塩野義に行政指導、「アシテア」講演会がガイドラインに抵触/大塚、アイオニスからALS向け核酸医薬を導入 など|製薬業界きょうのニュースまとめ読み(2024年11月22日)
薬価改定のしくみ
薬価改定とは
薬価改定とは、医療用医薬品の公定価格である薬価を見直すことです。原則として、2年に1回、4月の診療報酬改定にあわせて行われます。ここで決まった薬価は、次の改定まで変わりません。
市場実勢価格にあわせて薬価を引き下げる
薬価改定が行われると、大半の薬は改定前に比べて薬価が下がります。なぜかというと、医薬品卸売業者と医療機関・薬局の間では、薬は薬価よりも低い価格で売買されており、これに合わせて薬価を引き下げるのが、薬価改定の基本だからです。
医療用医薬品の市場は、表向きは公定価格の形をとりながら、その裏では一般の消費財と同じように自由な価格競争が行われているところに大きな特徴があります。医療機関や薬局は公定価格である薬価に基づいて薬の費用を請求する一方、製薬企業から卸、卸から医療機関・薬局に販売される価格は、当事者間で自由に設定することができるのです。
薬価差益とは
医療機関・薬局にとっては、卸からの仕入れ値と公定価格である薬価の差額はそのまま利益になります(これを薬価差益という)。このため、医療機関や薬局は卸と交渉し、可能な限り安い価格で薬を仕入れようとします。生活習慣病領域などのように、競合品が多ければ価格競争も激しくなり、実際に市場で流通する価格は下がりやすくなります。
薬価改定は、実際の流通価格(卸から医療機関・薬局に販売された価格=市場実勢価格)に合わせて薬価を引き下げる目的で行われます。このため、薬価改定はずっとマイナス。最近は改定のたびに全医薬品で平均5~6%薬価が引き下げられてきました。18年度は薬価制度の大幅な見直しが行われたため、引き下げ率は7.48%と大きくなりました。
市場実勢価格は「薬価調査」で調べる
薬価改定は市場実勢価格に合わせて公定価格を引き下げるのが基本ですので、改定を行うには、まず市場実勢価格を把握しなければなりません。そのために行われるのが、薬価調査と呼ばれる調査です。
薬価調査のしくみ
薬価調査は、薬価改定の基礎資料を得る目的で厚生労働省が薬価改定の前の年に行う調査。販売側(主に医薬品卸)への調査と購入側(病院・診療所・薬局)への調査からなり、薬価基準に収載されている医薬品の品目ごとの販売(購入)価格と販売(購入)数量を、販売側と購入側それぞれに回答してもらいます。
2018年度改定に向けた薬価調査は、前年の17年9月取引分を対象に同年10~11月に行われ、
【販売サイド調査】
医薬品卸の営業所など6291カ所(全数)
【購入サイド調査】
病院約864カ所(抽出)
診療所1036カ所(抽出)
薬局1926カ所(抽出)
が対象となりました。
厚労省は薬価調査で集めた個々の取引価格から、品目ごとに加重平均値を算出。これを市場実勢価格とし、消費税と、流通コストを担保するための調整幅(改定前薬価の2%)を足した額が改定後の新たな薬価となります。
乖離率とは
薬価改定の時期になると、乖離率という言葉をよく耳にするようになります。乖離率とは、医薬品の市場実勢価格(加重平均値)と薬価の差をパーセンテージで表した数値のことです。例えば、薬価100円の薬の市場実勢価格が90円だった場合、乖離率は10%。乖離率から調整幅2%を差し引いた分が、薬価改定での引き下げ幅となります。
2017年に行われた薬価調査によると、薬価収載されている全医薬品の平均乖離率は9.1%でした。
薬の市場実勢価格は、生活習慣病など競合が多く価格競争の激しい領域で下がりやすくなります。17年の薬価調査から薬効群ごとの乖離率を見てみると、血圧降下剤(13.3%)や消化性潰瘍剤(13.1%)、高脂血症用剤(12.7%)などが平均を上回った一方、内用の腫瘍用薬(6.6%)、注射の腫瘍用薬(6.0%)、抗ウイルス薬(5.8%)などは平均を下回りました。
平均乖離率は1997年まで10%を超えていましたが、03年にはいったん6.3%まで下がり、その後はだいたい8%台で推移しています。17年に9.1%と高い値になったのは、価格競争が激しく乖離率も大きい後発医薬品の使用が広がったことが背景にあると考えられます。
薬価改定には特別ルールがある
薬価改定は市場実勢価格に合わせて薬価を引き下げるのが基本ですが、いくつかの特別ルールが存在します。主なものを見ていきましょう。
(1)新薬の薬価を特許切れまで維持する新薬創出加算
