塩野義に行政指導、「アシテア」講演会がガイドラインに抵触/大塚、アイオニスからALS向け核酸医薬を導入 など|製薬業界きょうのニュースまとめ読み(2024年11月22日)
臨床研究法
臨床研究法とは
臨床研究法とは、医薬品など(医療機器や再生医療等製品を含む)の臨床研究を行う際の手続きを定めた法律です。2017年の通常国会で成立し、18年4月1日に施行されました。
臨床研究法制定の背景
臨床研究法は、実施手続きを定めることで臨床研究の質を確保するとともに、情報公開制度を設け、国民の信頼を確保することを通じて臨床研究を推進することを目的としています。
臨床研究法では、法律の目的について次のように書かれています。
この法律は、臨床研究の実施の手続き、認定臨床研究審査委員会による審査意見業務の適切な実施のための措置、臨床研究に関する資金等の提供に関する情報の公表の制度等を定めることにより、臨床研究の対象者をはじめとする国民の臨床研究に対する信頼の確保を図ることを通じてその実施を推進し、もって保健衛生の向上に寄与することを目的とする。 [臨床研究法1条] |
臨床研究法は、2013年以降、高血圧症治療薬「ディオバン」や同「ブロプレス」、白血病治療薬「タシグナ」などで、製薬会社による臨床試験への不適切な関与やデータ改ざんが相次いで発覚したことを受けて制定されました。
当時は治験(医薬品や医療機器の承認申請を目的とした臨床研究)を除く臨床研究は、「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」(厚生労働省・文部科学省)などの倫理指針に基づいて行われており、臨床研究を規制する法律は日本にはありませんでした。一方、欧米では治験以外の臨床研究にも法的な規制があり、不適正事案が相次いだことを機に日本でも法律による規制を設けるべきとの議論が起こりました。こうした経緯を背景に、臨床研究への信頼を回復しようと制定されたのが臨床研究法です。
臨床研究法による規制の対象
臨床研究法は、治験を除く医薬品・医療機器・再生医療等製品の臨床研究を規制の対象としています。中でも「特定臨床研究」に該当するものには後述する実施基準の順守義務を課しており、それ以外の臨床研究では実施基準の順守は努力義務とされています。
複雑なので順を追って説明すると、臨床研究法ではまず、臨床研究について
医薬品等を人に対して用いることにより、当該医薬品等の有効性または安全性を明らかにする研究(当該研究のうち、当該医薬品等の有効性または安全性についての試験が医薬品医療機器等法に規定する治験に該当するものその他厚生労働省令で定めるものを除く)をいう。 [臨床研究法2条] |
と定義されており、承認申請を目的とした治験は対象としないことが明記されています(「医薬品等」とは医薬品・医療機器・再生医療等製品の総称)。
特定臨床研究とは
その上で臨床研究法では、「特定臨床研究」として
(1)医薬品等の製造販売業者またはその子会社などから研究資金の提供を受けて行う当該業者の医薬品等の臨床研究
(2)未承認または適応外の医薬品・医療機器・再生医療等製品を使った臨床研究
と規定。特定臨床研究を行う研究者には、臨床研究のルールを定めた「臨床研究実施基準」の順守義務を課しています。
「特定臨床研究」とは、臨床研究のうち次のいずれかに該当するものをいう。 1.医薬品等製造販売業者またはその特殊関係者(子会社)から研究資金等(臨床研究の実施のための資金をいう)の提供を受けて実施する臨床研究(当該医薬品等製造販売業者が製造販売する、またはしようとする医薬品等を用いるものに限る) 2.次に掲げる医薬品等を用いる臨床研究 ・医薬品医療機器等法に基づく承認を受けていないもの ・医薬品医療機器等法に基づく承認を受けているもの(当該承認にかかる用法・用量その他厚生労働省令で定める事項(用法等)と異なる用法等で用いる場合に限る) [臨床研究法2条2項]
臨床研究(特定臨床研究を除く)を実施する者は、臨床研究実施基準に従ってこれを実施するよう務めなければならない。 2.特定臨床研究を実施する者は、臨床研究実施基準に従ってこれを実施しなければならない。 [臨床研究法4条] |
臨床研究法の対象外とされた治験は、医薬品医療機器等法と、それにぶらさがる「医薬品の臨床試験の実施の基準に関する省令」(GCP省令)で規制されます。
臨床研究実施基準
臨床研究法では、特定臨床研究を行う研究者に対し、「臨床研究実施基準」を順守するよう義務付けています(それ以外の臨床研究では順守は努力義務)。
臨床研究実施基準とは、臨床研究を行う際のルールを定めたものです。臨床研究法では次のようなことを盛り込むとされており、具体的な内容な臨床研究法の施行規則で定められています。
臨床研究実施基準においては、次に掲げる事項について定めるものとする。 1.臨床研究の実施体制に関する事項 2.臨床研究を行う施設の構造設備に関する事項 3.臨床研究の実施状況の確認に関する事項 4.臨床研究の対象者に健康被害が生じた場合の補償および医療の提供に関する事項 5.特定臨床研究に用いる医薬品等の製造販売する、またはしようとする医薬品等製造販売業者やその特殊関係者の関与に関する事項 6.その他臨床研究の実施に関し必要な事項 [臨床研究法3条2項] |
施行規則で定められている実施基準では、臨床研究の基本理念にはじまり、研究責任医師の責務や研究計画書に記載すべき内容、臨床試験が正しく行われているか確認する「モニタリング」「監査」のルール、研究対象者に対する補償、利益相反管理などについて規定されています。
