25年度薬価改定、全品目の53%対象/科研、米ベンチャーを157億円で買収 など|製薬業界きょうのニュースまとめ読み(2024年12月20日)
新薬の薬価はどう決まる?
新薬の薬価が決まるまで
日本では、医薬品医療機器等法に基づいて承認を得た(=有効性と安全性が確認された)医療用医薬品薬は、ほぼすべて公的医療保険の適用となります。保険が適用されるためには、薬価を決めて薬価基準に収載されなければなりません。
薬価収載までの流れ
新たに承認された新薬の薬価はどうやって決まるのでしょうか。下の図は、新薬が承認されてから薬価収載されるまでの流れを示したものです。
製薬企業が「薬価収載希望書」を提出
新薬の薬価を決めるには、まず、製薬企業が厚生労働省に「薬価基準収載希望書」を厚生労働省に提出します。薬価基準収載希望書は、医薬品の特徴や希望する薬価とその根拠、予測投与患者数などを記載したもので、これが薬価を決める基礎資料の一つとなります。
新薬の薬価基準収載希望書は、医薬品医療機器法に基づいて正式に製造販売承認を取得してから提出するのではなく、厚労省の薬事・食品衛生審議会医薬品第一部会/第二部会(医薬品・医療機器総合機構による承認審査が終わった薬について、実際に承認していいかどうかを有識者が審議する会議)で承認が了承された段階で、事前に提出しておきます。
薬価算定組織が原案をまとめ、中医協が了承
新薬が正式に承認されると、製薬企業から提出された資料などをもとに、厚労省が薬価の原案(算定原案)を作成します。
算定原案は、有識者で構成する薬価算定組織で検討され、ここで薬価の算定案を決めて製薬企業に通知。企業側もこれに不服がない場合は、厚生労働大臣の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)に報告し、了承されれば晴れて薬価収載となります。
薬価に納得いかなければ不服申し立ても可能
薬価算定組織が決めた算定案に不服がある場合、製薬企業は不服意見書を提出することができます。これが提出されると、薬価算定組織は再び会合を開き、企業から意見を聞いた上で原案の修正を検討。検討結果を企業に通知し、中医協で了承されれば薬価収載されます。
不服意見に対する検討結果にも納得いかなければ、製薬企業は薬価収載を見送って厚労省と交渉を続けたり、薬価収載希望書を取り下げたりすることも可能です。
新薬の薬価収載は2月・5月・8月・11月の年4回
新薬の薬価収載のタイミングは、2月、5月、8月、11月の年4回と決まっています。薬価改定が行われる年は、2月の薬価収載が改定後の4月にずれます。ただし、抗HIV薬など、年4回のタイミングにかかわらず緊急的に薬価収載される薬もあります。
薬価収載は、承認から原則60日以内、遅くとも90日以内に行うというルールがあります。このため、新薬の承認は通常、3月、6月、9月、12月(薬価改定のある年は12月の承認が1月にずれる)に行われます。ちなみに、後発医薬品の薬価収載は6月と12月(承認は2月と8月)の年2回です。
「似た薬は同じ薬価」が原則
ここからは、新薬の薬価の算定方法をみていきます。下の図は、新薬の薬価算定のフローを示したものです。
新薬の薬価算定の方法は、その薬と似た薬(類似薬)がすでに販売されているかどうかによって大きく違います。
類似薬がある場合…類似薬効比較方式
類似薬がある場合、類似薬効比較方式という方法で薬価の算定を行います。これは、対象疾患や作用機序、投与経路などが最も似ている最類似薬を基準に薬価を決める方法です。「似た薬は同じような値段にする」という算定のしかたで、日本ではこれが薬価算定の大原則となっています。
類似薬効比較方式は、その新薬に新規性があるかどうかで2つに分かれます。
新規性があると判断された新薬に適用される類似薬効比較方式(I)では、類似薬とは違う新規の作用機序を持っていたり、既存薬を上回る有効性・安全性が示されていたりする場合には、補正加算によって薬価が上乗せされます。
一方、新規性が乏しいと判断されれば類似薬効比較方式(II)で算定が行われますが、こちらは補正加算はつきません。
類似薬がない場合…原価計算方式
類似薬がない場合は原価計算方式と呼ばれる方法で薬価を算定します。
これは、製造原価(原料費、労務費、製造経費)や販売管理費(研究開発費、一般管理費、販売費)、流通経費を積み上げ、そこに製薬企業の利益を乗せた額を薬価とする方法です。原価計算方式でも、優れた新薬には類似薬効比較方式(I)と同じように補正加算がつきます。
外国平均価格調整と規格間調整
類似薬効比較方式(I)、(II)または原価計算方式で算定された価格は、その後いくつかの調整を経て最終的な薬価が決まります。
欧米主要国との価格差を縮める外国平均価格調整
1つは、欧米主要国との価格差が大きくならないようにする外国平均価格調整。アメリカ、イギリス、ドイツ、フランスの4カ国の平均価格と比べて、高すぎる場合は引き下げ、安すぎる場合には引き上げの調整が行われます。
外国平均価格調整は、2017年度までは類似薬効比較方式(I)、(II)、原価計算方式のすべての薬価算定方式で行われていましたが、「似た薬は同じような薬価にする」という原則になじまないため、18年度からは▽原価計算方式で算定される新薬▽類似薬効比較方式で算定される新薬で、薬理作用類似薬が存在しない新薬――だけに適用するとルールの見直しが行われました。
類似薬と規格ごとの薬価の比率をそろえる規格間調整
もう1つは規格間調整。最もよく使われる汎用規格以外の規格(非汎用規格)について、薬価が類似薬の汎用規格と非汎用規格の比率と同じになるように調整します。規格間調整は類似薬効比較方式で算定される薬だけに行われるもので、原価計算方式にはこの調整はありません。