新薬創出・適応外薬解消等促進加算(略して新薬創出加算)は、一定の条件を満たす特許期間中の新薬の薬価が下がらないようにする仕組みです。ドラッグ・ラグの解消や革新的新薬の開発促進を目的に、2010年度に導入されました。
新薬創出加算を受けられるのは、後発品が薬価収載されていない、または薬価収載から15年たっていない新薬で、
・希少疾病用医薬品
・厚生労働省の公募に応じて開発された医薬品
・薬価算定時に画期性加算や有用性加算がついた医薬品
・新規作用機序の医薬品(革新性や有用性があるもの)
・新規作用機序医薬品と同じ作用機序を持つ医薬品で、最初の品目が薬価収載されてから3年以内・3番手以内に薬価収載された医薬品
の条件のいずれかを満たす新薬です。
新薬創出加算には、企業に対する要件も設けられています。ドラッグ・ラグ解消や新薬開発に対する取り組みを企業ごとに点数化し、上位25%に入った企業は加算が全額もらえる一方、最低点数の場合は2割減、それ以外は1割減となります。
(2)薬価改定時に行われるそのほかの加算
薬価改定時には新薬創出加算以外にも、発売後の適応拡大やエビデンスの創出によってつく加算があります。
小児適応の追加に関する加算
薬価収載後に小児に対する適応や用法・用量が追加された医薬品を評価する加算です。ただし、臨床試験を新たに実施していないなど、製薬会社の負担が低いと判断された場合は加算の対象になりません。
希少疾病などの適応追加に関する加算
薬価収載後に希少疾病に対する適応や用法・用量が追加された医薬品などを評価する加算です。小児加算と同様に、製薬の負担が小さいとされた場合には加算がつきません。
真の臨床的有用性が検証された医薬品への加算
市販後の臨床試験などを通じて真の臨床的有用性が検証された医薬品を評価する加算です。根拠となる試験結果に関する論文が国際的に信頼できる学術雑誌に掲載されたことなどが条件となります。ただし、大学など外部の研究期間が行った試験は対象になりません。
定義が抽象的でわかりにくいので、実際にこの加算が適用された医薬品を見てみると、18年度改定では高脂血症治療薬「レパーサ」が、16年度改定では糖尿病治療薬「ジャディアンス」が、いずれも臨床試験で心血管イベントの発症リスク軽減を示したことが評価され、加算を取得しました。
(3)長期収載品の薬価引き下げルール
特許の切れた先発医薬品、いわゆる長期収載品には、市場実勢価格に基づく改定に追加して薬価を引き下げる2つのルールがあります。
いわゆる「Z2」
1つは、後発品への置き換え率に応じて薬価を追加的に引き下げるルール。検討過程で厚労省がそう呼んでいたことから、このルールは「Z2」という名称で呼ばれています。
Z2は、後発品の薬価収載から5年たった長期収載品に適用されます。後発品への置き換え率に応じて、
置き換え率40%未満…2%
置き換え率40%以上60%未満…1.75%
置き換え率60%以上80%未満…1.5%
と引き下げ幅が決められています。
いわゆる「G1」「G2」「C」
もう1つは、18年度の薬価制度改革で新たに導入された、いわゆる「G1」「G2」「C」。Z2の適用から5年が経過した長期収載品(=後発品の発売から10年がたった長期収載品)が対象で、長期的に後発品と同じか近い水準まで薬価を引き下げるルールです。
G1は後発品への置き換え率が80%以上の長期収載品に適用されます。Z2の適用から5年がたった後の最初の薬価改定で後発品の2.5倍まで薬価を引き下げ、その後6年かけて後発品と同じ薬価になります。G1の対象となる長期収載品には採算の観点から、受け皿となる後発品の増産などを条件に販売をやめることも認められます。
G2は後発品への置き換え率が80%未満の長期収載品が対象。G1同様、Z2の適応から5年がたった後の最初の薬価改定で後発品の2.5倍まで薬価を引き下げ、その後は10年かけて後発品の1.5倍まで薬価を引き下げます。
後発品の発売から10年たった長期収載品の中には、すでに薬価が後発品の2.5倍以下になっているものも少なくありません。こうした長期収載品は、G1・G2ではなく補完的な引き下げルールの対象となります。これがいわゆる「C」で、後発品への置き換え率に応じて1.5%~2%引き下げます。
(4)予想を超えて売れた薬の薬価を下げる市場拡大再算定
市場拡大再算定は、事前の予測を超えて大幅に市場が拡大した(=売り上げが大きくなった)医薬品の薬価を引き下げるルールです。
通常の市場拡大再算定
市場拡大再算定の対象となるのは、
