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核酸医薬

核酸医薬とは

核酸医薬とは、DNAやRNAなどの「核酸」を基本骨格とした医薬品のことです。核酸が直鎖状に数個から百個程度連なった「オリゴ核酸」(オリゴヌクレオチド)を主成分としており、タンパク質の発現を介さずに直接標的に作用します。

 

低分子医薬品や抗体医薬ではアプローチできないmRNAなどを創薬ターゲットとすることができる上、化学合成で製造できることが特徴。従来型の医薬品が疾患に関わるタンパク質を標的としているのに対し、核酸医薬はタンパク質の合成そのものをターゲットとしており、低分子薬や抗体医薬では治療の難しかった疾患に対する医薬品の創出が期待されています。

 

核酸医薬には、メッセンジャーRNA(mRNA)に結合してタンパク質の合成(翻訳)を阻害する「アンチセンス」や、mRNAを切断して遺伝子の発現を抑える「siRNA」、抗体医薬と同じように標的タンパク質に結合してその機能を阻害する「アプタマー」など、さまざまな種類があります。

 

核酸医薬の種類の表。<アンチセンス>標的:mRNA・microRNA、作用部位:細胞内(核内)、作用機序:mRNA・microRNAの分解スプライシングの阻害。<siRNA>標的:mRNA、作用部位:細胞内(核内)、作用機序:mRNAの分解。<microRNA>標的:microRNA、作用部位:細胞内(細胞質)、作用機序:microRNAの補充。<アプタマー>標的:タンパク質(細胞外タンパク質)、作用部位:細胞外、作用機序:機能阻害。<デコイ>標的:タンパク質(転写因子)、作用部位:細胞内(核内)、作用機序:転写阻害。<リボザイム>標的:RNA、作用部位:細胞内(核内)、作用機序:RNA分解。<CpGオリゴ>標的:タンパク質(受容体)、作用部位:細胞表皮、作用機序:免疫賦活。

 

核酸医薬と同じように遺伝子をターゲットとした医薬品に「遺伝子治療薬」がありますが、遺伝子治療薬は遺伝子そのものが主成分。投与した遺伝子が体内でタンパク質を発現することで効果を示す点で、核酸医薬とは異なります。化学合成ではなく、生物の働きを利用して製造することも、核酸医薬とは大きく異なる点です。

 

海外/国内で承認されている核酸医薬

現在、世界では8つの核酸医薬が承認されており、日本ではこのうち2つが承認されています。

 

世界で承認されている核酸医薬の表。Vitravene(fomivirsen)種類:アンチセンス、適応:サイトメガロウイルス性網膜症、承認年:米国98年・欧州99年。Macugen(pegaptanib)種類:アプタマー、適応:加齢黄斑変性、承認年:米国04年・欧州06年・日本08年。Kynamro(mipomersen)種類:アンチセンス、適応:家族性高コレステロール血症、承認年:米国13年。Exondys51(eteplirsen)種類:アンチセンス、適応:デュシエンヌ型筋ジストロフィー、承認年:米国16年。Spinraza(Nusinersen)種類:アンチセンス、適応:脊髄性筋萎縮症、承認年:米国16年・欧州17年・日本17年。HELPLISAV-B(HBsAg Protein/CpG1018)種類:CpGオリゴ、適応:B型肝炎、承認年:米国17年。Tegsedi(inotersen)種類:アンチセンス、適応:トランスサイレチン型家族性アミロイドーシス、承認年:米国18年・欧州18年。Onpattro(patisiran)種類:siRNA、適応:トランスサイレチン型家族性アミロイドーシス、承認年:米国18年・欧州18年。

 

日本では2008年、アプタマーの「マクジェン」(一般名・ペガブタニブナトリウム、対象疾患・加齢黄斑変性)が初の核酸医薬として承認。2017年には、国内初のアンチセンスとして脊髄性筋萎縮症治療薬「スピンラザ」(ヌシネルセンナトリウム)が承認されました。

 

