
国内主要製薬企業8社の2025年3月期決算は、グローバル展開する主力品の成長に円安も追い風となり、売上収益は前期比10.6%増と2桁増となりました。営業利益は住友ファーマの黒字化もあって倍増。ただ、最大市場の米国ではドナルド・トランプ大統領が医薬品価格引き下げに向けた大統領令に署名し、関税の導入にも意欲を見せており、今期の業績には不透明感が漂っています。
7社が増収「オプジーボ」薬価下げの小野は減収
8社合計の売上収益は10兆9539億円で、前期から約1兆円増加。期初には全体で3.0%増を予想していましたが、為替が想定より円安に振れたことが恩恵となりました。円安による売り上げへのプラス効果は、武田薬品工業が1950億円、アステラス製薬は681億円、第一三共513億円などとなっています。
2桁増収となったのは3社で、各社とも主力製品が好調でした。経営危機に陥った住友ファーマは、北米で販売する基幹3製品に勢いが出ています。期初予想と実績をドルベースで比較すると、前立腺がん治療剤「オルゴビクス」は4億ドルの予想に対し実績は5.44億ドルと36%の上振れ。前期比では86%増加しました。
過活動膀胱治療剤「ジェムテサ」も計画を13%上回りました。子宮筋腫・子宮内膜症治療剤「マイフェンブリー」は想定より市場シェアを伸ばせず未達となりましたが、同社全体の売上収益は26.8%増と8社の中で最も伸びが大きく、復調を感じさせます。
アステラス製薬は「重点戦略5製品」の売り上げが前期比2倍超の3364億円に到達。最主力の抗がん剤「イクスタンジ」は9123億円(前期比21.6%増)でした。第一三共は抗がん剤(ADC)「エンハーツ」が5528億円(39.6%増)まで拡大。両社の増収幅はともに10%台後半で、国内製薬2位の座を争っています。
レケンビ「ブロックバスターへの道着実に」
エーザイはアルツハイマー病治療薬「レケンビ」と抗がん剤「レンビマ」が貢献。上期終了時点で通期を425億円と見積もったレケンビは、443億円で若干の上振れとなりました。今期は765億円を予想しており、内藤晴夫CEOは「ブロックバスターへの道を着実に歩んでいる」と自信を示しています。
8社で唯一、減収となったのは小野薬品工業。抗がん剤「オプジーボ」が市場拡大再算定の共連れで15%の薬価引き下げを受けたのが痛手となりました。適応追加で処方が広がるSGLT2阻害薬「フォシーガ」や、昨年の米デサイフェラ買収でラインアップに加わった消化管間質腫瘍治療薬「キンロック」でカバーできませんでした。
オプジーボは共連れの対象となった腎細胞がんでの売り上げは全体の十数パーセントに過ぎません。しかし、薬価引き下げで252億円の売り上げ減となったことが全体の足を引っ張り、24年3月期までの9期連続増収がストップしました。
第一三共など大幅増益
営業利益は8社で5319億円から1兆667億円へと倍増。2期前の水準に戻しました。前期に3549億円の赤字を出した住友ファーマが288億円の黒字に転換したことが全体を押し上げました。
住友ファーマの黒字化には基幹製品の販売増に加え、北米グループ会社再編などの事業構造見直し、販売費・一般管理費や研究開発費の大幅削減が寄与。国内でも早期退職を行い、25年3月末の国内MR数(マネージャー除く)は1年前から520人減の390人と半数以下になりました。減損損失などを除くコア営業利益は432億円まで改善し、最終利益も236億円を確保しています。
武田薬品の営業利益は、フルベースで60.0%増の3426億円。シャイアー買収に伴う無形資産の償却や減損損失などを除くコアベースでは1兆1626億円にとなります。減損損失が前期から減少し、効率化プログラムで年換算2000億円規模のコスト削減も実現しました。コア営業利益率は25.4%で、25年度以降は「30%台前半から半ば」を目指しています。
アステラス製薬も60.8%の大幅な増益でしたが、金額は410億円にとどまります。コアベースでは主力品の好調な販売を背景に3924億円と過去最高を記録しました。乖離は多額の減損損失計上によるもので、加齢黄斑変性治療薬「アイザーヴェイ」の欧州申請取り下げ(1151億円)や、遺伝子治療プログラム「AT466」の開発計画見直し(518億円)などがのしかかりました。
小野と田辺三菱は減益
第一三共は近年の利益拡大が顕著です。エンハーツの開発投資がかさんだ20年度(638億円、営業利益率6.6%)と比べると、24年度は米国主体の研究開発費や販管費が円安で膨らむ中、金額は5倍超となり、利益率は17.6%まで上昇。ADC技術への投資は本格的な収穫期に入りました。
投資ファンドへの売却が決まった田辺三菱製薬は減益。米国で「ラジカヴァ」が1000億円の大台に乗り、2型糖尿病治療薬「マンジャロ」も407億円(薬価ベース)と好調でしたが、昨年行った早期退職の関連費用がかさみました。小野薬品もデサイフェラ買収に伴う費用増のほか、薬価引き下げや米メルクから受け取るロイヤリティ料率の低下でフル・コアとも営業利益は大幅に減少しました。
米国の薬価引き下げ、先行きに不透明感
今期の予想は、田辺三菱製薬を除く7社で1.3%増収、33.3%営業増益。鳥居薬品を買収する塩野義製薬が売上収益、営業利益とも大きく伸ばします。住友ファーマはアジア事業の売却で減収となるものの、その売却益(450億円)が北米で販売する抗てんかん薬「アプティオム」の特許切れなどをカバーして増益を見込みます。
ただ、米トランプ政権の政策により、先行きの不透明感は高まっています。トランプ氏は医薬品への関税導入に意欲を示し、米国内の医薬品価格引き下げに向けた大統領令に署名。薬価を59~90%下げるとし、混迷の度合いは深まっています。
一方で実行性には疑問も投げかけられており、製薬各社への影響は未知数。関税についても、詳細が明らかにならない中で影響はまだ読めません。今期の業績予想は、米政権の政策に大きく左右されることになるかもしれません。