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【胆道がん】分子標的薬の開発が活発化…ゲノム異常の解明進展、FGFR阻害薬や免疫療法など

更新日

早期発見が難しく、5年生存率も20%程度と治療も難しい胆道がん。薬物療法は化学療法だけですが、ゲノム異常の解明が進み、分子標的薬の開発が活発化しています。エーザイや大鵬薬品工業がFGFR阻害薬を開発中で、「イミフィンジ」「オプジーボ」といった免疫療法薬の開発も進んでいます。

 

難治性がんの代表 死亡者数は6番目に多い

胆道がんは、肝臓で作られる胆汁を運ぶ「胆管」や、胆汁を溜める「胆のう」にできるがんです。アジアで罹患者数が多く、日本では年間2万人以上が発症。患者数は中国に次いで世界で2番目に多いとされています。

 

国立がん研究センター(国がん)の集計によると、2006~08年に「胆のう・胆管がん」と診断された人の5年生存率は22.5%で、膵がんの次に低くなっています。国がんの予測では、19年の年間死亡者数は1万8600人。希少ながんでありながら、がんによる死亡者数としては6番目に多く、膵がんなどとともに難治性のがんの代表と言われます。

 

治療成績がよくないのは、早期発見が難しいことが原因の1つ。国がんの集計によると、診断時に転移がない患者は17.6%にとどまり、全部位の平均(40.0%)を大きく下回っています。

 

がん種による診断時の進行度(単位:%)(部位/限局(転移なし)/領域(隣接臓器・リンパ節転移)/遠隔転移/不明):全部位/40.0/23.7/16.2/20.1、食道/24.4/38.1/19.2/18.3、胃/47.9/21.7/16.3/14.1、大腸(結腸・直腸)/40.3/27.4/16.6/15.6、肝および肝内胆管/52.1/14.8/8.3/24.9、胆のう・胆管/17.6/37.2/22.8/22.4、膵臓/6.1/32.3/42.8/18.8、肺/24.8/26.7/33.4/15.1、皮膚/69.9/7.3/1.7/21.2、乳房/52.7/27.9/4.5/14.9、卵巣/26.5/38.4/15.8/19.3、前立腺/52.8/14/10.3/22.9、膀胱/61.8/10.7/3.5/24.0

 

胆道がんでは外科的手術が唯一、根治を見込める治療法ですが、多くが診断時に転移しているため、手術ができる患者は少ないと言われます。その上、薬物療法も限られており、標準治療は▽ゲムシタビン+シスプラチンの併用療法▽ゲムシタビン+TS-1(テガフール/ギメラシル/オテラシル)の併用療法▽ゲムシタビン+シスプラチン+TS-1の併用療法――のみ。06年にゲムシタビンが胆道がんへの適応拡大の承認を取得し、治療選択肢は広がりましたが、より効果の高い治療薬の開発が求められています。

 

エーザイや大鵬などがFGFR阻害薬を開発

近年、胆道がんでもゲノム異常の解明が進み、高い治療効果を期待できる分子標的薬の開発が活発化しています。国がんがシンガポールの研究グループと行った国際プロジェクトでは、胆道がんの40%に治療標的となり得るゲノム異常があることがわかり、「FGFR2」「IDH1」「HER2」といったドライバー遺伝子が同定されました。

 

その中でも、現在、開発が最も進んでいるのがFGFRを標的とする薬剤。胆道がんの15~30%を占める「肝内胆管がん」では、約14%にFGFR2融合遺伝子があることがわかっており、複数の企業がFGFR阻害薬の開発を進めています。

 

国内では、インサイト・バイオサイエンシズ・ジャパンがpemigatinib(開発コード・INCB54828)の臨床第3相(P3)試験を行っているほか、大鵬薬品工業がTAS-120のP2試験を実施中。先駆け審査指定制度の対象品目に指定されているエーザイの「E7090」は、FGFRに対する高い選択性と結合力が特徴で、現在P1試験の段階にあります。

 

レンビマやトラスツズマブ デルクステカンなども

エーザイは、マルチキナーゼ阻害薬「レンビマ」(一般名・レンバチニブ)でも胆道がんへの適応拡大に向けた開発を行っています。大原薬品工業は、19年4月にバイオベンチャーのジェイファーマからLAT1阻害薬を導入。アミノ酸トランスポーターLAT1を阻害し、アミノ酸の取り込みを抑制することでがん細胞のアポトーシスを誘導する化合物で、現在、進行胆道がんを対象にP2試験を行っています。

 

HER2を標的とする薬剤では、第一三共の抗HER2抗体薬物複合体(ADC)トラスツズマブ デルクステカン(DS-8201)の医師主導治験が、国がんなどで19年9月にスタート。IDH1に対する阻害薬の研究開発も進んでいます。中外製薬のNTR/ROS1阻害薬「ロズリートレク」(エヌトレクチニブ)は19年9月に「NTRK融合遺伝子陽性の進行・再発固形がん」を対象に発売。非常にまれではありますが、NTRK融合遺伝子は胆管がんでも確認されています。

 

日本で開発中の胆道がん治療薬(2019年11月1日現在、*=適応拡大、★=先駆け審査指定制度の対象品目)(製品名・開発コード(一般名)/社名/作用機序):【開発段階P3】イミフィンジ*(デュルバルマブ)/アストラゼネカ/抗PD-L1抗体、INCB54828(pemigatinib)/インサイト/FGFR阻害薬、【開発段階P2/P3】ASLAN001(varlitinib)/シンガポール・アスラン/汎HER阻害薬、M7824(bintrafusp alfa)/GSK(メルクバイオ)/PD-L1/TGFβトラップ阻害融合タンパク質、【開発段階P2】TAS-120(―)/大鵬薬品工業/FGFR阻害薬、JPH203(―)/大原薬品工業/LAT1阻害薬、レンビマ*(レンバチニブ)/エーザイ/マルチキナーゼ阻害薬、【開発段階P1】E7090★(―)/エーザイ/FGFR阻害薬、オプジーボ*★(ニボルマブ)/小野薬品工業/抗PD-1抗体、※各社のパイプライン、臨床試験登録情報などをもとに作成

 

「イミフィンジ」「オプジーボ」などが臨床試験

さまざまながん種への展開が期待される免疫チェックポイント阻害薬も、胆道がんでの開発が進んでいます。

 

アストラゼネカの抗PD-L1阻害薬「イミフィンジ」(デュルバルマブ)は、進行胆道がんの1次治療を対象にP3試験が進行中。小野薬品工業の抗PD-1抗体「オプジーボ」(ニボルマブ)は先駆け審査指定制度の対象に指定されており、現在P1試験を行っています。

 

オプジーボはさらに、職業関連性胆道がんを対象に医師主導のP2試験を開始。職業関連性胆道がんは、印刷工場で使用する化学物質が原因で発症した胆道がんで、通常の胆道がんよりPD-L1が多く発現していると知られています。

 

MSDのキイトルーダは「化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロ不安定性(MSI-High)を有する固形がん」を対象に18年12月に承認。MSI-Highがあれば胆道がんでも使うことができます。

 

免疫療法ではこのほか、メルクバイオファーマとグラクソ・スミスクラインが共同開発するbintrafusp alfa(M7824)が1次治療でP2/3試験を、2次治療でP2試験を実施中。同薬は、免疫を抑制するPD-L1とTGFβを同時に阻害する融合タンパク質です。

 

(亀田真由)

AnswersNews編集部が製薬企業をレポート

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