(1)原価計算方式で薬価算定された医薬品で、年間販売額150億円超かつ予測年間販売額の2倍以上、または年間販売額100億円超かつ予測年間販売額の10倍以上
(2)類似薬効比較方式で薬価算定された医薬品のうち、適応拡大などによって市場実態が大きく変わった医薬品で、年間販売額150億円超かつ予測年間販売額の2倍以上
の医薬品です。薬価の引き下げ幅は、(1)の場合は最大25%、(2)の場合は最大15%。薬理作用が類似する医薬品も同様に引き下げを受けます。
特例拡大再算定
市場拡大再算定には、特に売り上げが大きい医薬品の薬価を引き下げる特例(特例拡大再算定)があります。対象となる医薬品の条件は
(1)年間販売額1500億円超かつ予測年間販売額の1.3倍以上
(2)年間販売額1000億円超かつ予測年間販売額の1.5倍以上
で、引き下げ幅は(1)が最大50%、(2)が最大25%です。
市場拡大再算定の特例は16年度の薬価制度改革で設けられた新しいルールです。当時爆発的に売れたC型肝炎治療薬「ハーボニー」など高額な薬剤が医療保険財政を圧迫するとの懸念から導入されたルールですが、製薬業界からは「イノベーションを阻害する」と強い反発が出ました。
薬価改定を待たずに行われる再算定
18年度にはさらに、2年に1度の薬価改定を待たずに市場が急拡大した医薬品の薬価を引き下げる仕組みも導入されました。市場規模が350億円を超えたものが対象で、年4回ある新薬の薬価収載のタイミングに合わせ、市場拡大再算定のルールに従って薬価の引き下げが行われます。
(5)そのほかの再算定
薬価改定時に行われる再算定には、市場拡大再算定のほかにも、用法用量変化再算定と効能変化再算定があります。
用法用量変化再算定は主な適応の用法・用量に変更があった医薬品、効能変化再算定は主な適応が変わった医薬品が対象です。用法用量変化再算定は市場拡大再算定と同じように、年4回ある新薬の薬価収載のタイミングに合わせて適用されます。
(6)薬価が低くて採算がとれない薬を救済するルール
2年に1度の薬価改定で市場実勢価格にあわせて薬価を引き下げることを原則とする日本の薬価制度では、薬価収載から長い年月がたった医薬品の中には、医療上欠かすことができないにもかかわらず、薬価が大きく下がって採算がとれなくなってしまうものも少なくありません。
薬価改定には、こうした医薬品の薬価を維持したり、引き上げたりして、安定的な供給を継続できるようにする3つのルールがあります。
基礎的医薬品の薬価を維持するルール
1つ目は16年の薬価制度改革で導入された、基礎的医薬品の薬価を維持するルールです。
このルールでは、
・医療上の位置付けが確立し、広く臨床現場で使用されていることが明らかである(一般的なガイドラインに記載され、広く医療機関で使用されている)
・薬価収載から25年以上経過している
・乖離率がすべての医薬品の平均乖離率を超えてない
ものを基礎的医薬品と定義し、最も販売額が大きい銘柄に価格を集約してその薬価を維持します。
具体的には、▽過去に不採算品再算定を受けたもの▽病原微生物▽麻薬▽生薬▽軟膏基剤▽歯科用局所麻酔剤――が対象で、18年度の薬価改定では計261成分660品目が適用を受けました。
不採算品再算定
不採算品再算定は文字通り、薬価が下がって採算がとれなくなった医薬品の薬価を算定し直すルールです。このルールが適用されると、原価計算方式で算定された額が改定後の薬価となります。
最低薬価
最低薬価は、剤形区分ごとに設定された最低価格のこと。市場実勢価格に基づいて改定される薬価がこれを下回ると、最低薬価が改定後の薬価となります。
21年度から薬価は毎年改定に
これまで2年1度行われてきた薬価改定ですが、21年度からは通常の改定の谷間の年にも一部の医薬品を対象に薬価改定を行うことが決まっています。
これは、薬価の引き下げを通じて医療費削減を狙う政府が16年末にまとめた「薬価制度の抜本改革に関する基本方針」を受けたもの。この方針では対象となる医薬品について「(市場実勢価格と薬価の)価格乖離が大きい品目」とされていますが、具体的にどれくらいの乖離があるものを対象とするのか、その範囲についてはまだ決まっていません。
19年度には消費増税に伴う薬価改定が予定されており、18~20年度は3年連続で薬価改定が行われることになります。谷間の年の薬価改定の対象品目は、この3年連続の薬価改定の影響なども踏まえた上で、20年中に決めることになっています。
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