臨床研究実施基準 (1)臨床研究の実施体制に関する事項 ・臨床研究の基本理念 ・研究責任医師等の責務 ・実施医療機関の管理者等の責務 ・多施設共同研究 ・疾病等発生時の対応等 ・研究計画書 ・不適合の管理 (2)臨床研究を実施する施設の構造設備に関する事項 (3)臨床研究の実施状況の確認に関する事項 ・モニタリング ・監査 ・モニタリングおよび監査に従事する者に対する指導等 (4)研究対象者に対する補償 (5)利益相反管理 ・利益相反管理基準の策定 ・利益相反管理計画の作成 (6)その他臨床研究の実施に関し必要な事項 ・認定臨床研究委員会の意見への対応 ・苦情および問い合わせへの対応 ・情報の公開 ・医薬品等の品質の確保等 ・環境への配慮 ・個人情報の保護 (臨床研究法施行規則9~38条、項目のみ抜粋) |
特定臨床研究を行う場合の手続き
臨床研究法では、特定臨床研究を行う場合の手続きについて、次のように規定しています。
特定臨床研究を行う場合、研究者はまず、研究の概要や企業の関与などを記載した「実施計画」を作成する必要があります。作成した実施計画は、厚生労働大臣が認定する「認定臨床研究審査委員会」が審査し、研究実施の適否や実施にあたって留意すべき事項についての意見を伝えます。その後、研究者は、認定臨床研究審査委員会の意見を添えて厚生労働大臣に実施計画を提出した上で、特定臨床研究を行います。
特定臨床研究を行う場合に守るべきこと
臨床研究法では、特定臨床研究を行う研究者に次の7点を義務付けています。
(1)臨床研究実施基準の順守 (2)実施計画の提出・順守 (3)研究対象者の同意の取得 (4)研究対象者の個人情報保護 (5)秘密保持 (6)研究に関する記録の作成・保存 (7)認定臨床研究審査委員会・厚生労働大臣への報告(特定臨床研究に起因すると疑われる疾病・障害・死亡・感染症が発生した場合) (8)認定臨床研究審査委員会・厚生労働大臣への定期報告(特定臨床研究の実施状況に関する定期的な報告) [臨床研究法4・5・7・9・10・11・12・13・14・17・18条] |
認定臨床研究審査委員会
「臨床研究審査委員会」は、研究者から提出された特定臨床研究の実施計画を審査し、意見を述べる組織です。認定臨床研究審査委員会を設置できるのは、
▼医療機関を持つ学校法人・国立大学法人・地方独立行政法人
▼医療の提供または臨床研究・治験を支援する独立行政法人
▼医学医術に関する学術団体・一般社団法人・一般財団法人・特定非営利活動法人
で、審査委員会の委員については施行規則で以下のように規定されています。
・医学または医療の専門家 ・臨床研究の対象者の保護および医学または医療分野での人権の尊重に関して理解のある法律の専門家、または生命倫理に関する見識を有する人 ・上記以外の一般の立場の人 ・委員は5人以上で、男性と女性が1人以上含まれる ・同じ医療機関に所属している人が半数未満 ・臨床研究審査委員会の設置機関に属さない人が2人以上含まれる [臨床研究法施行規則66条] |
認定臨床研究審査委員会の認定は厚生労働大臣が行います。2018年6月30日現在、全国で65の臨床研究審査委員会が認定を受けています。
製薬企業などからの資金提供の公表
資金提供に関する契約の締結
臨床研究法32条では、製薬企業などが自社の医薬品等を使った臨床研究に資金提供を行う場合は契約を結ぶことを義務付けています。具体的に契約で定めるべき内容は、施行規則で以下のように規定されています。
▼契約締結日 ▼特定臨床研究の内容と機関 ▼研究資金等の提供を行う医薬品等製造販売業者・その特殊関係者の名称・所在地、実施医療機関の名称・所在地 ▼研究責任医師と研究代表医師の氏名 ▼研究資金等の額、内容と支払いの時期 ▼研究資金等の提供に関する情報の公表について ▼特定臨床研究の成果の取り扱いについて ▼医薬品等の副作用、有効性・安全性に関する情報提供について ▼厚生労働省が整備するデータベースへの登録による公表について ▼特定臨床研究の対象者に健康被害が生じた場合の補償および医療の提供について ▼利益相反管理計画の作成について ▼研究の管理等を行う団体における実施医療機関に対する資金提供の情報提供について ▼その他研究資金等の提供に必要な事項 [臨床研究法施行規則88条] |
資金提供に関する情報の公表
臨床研究法33条ではさらに、特定臨床研究に資金提供を行った場合には、その事実をインターネットなどを通じて公表することを製薬企業などに義務付けています。
臨床研究法に基づく公表の対象となる資金提供先は、
▼研究責任医師
▼研究責任医師が所属する以下の機関
・医療機関
・大学その他の研究機関
・一般社団・財団法人、NPO法人など
▼研究の管理等を行う団体(研究資金等を管理する団体、臨床研究の支援や受託、複数の実施医療機関の事務を統括管理する団体)
と規定されています(臨床研究法施行規則89条)。
公表する資金の範囲は
▼研究資金等
▼寄付金
▼原稿執筆および講演その他の業務に関する報酬
で、それぞれ提供先や件数などとともに公表しなければなりません(臨床研究法90条)。資金提供の公表は2018年10月1日以降に始まる事業年度から適用され、情報の提供は事業年度が終わって1年以内に行わなければなりません。
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