭に浮かぶのではないでしょうか。私も、研究をしていた頃は超純水製造装置「Milli-Q」で作ったMilli-Q水に大変お世話になりました。実験に必要な溶液や培地などはMilli-Q水を使って作っていて、当時の私にはなくてはならないものでした。
それほど身近な存在だったので、飲もうと思えば簡単に飲めたんです。しかし当時は「超純水を飲むと下痢になる」なんてことがまことしやかに言われていて、怖くて飲めずにいました。そんなことを4年前にnoteに書いたんですが、その後、ちょうど1年ほど前、Milli-Q水を飲んだことがある人を発見(当時の上司)。「のど越し爽やかで最高にうまい」「下痢になんてならない」などと熱く語られ、学生時代に飲まなかったことを心底後悔するとともに、飲んでみたい気持ちがさらに高まりました(そのこともnoteに書いています)。
転機が訪れたのは今年3月。参加した日本再生医療学会で、noteを読んでくれていた池田理化(理化学機器を販売する会社)の方に声をかけていただきました。「弊社に来ていただければ超純水を試飲できますし、超純水で淹れたコーヒーも飲めますよ」。
願ってもないチャンスを逃すわけにはいかないと、後日、訪問の約束を取り付け、バイオベンチャーを経営している友人とともにゴールデンウィーク直前にお邪魔してきました。
超純水で淹れたコーヒーは香りも味も全然違う!
心踊らせて池田理化本社に到着すると、コンパクトなMilli-Qが出迎えてくれました。私が研究していた頃と比べると外観はかなり洗練され、水の出が格段に良くなっていることにも驚きました(昔はチョロチョロ~といった感じでしたが、今はジャバーと出てくるんですね)。
「せっかくなので」と素敵なワイングラスに注いでいただき、恐る恐る飲んでみると、元上司から聞いていた通りすっきりしていて飲みやすい!
これが長年飲みたかった超純水かと感動していると、次は普通の水で淹れたコーヒーと超純水で淹れたコーヒーの飲み比べをさせてもらいました。同じコーヒー豆を使って淹れてもらいましたが、香りも味も全然違うんです。超純水コーヒーのほうが立ち上がってくる香りが豊かで、味も濃くかつバランス良く感じました。超純水は不純物を含まないため普通の水より他の物質を取り込みやすく、そのため超純水のほうがよりコーヒーが抽出されたのではないかと考えられます。あぁ、また飲みたい…。
普通の水と超純水でそれぞれコーヒーを淹れていただきました。
先月のコラムの続きのような話になりますが、アニメやマンガとともに「体験」もまたサイエンスに興味を持ってもらう大きなきっかけになると思います。大人も楽しめるサイエンス体験がもっとあると、科学や技術に対する社会全体の理解ももっと進むように感じました。
※コラムの内容は個人の見解であり、所属企業を代表するものではありません。また、この記事で紹介している超純水の試飲は専門的な知識と安全管理の下で実施されたものです。超純水は本来、分析や実験に用いられるものであり、飲用を想定して設計されていません。超純水の飲用は健康リスクを伴う可能性も否定できませんので、あくまでも読み物としてお楽しみください。
黒坂宗久(くろさか・むねひさ)Ph.D.。アステラス製薬アドボカシー部所属。免疫学の分野で博士号を取得後、約10年間研究に従事(米国立がん研究所、産業技術総合研究所、国内製薬企業)した後、 Clarivate AnalyticsとEvaluateで約10年間、主に製薬企業に対して戦略策定や事業性評価に必要なビジネス分析(マーケット情報、売上予測、NPV、成功確率、開発コストなど)を提供。2023年6月から現職でアドボカシー活動に携わる。SNSなどでも積極的に発信を行っている。 X:@munehisa_k note:https://note.com/kurosakalibrary |