類似薬効比較方式とは
ここからは類似薬効比較方式について詳しくみていきます。
類似薬と「1日薬価」をあわせる
類似薬効比較方式とは、類似薬(似た薬)を基準に新薬の薬価を算定する方法で、新薬の薬価算定は原則としてこの方法で行われます。その新薬に新規性があるかどうかで、類似薬効比較方式(I)と類似薬効比較方式(II)に分かれます。
類似薬は、
▼効能・効果
▼薬理作用
▼組成・化学構造式
▼投与形態、剤形区分、剤形・用法
からみて似ている薬をピックアップ。中でも最も似ている薬(最類似薬)を基準として薬価を決めます。類似薬は原則として、薬価収載後10年以内の新薬で後発医薬品が薬価収載されていない薬から選びます。
類似薬効比較方式では「1日薬価合わせ」という考え方を採用しています。
これは文字通り、1日あたりの薬価が類似薬と同じになるように薬価を設定するということ。例えば、1日2錠服用する新薬の薬価を、1錠50円で1日3錠服用するA錠を類似薬として決めるとすると、A錠の1日薬価は50円×3錠=150円なので、新薬の1錠あたりの薬価は150円÷2錠で75円となります。
新規性の乏しい新薬は類似薬効比較方式(II)
類似薬のある新薬の場合、基本的に類似薬効比較方式(I)で薬価算定されますが、▼補正加算の対象にならない▼薬理作用が似ている薬がすでに3つ以上存在している――場合は、新規性が乏しいと判断され、類似薬効比較方式(II)によって薬価を決めます。
類似薬効比較方式(II)が適用されると、過去数年間の類似薬のうち、最も価格の低いものと同じ薬価になります。具体的には、
(1)過去10年間に薬価収載された類似薬の1日薬価の平均価格
(2)過去6年間に薬価収載された類似薬の最も低い1日薬価
のどちらか低い額とするのが原則。これらが、
(3)類似薬効比較方式(I)で算定した場合の薬価
を超える場合は、さらに
(4)過去15年間に薬価収載された類似薬の1日薬価の平均価格
(5)過去10年間に薬価収載された類似薬の最も低い1日薬価
を算出。(3)、(4)、(5)の最も低い額とします。
原価計算方式とは
もう1つの薬価算定方法である原価計算方式についても詳しくみていきましょう。
製造や供給にかかる費用を積算
原価計算方式とは、新薬の製造や供給にかかる費用を足し合わせて薬価を算定する方法です。類似薬がない新薬の薬価を決める場合、この方法がとられます。
具体的には、製造原価(原料費、労務費、製造経費)や販売費・一般管理費(研究開発費、販売費など)に製薬企業の営業利益を乗せ、さらに流通経費を加え、最後に消費税を足して薬価を算定します。販売管理費や営業利益、流通経費は、各種統計から得られた医薬品製造業の平均的な係数(比率)を用いて算出するのが原則です。
革新性が低いと判断された場合には、営業利益の係数をマイナス50%~0%の範囲で引き下げることもできます。逆に、既存薬に比べて優れていると評価された場合には、類似薬効比較方式(I)と同じように補正加算がつきます。
原価の開示度合いに応じて加算額が変わる
原価計算方式をめぐってはこれまで、製造原価の細かな内訳が不明確なまま薬価算定が行われおり、その透明性の低さが問題視されてきました。
このため厚労省は18年度から、原価の開示度合いに応じて補正加算に差を設ける新たな仕組みを導入しました。製造原価のうち80%以上が開示された場合は補正加算が全額上乗せされる一方、50~80%の場合は本来得られるはずだった補正加算の6割、50%未満の場合は2割に減らされます。
一方で、原価計算方式では従来、営業利益の係数を上げ下げすることで新薬の画期性や有用性を評価してきましたが、18年度からは加算前の薬価全体に補正加算が上乗せされることになりました。
優れた新薬には薬価が加算される
類似薬効比較方式(I)と原価計算方式で薬価算定される新薬には、その画期性や有用性などに応じて補正加算がつく場合があります。薬価を引き上げることで、新薬のイノベーションを評価するものです。
過去に5品目しか適用されたことがない画期性加算
補正加算には7つの種類があります。最も加算率が高いのが画期性加算で、加算率は70~120%。画期性加算で最高の評価を受けると、薬価が2.2倍に引き上げられることになります。ただ、これまでに画期性加算をとった品目は5品目だけ。この加算を受けるためには、かなり高いハードルを超えなければなりません。
画期性加算をとった品目 |
画期性加算の要件の一部を満たす新薬には、有用性加算(I)や有用性加算(II)がつきます。市場性加算、は希少疾病用医薬品など市場規模の小さい疾患に対する新薬が対象です。小児を対象にきちんと臨床試験を行い、効能・効果や用法・用量に明示された新薬は、小児加算で評価されます。
先駆け審査指定制度の対象品目を評価する先駆け加算
2016年度の薬価制度改革で新設された先駆け審査指定制度加算は、国の先駆け審査指定制度の対象品目を評価する加算です。
先駆け審査指定制度は、世界に先駆けて日本で承認取得を目指す画期的新薬を審査で優遇する制度。厚労省は本来なら平均12カ月かかる承認審査を、対象品目では6カ月以内に短縮するとしています。18年2月に対象品目で初めて承認された塩野義製薬の抗インフルエンザウイルス薬「ゾフルーザ」は、17年10月の申請から5カ月で承認を取得しました。
先駆け審査指定制度の対象品目に指定されている医薬品は、ゾフルーザを含めて10品目。18年3月に薬価収載されたゾフルーザには、10%の先駆け審査指定制度加算がつきました。
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