マクジェンは、血管新生に関与するVEGF(血管内皮細胞増殖因子)に結合し、その働きを阻害することで、血管新生を伴う加齢黄斑変性に効果を示します。スピンラザは、SMN2という遺伝子のmRNA前駆体に結合し、スプライシング(DNAから転写された遺伝情報から不要な部分を除去する過程)を調整することで、脊髄性筋萎縮症患者ではつくられないSNMタンパク質の産生を増やします。

 

米国では18年8月、世界初のsiRNAとなる「Onpattro」(patisiran)が、トランスサイレチン型家族性アミロイドーシス治療薬として承認されました。同薬は日本でも同年9月に申請されており、19年半ばごろの承認が見込まれます。

 

日本企業による核酸医薬の開発状況

特許庁の「2015年度特許出願技術動向調査報告書」によると、同年10月時点で行われていた核酸医薬に関する臨床試験は43社141件。実施企業の国籍別に見ると、米国企業が99件(70.2%)、欧州が21件(14.9%)を占め、日本はわずか7件(5%)にとどまりました。核酸医薬に関する特許出願(1980~2013年)も欧米に大きな差をつけられています。

 

日本企業で核酸医薬の臨床開発を行っているのは、武田薬品工業と第一三共、日本新薬、アンジェス、日東電工など。

 

日本企業が開発している主な核酸医薬の表。<武田薬品工業>品名:WVE-120101・WVE-120102、種類:アンチセンス、適応:ハンチントン病、開発段階:P1/2。<第一三共>品名:DS-5141、種類:アンチセンス、適応:デュシエンヌ型筋ジストロフィー、開発段階:P1/2。<日本新薬>品名:NS-065/NCNP-01、種類:アンチセンス、適応:デュシエンヌ型筋ジストロフィー、開発段階:P1/2(日本)・P2(米国)。<アンジェス>品名:AMG0101、種類:デコイ、適応:椎間板性腰痛症、開発段階:P1b(米国)。<日東電工>品名:ND-L02-s0201、種類:siRNA、適応:特発性肺腺維症、開発段階:P2(米国)。品名:NBF-006、種類:siRNA、適応:KRAS変異がん、開発段階:P1(米国)。<リボミック>品名:RBM-007、種類:アプタマー、適応:加齢黄斑変性、開発段階:P2a(米国)。<東レ/ボナック>品名:TRK-250/BNC-1021、種類:siRNA、適応:特発性肺腺維症、開発段階:P1(米国)。

 

日本新薬は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)を対象疾患とするアンチセンス「NS-065/NCNP-01」(viltolarsen)を国立精神・神経医療研究センターと共同開発。日本で臨床第1/2相(P1/2)試験を、米国でP2試験を行っています。

 

同薬は、ジストロフィン遺伝子からジストロフィンタンパク質がつくられる過程で、変異したエクソン(mRNAのうちタンパク質に翻訳される領域。NS-065/NCNP-01の場合は「エクソン53」)を読み飛ばす(スキップ)することで、アミノ酸読み取り枠のずれを修正し、機能を保ったジストロフィンタンパク質の発現を誘導します。

 

こうした治療法は「エクソン・スキップ治療」と呼ばれ、第一三共はエクソン45をスキップするDMD治療薬「DS-5141」を開発中。日本でP1/2試験を実施中です。

 

武田薬品工業は米Wave Life Sciencesと提携し、ハンチントン病を対象にアンチセンスを開発中(P1/2試験)。アンジェスはNF-κBデコイオリゴDNAを椎間板性腰痛症治療薬として開発(米国P1b試験)しており、日東電工は肝硬変向けのsiRNAを米ブリストル・マイヤーズスクイブにライセンスアウトしたほか、KRAS変異のあるがんを対象にsiRNAの開発を進めています。

 

このほかにも、リボミックはFGF2をターゲットとするアプタマーを加齢黄斑変性治療薬として開発中(米国P2a試験)。東レとボナックは、特発性肺線維症を対象に共同で核酸医薬を開発しており、米国でP1試験を行っています。

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